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第12話


「あー、やばい。やばいぞ。いや、ダメだ落ち着け僕」


僕は森の中を身を低くしながら進んでいた。

周囲に人の気配はなく、仲間たちとは完全にはぐれてしまったようだ。


「・・・まずは見つからないようにしないと。戦闘になったらまず勝てない」


僕はゆっくりと、

森の影に身をひそめるように歩いた。


大丈夫。

僕が何かしなくても、

きっと仲間がなんとかしてくれる。

僕はそんな事を考えていた。


戦乱の大地(ウォーエリア)は、

直接戦闘だけが勝敗の要素ではない。

敵に見つからず拠点を獲るような行動も時には必要なのだ。


僕は自分にそう言い訳して、

ただただ気配を殺すことに集中した。


それからしばらく歩いていると、

森の奥や、山の向こうから爆発音や轟音が聞こえるようになってきた。

時折地面が揺れ、地響きが聞こえる。


「は、始まったのか・・・?」


時折上る火柱に、僕は恐ろしくてたまらなくなる。

参加者たちは誰もが英雄と呼ぶにふさわしい実力者たちだ。

その攻撃は空を切り裂き、大地を割る。


「僕なんかが、そんなのとまともに戦えるわけないだろ・・・」


僕は一人呟きながら、

大木の影に身を潜めた。


どれくらいそこに隠れていただろう。

不意に頭の中に、情報が流れてくる。


---------------------------------------

蒼 0-2 紅


■脱落者

<蒼>

・シン(撃破者:ゴウセル)

<紅>

なし

---------------------------------------


それは戦乱の大地(ウォーエリア)の経過を知らせる女神様からの通知だった。

文字列でも音声でもない情報に、僕は気味の悪さを覚える。

だがそれより気になったのは・・・


「そんな・・・シンってうちのチームだろ?もうやられちゃったのか?」


僕は驚いた。

シンと言えば、

知らぬものの居ない傭兵だ。


あの最強のチームメンバーであれば勝てると思った。


だが僕は忘れていた、

僕たちが敵対する相手もまた、最強クラスの力を持つ者たちなのだ。


「す、すでに2点もリードされてるのか・・・?このままじゃ・・・」


僕は呟いた。

蒼 0-2 紅という事は、

相手チームが先に2つも拠点のクリスタルを破壊しているという事だった。

このエリア内には全部でいくつのクリスタルがあるかは分からない、

だが決して楽観視できるような状況ではないという事が理解できた。


「ど、どうする・・・ここに隠れてていいのか・・・でも・・・」


僕はその場で自問自答した。

何かをしなくてはならないと言う感情を、

どうせ僕なんかがという感情が邪魔をする。



僕が頭を抱えていると、

不意に木立の向こうに光が見えたような気がした。


「なんだ?」


よく目を凝らす僕。

すると木立の向こうに湖が見えた。

そしてさらに湖畔の対岸に、

小さな遺跡のような建物がある。


「あれは・・・」


その遺跡の一角に、

蒼く輝く何かが見えた。


僕は確信する。

あれは拠点だ。

破壊すれば得点となるクリスタルに間違いない。


僕は再び諮詢する。

行くべきか、否か。


僕の心はまるで正反対の感情に支配されていた。

まるで生まれる勇気を塗りつぶすかのように、

ネガティブな感情が溢れてくる。


だが、僕は思う。

『最高の魔導士』であればとる行動は一つだろ?


僕はグッと拳を握ると、

長く隠れていた大木から飛び出した。


気が付くと僕は、

湖畔の向こうを目指して駆け出していた。


・・・

・・


たどり着いた拠点は、

石造りの遺跡だった。


僕はそこを歩いていた。


ここは神殿、だろうか。


特徴的な柱は苔むしていて、

精霊を象ったと思われる石像は、

その大半が壊れていた。



「・・・静かだな・・・」


先ほどまで聞こえていた戦いの音は今は聞こえない。


戦場が遠くへ映ったのか、

それとももはや戦闘自体が行われていないのかは分からない。

自チームのメンバーの安否を気遣う余裕はなかった。


前回の通知からすでに数十分。

戦局が動いている可能性は大きい。


僕は杖を出して、小声で唱える。


輝く光(ライト)


それと同時に杖の先に光が灯る。


「・・・早くクリスタルを見つけないと」


僕はクリスタルを破壊し得点を得るため、

遺跡の内部を進む。


クリスタルを破壊すること自体は難しくないはずなので、

たとえ僕でもチームに貢献することが出来る――――そう思っていた。


だが次の瞬間に、そのすべてが甘かったと後悔する。



「・・・あん?なんだ、見つけちまったな。一番弱ェやつをよ」


後ろから聞こえたのは、

僕を揶揄うような声だった。


僕は慌ててそちらを振り向く。


そこに居たのは、重装備に身を包んだ戦士だった。

そして右手には巨大なランスを携えている。

彼の名前は————豪戦士ゴウゼル。


「お前・・・名前なんつったか。11人目だろ?」


「あ・・・え・・・」


僕は突然の邂逅に身体が固まる。


「クハハハ。怯えてんな。そりゃそうだよな、聞いてるぜ?銅級(ブロンズ)


ゴウセルは言った。

銅級(ブロンズ)

