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第4話


その夜、

僕はアリシアを宮廷魔導士団の宿舎まで送り、

家路を急いでいた。


アリシアの不機嫌は中々治らず、

つい遅くまで付き合うことになってしまった。


通りには家路を急ぐ人々や、

酒が入って千鳥足の人たちが目立つ。


僕が歩いていると、

不意に広場に出た。


そこは昼間に訪れた、

女神広場だった。


僕は改めて女神像を見上げた。

美しい女神様が僕を見下ろしている。

こうして月明りの元で見ると、

より幻想的に思えた。


そして女神様の足元には、

昼間と同じように龍王杯が飾られていた。


エントリー期間中は、

昼夜問わずにこうして置いてあるのだ。




「あれ?」


そこで僕はある事に気が付く。


昼間はあれほど多くの衛兵が龍王杯を警備していたのに、

今はその姿が一人も見えないのだ。



「・・・いや、いくら何でも無防備過ぎない?」



僕は心配になって龍王杯へと近づいて行った。


龍王杯はこの国が始まって以来の宝、いわば国宝だ。

もし盗難や紛失となったら、

衛兵団は大目玉どころでは済まないだろう。


他人事ながら考えただけでも恐ろしい。

僕はなぜか放っておけない気持ちになった。


「わぁ・・・」


僕は龍王杯に近づき、あらためてそれを間近で見た。


龍王杯は青白く幻想的な光を放っている。

その造形は見れば見るほど、緻密で精巧で、

人の手が作ったとは到底信じられないような美しさだった。

まさに神の御業だ。

僕はその神々しさにごくりと喉を鳴らした。




「――――綺麗ですよね」



後ろから不意に声が聞こえで僕はぎくりとする。


「ご、ごめんなさい!あの龍王杯を誰も見てないようだったので、心配になって、別に盗もうとしていたわけでは!」



衛兵が戻ってきたのだと勘違いした僕は、

全力で謝りながら振り返った。


「え?」


だがそこにいたのは衛兵ではなく、

白い服に身を包んだ美しい少女だった。



「あの・・・落ち着いてください。私は別に咎めるつもりはなく・・・。ごめんなさい」



少女は戸惑った様子で僕に言う。



「あ、いえ・・・僕の方こそ、衛兵さんが来たかと思って・・・すみません」



僕たちはお互いにペコペコと頭を下げあった。

なんなんだろう、これは。

僕はそう思った。



「えっと・・・・綺麗ですよね、その杯。貴方もそう思って見ていたんでしょう?」


ひとしきり謝りあったあと、

少女が言う。



「・・・え、あ、はい。そうですね」


僕は短く答えた。

その言葉に、少女は少し不思議そうな顔をする。


「・・・ごめんなさい、もしかして話しかけてしまってご迷惑でしたでしょうか?それであれば私は退散しますが・・・」


「あ、いえ!違います、違います!」


僕は慌てて答えた。


「あの・・・逆に僕みたいなものに話しかけていただいて申し訳ないというか。そもそも気の利いた言葉も言えず大変心苦しいというか・・・・とにかく貴女にご迷惑をおかけしている事が・・・」


