第1話 E判定
勇者召喚。
それは異世界より、優秀な戦士を呼び出す儀式である。
◆◇◆◇◆◇
異世界ファーレス。
その世界にある、愛と繋がりを尊ぶ聖愛魔導学園。
この学園では20年に1度、異世界から7人の勇者が召喚される。
その目的は世界を守るため?
まあある意味、世界を守る為と言えなくもないだろう。
だがそれは皆が考える様な、勇者に魔王を倒して貰ってと言った直接的な物ではない。
――彼らの最大の仕事、それは種をばら撒く事だった。
優秀な血を異世界から取り込み、人類の進化を促す。
そうする事で世界を安定させ、よりよい方向へと変える。
それが学園で行われる勇者召喚の目的だ。
そのための種馬として、この世界では定期的に勇者召喚が行われている。
と言うのが、聖愛魔導学園理事長からの説明だった。
「さあ、皆さまには最初に能力チェックを受けて頂きます」
「分かりました」
髭の生えた老人――学園の理事長の言葉に全員が素直に従う。
いきなり召喚されて、しかも帰れないとか言われたら普通はもっとあれそうな物である。
だがそうならないのは、勇者はいくらでも嫁を娶る事が出来ると言われたせいだろう。
英雄色を好むって言うしな。
かくいう俺も、綺麗な嫁さんが出来るなら別にいいかなと思っていたりする。
元の世界に親しい親類や友人なんかもいないし。
――俺は1月程前の事故で、両親を亡くしてしまっている。
祖父母も大分前に他界していたし、それ以外の親戚とは付き合いも全くない。
まあ親戚付き合いが無かったのは、俺がかなりの問題児だったからな訳だが……
この際、その辺りはどうでもいいだろう。
「ここです」
学園の理事長に案内された広い場所には、人間よりも巨大な水晶が設置されていた。
その下には、よく分からない謎の魔法陣が描かれている。
どうやらそれに触れる事で、勇者としての資質が分かる様だ。
召喚された勇者達――俺以外の6人が、次々と測定されていく。
全員、だいたいBかAのどちらかである。
因みに、測定の最高値はSSSランクだそうだ。
とは言え、ファーレスの長い歴史上での最高判定はSSらしいので、SSSはあくまでもそこまで測定できるってだけの様だが。
「次は墓地無双様の番でございます」
「はい」
順番が回って来た。
理事長に呼ばれた俺は、意気揚々と水晶の前に立つ。
ん?
俺の名前が変?
まあこれは風水だかなんだかで付けられた名前だそうで、確かに変な名前なのは認める。
とは言え、他人からどうこう言われる筋合いはない。
ので、俺の名前を揶揄ってきた奴にはこれまで全て拳で分らせてきた。
見敵必殺って奴だ。
お蔭で小中学生時代は、喧嘩ばっかりしていたな。
その際ついたあだ名がバイオレンスである。
まあそんな事はどうでもいいか。
俺は鑑定用の水晶に掌を付けた。
まあ結果は測るまでもなく、高ランク判定なのはもうわかり切っているんだけどな。
何故なら、俺は神からチートを貰っているからだ。
両親の葬儀が済んだ翌日、俺は神の居る不思議な空間に呼び出される。
神が言うには、両親の死は神側の不手際だったそうだ。
そのため、親父とお袋には異世界での転生の権利が与えられていた。
だが二人は神からの補填を断っている。
自分達は満足している。
夫婦で最後の時を迎えられたのだから、と。
そんな二人の、ただ一つ気がかりだったのが俺の事だったそうだ。
だから両親は転生の代わりに俺の事を神に頼んだ。
喧嘩っ早い息子が、この先安全に生きていける様にと。
両親には最後まで心配をかけて、申し訳ない限りである。
そしてその願いを引き受けた神は――
「両親の願いにより、お主に人類を遥かに超えた強靭な肉体と能力を授けよう」
――何者にも負けない力を俺に授けてくれた。
ただそれには体の造り替えが必要だったらしく、その後1月ほど俺は意識不明に陥ってしまう羽目に。
まあその程度なら、強力な力が貰えるなら安い物であるが。
そして超パワーを得た俺は、さあ力を試してみようとした所で異世界へと召喚されてしまい、現状に至っていた。
「こ!これは!?」
水晶の反応に、理事長が驚愕の声を上げる。
まあ神から力を貰っている訳だからな、少なくともSランクには入っている筈。
さあ!
俺を称えるがいい!
「い……Eランク……」
「へ?」
E?
Sじゃなくて?
因みに判定の下限はFだ。
Eはその一個上である。
聞き間違いかな?
「墓地無双様は、Eランクになります」
だが聞き間違えではなかった。
今度は名前付きで、ハッキリとEランクと言われてしまう。
マジかよ!?
神様チートって全然ショボいじゃねぇか!
いや、でもよくよく考えたら日本って平和な国だからな。
Eランクレベルの力があれば、喧嘩っ早くても余裕で暮らしていけるって事なのだろう。
「そうですか……」
俺は自らの判定にがっくりと肩を落とす。
理事長も明らかに落胆気味だ。
……つか、Eしかない様な奴召喚するなよな。