それは僕の魔導士としての実力だ。


「なぁ、俺のランク知ってるか?知ってるよな?」


ゴウセルがゆっくりとこちらに近づいてくる。

僕は蛇に睨まれた蛙のように、その場から動けなくなった。


「俺は王銅級(オリハルコン)だよ、それがどういうことか分かるか?おい」


王銅級(オリハルコン)とはこの世界に10人もいない、

最高峰のランクの事だ。

それはつまりそのまま、僕とゴウセルの力の差を表していた。


やがてゴウセルと僕の距離が近くなり、

彼の顔が僕の輝く光(ライト)に照らされる。


彼はまるで獲物でも見るような鋭い目で僕を見つめていた。

無意識に身体が震える。



「・・・消えろよ、ごみカス。」


ゴウセルが巨大なランスを軽々と振る。

僕は身をかがめ、間一髪その攻撃を回避する。


ランスは僕の頭を掠めると、神殿の柱を打ち抜いた。

柱は音を立てて砕け散る。


「ひっ・・・」


「避けるんじゃねぇよ!!メンドクセェな!!」


僕は崩れた柱の生み出した土煙に紛れ、

ゴウセルと距離を取るべく走り出した。


・・・

・・


「おーーーッと、ここまで逃げの一手だったラタン!遂に敵にエンカウントだ!そしてその相手は豪戦士ゴウセル!これはラタン、絶対絶命のピンチかーーーー!?」


実況が吠える。

魔導映写機(ラクリマ)は逃げるラタンと追うゴウセルの姿を映す。


「あぁ・・・ラタンさん・・・」


「あいつ、見つかったら終わりだってのに。しかもよりによってあのゴウセルか・・・」


ララとユリウスが、魔導映写機(ラクリマ)を見つめる。

その表情には心配と諦めが混同していた。


「ユリウスさん、あのゴウセルと言う方はどういう人なんですか?」


「あ、えっと・・・豪戦士ゴウセルは北方の戦士で、多くの魔物を倒した歴戦の猛者です」


「歴戦の・・・」


「えぇ、特に氷獣メガドドの討伐が有名でしょうか。それにより彼は王銅級(オリハルコン)の戦士に昇格しました」


「お、王銅級(オリハルコン)・・・」


「狂暴ですが、間違いなく強者です。ラタンのやつじゃ・・・」


心配そうに魔導映写機(ラクリマ)を見つめる。

ユリウスとララ。


だが隣に座るアリシアはその会話には加わらず、

黙って幼馴染の姿を見つめていた。


・・・

・・


「ハァ・・・ハァ・・・」


僕は全力で拠点の中を駆けていた。

もはやクリスタルの破壊のことなど念頭になく、

とにかくゴウセルから距離を取る。


それだけを考え、一心不乱に走っていた。



だが―――


「ッ!!!」


轟音と共に目の前の壁が崩れる。

土煙から現れたのは、

今まさに僕を追っているゴウセルだった。


「・・・馬鹿が、俺から逃げられるとでも思ったかよ」


ゴウセルは鋭い目で僕を見つめる。


その視線だけで息が詰まりそうで、

僕は思わず足を止めた。


「【豪槍】ッ!!」


ゴウセルが咆哮と共に槍を振るった。


地面に叩きつけられた衝撃が、

そのまま一直線に僕へと走る。


「ぐわあっ!!」


僕はその衝撃波に、まるで木っ端のように吹き飛ばされる。


「・・・ぐ」


僕は意識が朦朧としながらも、

顔を上げた。


見れば通路の向こうから、

ゴウセルが笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてきていた。

それはまるで王者のような悠然とした態度に思えた。


「・・・まったくよ、時間かけさせやがって。ほら、さっさと降参しちまえよ?自主的にリタイアも出来るって話だぜ?」


ゴウセルが言う。

たしかにルール上は自主的なリタイアが認められていた。


「わざわざ痛みを味わうことはねぇだろ?するなら早くしろよ、小僧。どうせお前は場違いなんだからよ」


ゴウセルが冷たく言う。


場違い。

僕はその言葉を反芻した。

同時に僕の中で張りつめていたものが切れるのを感じた。


そうだ。

もともと僕なんかじゃ他の参加者の足元にも及ばないのだ。

怪我をする前に、退散するのが身のためだ。

幸い、一番最初にリタイアしたのは傭兵シンさんだ。

二番目か、三番目だとしたら目立たなくて済むじゃないか。

そうだ、どうせ僕なんか無理なんだ。

諦めた方が身のためだ。


堰を切ったように僕の中にネガティブが溢れてくる。


それは確からしい理由を以って、

僕に諦めるように迫ってきた。


もうこの感情に身を任せてしまおう。

楽になろう。

僕はそう考えた。



「・・・こ、降―――」


僕の心がへし折れて、

敗北を認める言葉が口から出る。


それを察したゴウセルがニヤリと笑う。



だが、その時。

僕は胸に焼けるような熱さを感じた。

驚きそこを見ると、

胸元にしまいこんだ首輪が赤く輝いていた。


それはかつて師匠がくれた首輪。

村を出た時から、

片時も外すことのなかった大事な品だった。


「・・・あ」


そこで僕は冷静さを取り戻す。

ネガティブな思考が少しだけ緩和され、

自分自身と、それから周りの様子が分かるようになる。


僕は、そこで違和感に気が付いた。


「・・・あん?どうした?さっさと―――」


ゴウセルの言葉を阻むように、

僕はとっさに杖をかざした。


「【火炎弾】ッ!」


僕の口から出たのは、

敗北の言葉ではなく詠唱だった。



火球を飛ばすだけの基本魔法。

威力も低く、普通に考えればゴウセルには到底通じない魔法。



「チッ!?」


その火炎弾はゴウセルに直撃する。

小さな爆発が、ゴウセルを包む。


僕は首を握りしめ、立ち上がる。

そしてゴウセルを正面から見据え、対峙した。


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