僕がまくし立てるように言うと、少女は目を丸くした。


「貴方はなんてネガティブな方なのでしょうか」


少女は本当に心底驚いたような声を出して、

それから少し面白がるような顔でこちらを覗き込んだ。


「そのすみません・・・これは昔からの癖で・・・すみません」


僕はひたすらに謝った。

僕の必死な謝罪とは裏腹に、

遂に彼女は笑いだす。


「フフフ。本当に面白い方ですね。フフフ、お名前は何と言うのですか?」


「ラ、ラタンです・・・」


僕は少女に名乗った。


「・・・ラタン、ラタンですね。いいお名前ですね、まるで古の勇者のよう」


そうして少女はニコリと笑う。

たしかに古臭い名前だとは言われることはあるけど、

そんなことを言われたのは初めてだった。


僕はなんだか気恥ずかしくなり、

思わず赤面してしまう。



「ラタン、この出会いに感謝を。そして貴方に女祝福のあらんことを」


「え?」


彼女がそう言うと、

不意に背後の龍王杯から轟という炎が上がった。


僕は思わず振り返り、龍王杯を凝視する。

龍王杯は蒼炎を発し、

まるで日中に見た重戦士バルログの時のような状況になる。



「な、なんだこれ・・・」


僕は思わず後ずさる。

すると背後から怒声が聞こえた。


「おい君!何やってるんだ!?」


振り返ると、

そこに少女の姿はなかった。


代わりにそこには衛兵が数人立っていて、

僕と同じく龍王杯を見上げていた。


「急に龍王杯から炎が上がったが、君何かしたのか?」

「君、どこから現れた?」

「いつのまに龍王杯に近づいたんだ!?」


衛兵は次々に僕に尋ねる。

だが僕は首をブンブンと横に振り、

それを否定した。


龍王杯から出る蒼炎は徐々に勢いをなくし、

やがて杯の中へと戻っていった。


そして龍王杯は再び静かに、

穏やかな光を放ち始めた。


「ふぅ、なんだったんだ急に。・・・さぁ君、用がないなら早く帰りなさい。もう遅い時間だよ」


衛兵から告げられた時間は、

僕の認識よりも遥かに遅い時間だった。



僕は立ち上がり衛兵さんに謝ると、

広場を離れる。


先ほどは誰もいなかったはずの広場には、

まばらにではあるが人の姿があった。


そうだ。

ここは街のど真ん中。

そして今は黄金龍王杯の期間中で観光客だって多い。

広場に人がいなくなるなんて、あり得ないはずだった。


あの少女は誰だったのだろう。

僕は思い出し、不思議に思う。


透き通るような透明感があり、

美しい人だった。


僕は広場の真ん中に立つ、

女神像を見上げる。


先ほどの少女はどことなく、

女神像に似ているような気がした。




・・・

・・



それから一週間。


街は黄金龍王杯に向け、

盛り上がりを増していった。


周辺国からは来賓や観光客が押し寄せ、

街中ではそれに合わせ様々なイベントが開かれる。


出店や、大道芸人や、

花火に、行列(パレード)

人々は祭りの気配に浮かれている。



魔導士ギルドでも、

魔法を使ったショーをやるとかで、

僕も準備に駆り出されていた。



「・・・すみません、ラタンさん」


その日、僕は荷物持ちとしてララさんの買い出しに同行していた。


「いえいえ、気にしないでください。これくらいしか役に立たないので」


僕はハハハと笑った。


「これくらいだなんて、とても助かってます」


ララさんが言う。


「いえいえ、派手な魔法が使える魔導士たちはショーで活躍できますからね。僕みたいな地味で普通な魔導士は、こういう裏方が精一杯ですよ」


僕は答えた。


「・・・あの、ラタンさんって、初級魔法しか使えないんでしたっけ?」


ララさんが少し遠慮がちに尋ねた。


「ええ、そうです」


僕は答えた。

初級魔法と言うのは、

各属性の低威力かつ習得難易度の低い魔法の総称だ。


もちろん初級魔法と言えど、魔法には間違いない。


燃やしたり、凍らしたり、雷を生んだり、

傷を癒したりもできる。


そう聞けばとてもすごい事のように聞こえるが、

初級魔法は魔導学園では2年生までにすべての学生が初級魔法を習得し終える。


魔導士はそこから自分の得意分野を見つけ、伸ばしていく。

つまり初級魔法は基礎中の基礎という事だ。


「その、中級魔法や上級魔法は精霊との契約で取得するものですよね?ラタンさんはそうした契約はされていないんですか?」


ララさんが言う。


初級以上の魔法は、

女神の眷属である精霊との契約や、

魔力を帯びた古文書を読み解くことにより、

習得することが出来る。


その他、

先天的に特殊な魔法の才能を有している場合があるが、

そういったものは纏めて【ギフト】と呼ばれていた。


ちなみに言うと、

アリシアはこの【ギフト】を有している。



「うーん、してないですね」


僕はララさんの質問に答えた。


「・・・それは、どうしてですか?」


ララさんが尋ねた。


「うーん、まず僕なんかじゃ精霊に選ばれないですよ。誰でも精霊と契約出来るわけでもなくて、精霊と心を通わせる必要があるんです。かといって古文書を読むのも面倒臭いし、何より高い。僕みたいなその日暮らしの魔導士じゃ手が出ないです」


