第8話
「お、おぉ!おぉ!!本当かいラタン君!」
「ラタンさん!ありがとうございます!」
僕の言葉に目の前の二人が大喜びする。
特にホジッチ大臣の喜びようと言ったら相当なものだ。
「お、落ち着いてください・・・」
僕がそう声を掛けなければ、
ホジッチ大臣は今にも踊りだしそうな気配だった。
「・・・す、すまん。つい嬉しくてな。君が断りでもしたら私の首は物理的に飛んでいたよ。ハハハ」
ホジッチ大臣が笑って言うが、笑い事ではない。
少なくとも彼の命を救えたなら、
それだけでも僕が参加する価値はあるというものだ。
「・・・でもラタンさん、よろしいんですか?」
そう僕に質問したのはマリヴェラさんだ。
「よろしい、とは?」
僕は尋ねた。
「いえ、こちらとしては参加していただけるのは非常にありがたいお話です。ですが、貴方には参加するメリットはあまりないですよね」
マリヴェラさんが尋ねた。
「黄金龍王杯は参加するだけで一生の栄誉だと伺いましたが?」
「それはその・・・非常に言いにくいのですが、相応の活躍が出来た場合の話です」
マリヴェラが申し訳なさそうに言う。
たしかに彼女の言う通りだ。
僕ではまず、その域にも届かない。
それどころか大けがして笑い者になるのが関の山だろう。
だが、僕の中にはある想いが芽生えていた。
「・・・僕のことを、未だに『王国の神童』って恥ずかしい名前で呼ぶ幼馴染がいるんです」
「え?」
「それから僕の顔を見れば必ず突っかかってくる魔導士と、いつも優しくしてくれるギルドの職員さん。彼らは僕が貶されていたら僕の代わりに怒ってくれて、その、守るとまで言ってくれました」
「・・・それは」
「・・・僕はネガティブで、自分に自信なんかないですけど。今でもそれは変わってないですけど。身近な人が応援してくれるなら、僕じゃなくて彼らを信じて頑張ってみようなって思ったんです。それから―――」
「それから?」
「一流の魔導士になるって夢をかなえるチャンスが目の前に転がってきたんです。いくら僕がネガティブでも、その可能性に縋ってみたくなるのはおかしなことではないでしょう?」
僕の答えに、
ホジッチ大臣がほぅとため息を漏らした。
「・・・失礼しました。どうやら私たちはラタンさんを見くびっていたようです。お許しください」
そう言ってマリヴェラさんが頭を下げた。
「あ、いえ!僕なんか雑魚魔導士で、他の参加者の足元にも及ばない存在なのは本当ですから!!」
「・・・いや、ラタン君。それは違うぞ」
そう言って僕の肩にホジッチ大臣が手を置く。
「『魔導の深淵はそれを目指す者の足元にのみ口を開ける』これは私の師の言葉だが、今の君に相応しい言葉だ」
ホジッチ大臣はそう言った。
僕はその言葉に聞き覚えがあるような気がした。
「・・・ありがとう、ございます。」
僕は二人に礼を言う。
アリシアとユリウスとララさん。
それからおそらく、
この二人僕を応援してくれるような気がする。
こうして僕は黄金龍王杯への参加を表明する。
小さな、小さな。
小さすぎて消えそうな炎が、
僕の心の中に灯ったような気がした。
・・・
・・
・
「・・・と言うわけで黄金龍王杯に出ることになったよ」
僕の言葉にアリシアが目を大きく見開いて、
驚きの表情を浮かべる。
「アリシア?」
「ごめんなさい、ラタン。私疲れているのかしら。幻聴が聞こえたような気がして」
「黄金龍王杯に出る」
「ごめんなさい、ラタン。やっぱり幻聴が・・・」
「おい!アリシア、聞いて?黄金龍王杯に出ることにしたんだ。幻聴じゃない」
僕の言葉に、
アリシアが真っ青になる。
おいおいどういうことだ。
あんなに全力で出場するように言っていたのはアリシアじゃないか。
「・・・アリシア?」
「・・・ごめんなさい。貴方がそんな決断をすると思ってなかったから」
「ちょ、ちょっと!アリシアも出場を推していたじゃないか。今更やめてよ!」
「それと実際に出場するのは別よ!ネガティブなラタンがそんな事言うとは思わなかったから!」
アリシアは途端にオロオロし始めた。
僕はため息を吐く。
これは話が違う。
身近な人の~みたいなことを言っていた自分が途端に恥ずかしくなる。
僕は頭を抱えた。
今から出場しないって言えるかな。
無理だろうな。
あの嬉しそうなホジッチ大臣の顔を見たら、
僕が断れるとは到底思えない。
僕は大きなため息を吐いた。
「・・・もう戻れない。とにかく僕は黄金龍王杯に出る」
自分の退路を断つように、
アリシアに告げた。
「・・・そうね。一流の魔導士になるには黄金龍王杯はうってつけだし。貴方が出るなら私も全力で応援するわ」
アリシアは気持ちを切り替えたのか、
今はもうメラメラとやる気を燃やし始めた。
こういうところがアリシアの良いところ、でもある。
「・・・とは言ってももう2週間後よね?黄金龍王杯が始まるのは」
「そうなんだ」
今から魔法の訓練を始めても、
黄金龍王杯までに大幅なレベルアップは難しい。
何度も言うが黄金龍王杯は、世界で最強レベルの10人が集まる競技会なのだ。
「・・・ラタン、貴方、今使える魔法は?」
「・・・か、各属性の基本魔法だけ」
僕の言葉にアリシアが頭を抱える。
「あれほど中位魔法くらい習得しなさいって言ったのに」
「・・・ぼ、僕じゃ無理だよ。精霊と契約なんて出来るもんか」
「それは貴方にやる気がなかったからでしょ?」
アリシアはまたため息を吐いた。
「とりあえず明日から魔法の訓練をしましょう。やらないよりはマシだから」
「しましょうって、付き合ってくれるの?」
「当たり前でしょ!幼馴染が一世一代の舞台に立つのに、放っておけるもんですか!これまで溜めに溜めた休暇をここで全部投入するわ!」
アリシアはふんふんと意気込んでいる。
僕は学園時代の事を思い出して、青ざめる。
アリシアの鬼指導に何度泣かされたことか。
彼女の強烈なご指導も、
僕のネガティブを決定づけた要因だ。
「仕方ない・・・アリシア、悪いけど頼むよ」
だが今回ばかりは逃げることは出来ない。
何故なら絶対に逃げられない黄金龍王杯が目の前に迫っているからだ。
僕はアリシアにそう伝えて、
明日からの過ごし方に少しだけやる気を燃やす。
「あら?お二人ともどうされたんですか?」
そう言って現れたのは、
仕事中のララさんだった。
「ラタンが黄金龍王杯に出ることになったのよ!」
「えぇえええええ!!!正気ですか、ラタンさん!!」
ララの言葉に、
僕は再び頭を抱えた。