「そんな・・・」


ララさんが困ったような顔をする。


「それに精霊の中には契約の際に交換条件を出してくるものもいると言われていますからね、リスクがあるんです」


「交換、条件ですか?」


「そう。例えば毎日祈りを捧げたり、その精霊の好きな花を育てたり。強い精霊ほど要求は大きくなると言いますよ。そういうのって凄くまどろっこしいですよね」


僕は答えた。


「そ、そうですか・・・なんだかすみません、突っ込んだことを聞いてしまったようで」


ララさんが僕に頭を下げる。


魔導士に契約の事を聞くのはマナー違反だ。

彼女もどうやらそれを思い出したらしい。


「あ、いえ!気にしないで下さい。それより心配かけて申し訳ありません」


僕はララさんに謝った。


「だからなんでラタンさんが謝るんですか!」


僕とララさんはギルドへと戻った。



・・・

・・



「・・・ん?」


ギルドに戻ると、中がやけに静かだった。

いつもは大笑いや、怒声が聞こえるはずなのに。


「よいしょっと。あれ、どうしたんですか?ラタンさん」


荷物を置いたララさんがこちらに来る。


「いや、なんか皆静かだなって」

「あれ?ホントですね」


僕の言葉にララさんも同意する。


ギルドの中を見ると、

魔導士たちは真剣な表情で、同じ方向を向いて座っていた。


「あ、いけない!忘れてました。間に合ってよかった!」


そう言うと、ララさんはみなと同じく壁の方に目を向ける。

そこにあったのは魔導映写機(ラクリマ)だった。



「あ、おいラタン!こっちだ、こっち」


そう言って手を振ってきたのは、

ユリウスだった。


僕は彼の手招きに応じるように、

彼のいるテーブルに腰を下ろす。


「ユリウスさん、もう始まっちゃいました?」


僕と同時にララさんさんも同じテーブルに腰を下ろした。


「ララさんさん!?い、いや、今始まるところだ、です」


ユリウスが答える。

心なしか顔が赤い。

なんなんだ。


「なぁ、ユリウス?みんな何を見てるんだ?」


僕は尋ねた。


「ラタンさん!?」

「お前は本当に・・・」


ララさんとユリウスが同時に声を上げる。

二人とも呆れたような反応であった。



「・・・ラタンさん、今日は黄金龍王杯の出場者発表の日ですよ」



ララさんが説明してくれる。


あぁ、そうか。

今日だったのかと、合点がいく。


「始まるぞ・・・」


ユリウスが珍しく、ワクワクしたような表情で魔導映写機(ラクリマ)を見つめる。


画面の中に映し出されたのは女神広場。

そこには多くの人が集まっていた。


・・・

・・



『お集りの皆さん、そして魔導映写機(ラクリマ)を通してご覧の方々!お待たせいたしました。ただいまより、黄金龍王杯の出場者を発表いたします。申し遅れましたが私は大臣のホジッチです。よろしくお願いいたします!』


小太りで髭を生やした、

ホジッチ大臣が話す。


『ご存じの通り出場者は、出場を希望した者の中から、女神様がお決めになります!武力に限らず、あらゆる分野において、黄金龍王杯に相応しい人物が選ばれることでしょう』


ホジッチ大臣の言葉に広場に集まった観客が歓声を上げる。


『では早速参りましょう!女神様、その御心をお示しください!!』


そう言ってホジッチ大臣が、手に持った水差しから龍王杯に何かを注ぐ。

魔導映写機(ラクリマ)越しでも、それが何か神聖な祝福を受けた水なのだという事が分かる。


聖水の魔力に反応し、

龍王杯が輝きを増す。


龍王杯からは、蒼炎が上がり、

やがてそれは光の文字となり浮かび上がった。

それは人の前を示す、文字の羅列だった。


『出ました!一人目の出場者!この名を知らぬものは王国にはいないでしょう!リック・ジェラルド!近衛騎士団の若獅子リックです!!』


ホジッチ大臣が高らかにその名を呼ぶ。

広場は拍手と大歓声に包まれた。


「リックか」

「だと思ったぜ。あいつの向かう戦場ではほとんど負けなしらしいぞ」

「最近、前騎士団長にも勝ったらしいな」



魔導映写機(ラクリマ)を見ていたギルドの魔導士からもそんな声が漏れる。


近衛騎士団の若獅子リック。

僕でも知っている、王都の超有名人だ。


『さてさて、続いてまいりましょう!』



ホジッチ大臣は再び龍王杯に聖水を注ぐ。

す先ほどと同じように龍王杯は出場者の名を示した。



『おぉ!先夏に彼女が成し遂げた竜退治は記憶に新しいところですね!紅蓮の魔女ルビー!!!』



広場に再び歓声が上がる。

それ以上に歓声が上がったのは魔導士ギルドの中だった。



「来たぞ!ルビー様だ!」

「うぉおおおお!最高だ!!」

「女神様ーーー!!ありがとうございます!!」


魔導士ルビーは強さと美貌を兼ね備えた存在。

ギルド内にも多くのファンがいるのだ。


「すごい人気ですね」


僕はララさんさんに語り掛けた。


「そうですね、ルビー様は魔導士の憧れですから」


そういうララさんさんもまた、うっとりとした表情をしていた。

どうやら彼女も紅蓮の魔女のファンの一人らしい。

ルビーは強い女性の理想像と言った感じで、女性人気も強い。


僕はララさんさんとの会話を諦め、

ユリウスの方を見た。


するとユリウスは魔導映写機(ラクリマ)ではなく、

同席しているララさんさんの方を見ていた。


僕はため息をついて、

魔導映写機(ラクリマ)へと視線を戻した。


そのあとも、ホジッチ大臣の煽りと、

熱狂的なアナウンスと共に、

会場は大盛り上がりを見せていた。



神聖騎士団の女騎士、

隣国の聖女、

大陸をまたにかける大傭兵団の隊長、

Sクラスを拝命した戦士、

王立魔導研究所の若き天才魔導士、

孤高の武芸者・・・

その誰もが名前を知らぬものの居ない超有名人だった。



そして人々が最も熱狂する瞬間は、

最後の一人、10人目に現れた。



『では次が10人目!最後の一人です!』



ホジッチ大臣が聖水を注ぎ、

龍王杯が輝く。


そしてそこから現れた蒼炎は、

これまでで一番強く、そして大きく輝いた。


まるで爆発が起きたような轟音に、

広場から悲鳴が上がる。



『こ、これはッ!!』



ホジッチ大臣もそこに上がった名前に驚きの声を上げた。



『な、なんと・・・彼もエントリーしていたとは・・・』


震えながらリアクションをするホジッチ大臣。

そして大きく声を上げる。



『なんと今年の龍王杯には、あの伝説の男が選ばれました!!』


その声に、

会場に大歓声が沸く。


『最強の戦士にして、最強の魔導士!!王国を、そして世界を守護する、あの男!!"勇者"アーヴァインですっ!!!!』


その言葉に魔導映写機(ラクリマ)の画面が大きく揺れる。

大歓声は地鳴りとなり、

遠く離れたこの魔導士ギルドにも響くほどであった。




「・・・す、すごい。あのアーヴァインが龍王杯に出るのか!?」


ユリウスが珍しく立ち上がり驚いている。


「アーヴァイン?」


僕は尋ねた。


「ラタン、お前勇者を知らないのか?生きる伝説だぞ?学園の授業で習っただろう?」


「あぁ」


そう言われて気が付いた。


天災級の魔物の討伐や撃退など、

数々の逸話を持つ教科書に載っている人物だ。


勇者アーヴァイン。

またの名を、女神に愛されし者。


「・・・そんな人が出るのか」


僕は呟いた。


「アーヴァインは前回も前々回にも黄金龍王杯には参加していなかった。これは凄いことになるぞ」


ユリウスは興奮した様子で呟いている。


いや、ユリウスだけではない。

ギルド内も、魔導映写機(ラクリマ)に映る観衆も勇者の参加に大興奮だ。


凄いな。

僕は素直にそう思う。


選ばれた他の9人も、僕からすれば殿上人だ。

だがアーヴァインはその9人を凌駕するほどの存在なのだろう。


そんな人と自分を比べるのもおかしいけど、

改めて住んでいる世界が違うのだな、と感じた。




やがて熱狂は幾分か収まり、

ホジッチ大臣が再び語りだす。


『・・・さて皆様、今回の黄金龍王杯も最高の出場者たちが集まりました』


だがその言葉をきちんと聞いている人は少ない。

人々の期待はすでに本戦へと向いている。


魔導映写機(ラクリマ)の向こうには、

目を輝かせて期待を語る人々の姿が映されていた。


頑張れ大臣、と僕は思った。


だが当のホジッチ大臣もそれを理解しているのか、

締めの挨拶に入っている。



『黄金龍王杯は2週間後から開始されます!その模様は魔導映写機(ラクリマ)を通し――――』



ふとホジッチ大臣が言葉を止めた。

それは大臣が、自らの背後にある龍王杯の異変に気が付いたからだ。


龍王杯は徐々に輝きを増し、

口から再び炎がこぼれ始めていた。


すでに散漫だった観客の注意が再び龍王杯へと向かい、

ざわざわと動揺が伝播していく。


「おいおい、なんだ様子がおかしいぞ?」


僕の隣でユリウスが呟いたのと魔導映写機(ラクリマ)の画面が、

眩いほどの青い光に包まれるのは同時だった。



『うわぁああ!!!』

『きゃあああ!!!』


画面の向こうから悲鳴が聞こえる。

龍王杯はこれまでとは比較にならないほど巨大な炎を吐き出した。



『皆さん、―-着いて!落ち着――――さい!!』



乱れた魔導映写機(ラクリマ)の画面の向こうで、

ホジッチ大臣の声が響く。



「お、おいなんだ」

「窓の外を見ろ!ここまで炎が見えるぞ」

「なにごとだッ!?」



ギルドの中にも動揺が走る。


これまでの龍王杯で、

こんな事は起きたことはない。


明らかに異常事態だ。


顔を上げると隣に座っていたはずのララさんの姿が無かった。


ギルド職員たちはギルドのカウンター前に集まり、

何かを真剣な表情で話し合っている。


どうやら女神広場へ救援に駆けつけるかを議論しているようだ。

さすがは一流のギルド職員たちだ。

行動が早い。



だが、彼女たちの心配は杞憂に終わる。


龍王杯がピタリと蒼炎を吐き出すのを止めたからだ。

そして嘘みたいな静寂が、女神広場と、ギルドの中に満ちる。


人々は呆気にとられたように、

龍王杯を見つめる。


魔導映写機(ラクリマ)を通して僕たちも、

その光景を見ていた。



『こ、これは・・・』



魔導映写機(ラクリマ)を通し、

ホジッチ大臣の呟く声が拾われる。


龍王杯は、

再び蒼炎の残滓で文字を浮かび上がらせていた。


それは人の名前を表す文字の羅列。


本来選ばれることのないはずの、

1()1()()()の参加者の名前であった。




そして―――――



僕はその文字を見て、

全身に鳥肌が立つのを感じた。



「お、おい・・・あれって・・・」


隣にいるユリウスが呟いた。

だが僕は、それに反応することすらできなかった。




『・・・ラタン。ラタン・アーガイル・・・』




ホジッチ大臣が龍王杯が記す文字を読み上げる。

それは最も聞きなれた、最も身近な名前。


龍王杯が示したのは、

他ならぬ僕の名前であった。



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