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第11話


「いよいよ、始まりましたね」


「・・・そうね」


ここは黄金龍王杯の会場、

観客席の一角。


周囲には大熱狂の観客でいっぱい。


客席に隣通しで座っているのは、

アリシアとララだ。


「ラタンさん、大丈夫でしょうか」


「・・・う、うーーん」


「どうしたんですか?」


アリシアの返答にララが心配そうな顔を見せる。


「・・・ここ最近はやる気を見せてたんだけど。今日の朝はいつも通りのラタンだったの」


「いつものって言うと・・・ネガティブラタンさんですか?」


「うん、それも飛び切りのやつ」


それを聞いてララが苦笑いを浮かべる。


「あの、聞きたかったんですけど・・・ラタンさんのネガティブって昔からなんですか?」


ララの質問にアリシアが首を振る。


「魔導学園の一年生の夏休み。そこからよ、ラタンが人が変わったのは」


「どういうことですか?」


「分からないの。でもある日を境にラタンは今のラタンになってた」


「それってどういう・・・」


「分からない。でも良いの、ネガティブだろうとラタンはラタンだもの」


「アリシアさん・・・」


「ふんッ、あいつはネガティブを装って逃げてるだけさ」


そう言って二人に隣に座ったのは、

ユリウスだった。


「ユリウスさん!謹慎が解けたんですか?」


ララが開口一番、ユリウスの傷口を抉る。


「ぐっ・・・ララさん・・・その・・・」


「解けるわけないでしょ?一か月の謹慎だったんだから」


「き、今日だけは家にいるわけにはいかなかったんだ。分かるだろ?」


「ふーん、まぁ気持ちは分かるけど」


そう言って三人は闘技場の中央で、

小さく縮こまっている友人の姿を見た。


「どうなることかしらね」


「ラタンさん・・・」


「ふん、どうせ大した活躍なんか出来ないんだ。せめて全力を出せよな」


「あんたそれ、直接言ってやりなさいよ」


三者三様の方法でラタンの勝利を願う。

戦いは今まさに始まろうとしていた。


・・・

・・


「・・・なっ、なんだ」


競技が発表されると、

僕は自分の身体が光り出すのを感じた。


「始まったようだね」


そう答えたのは若獅子リックだった。


「この狭い会場じゃ僕たちが戦えば被害が出るからね。女神様が専用の競技場を用意してくれているのさ」


「競技場?」


「そう、それが龍王杯の役割の一つと言われている。つまりはこの第一戦に相応しい場所さ。どんなチームになるか分からないけど。お互いに健闘しようね、ラタン君」


そう言ってリックは光に包まれた。

そしてリックを包んでいた光は、

そのまま龍王杯に飲み込まれていく。


「あ」


そう言った瞬間、

僕もこれまでより強い光に包まれた。


身体が解けていくような感覚がして、

気が付けば僕は闘技場ではない場所に立っていた。



そこは先ほどまでいた闘技場とはまるで違う、大自然の中だった。

僕が立っているのは小高い丘のような場所。


周囲には森、山、川。そして遠くに見えるのは海だろうか。

どこか現実感の無い幻想的な光景に僕は思わず息を飲む。


転移魔法とも違う、驚くべき力に、

僕は女神様と黄金龍王杯の偉大さを痛感した。




そして———————



「最悪だ、お前と一緒なんて」


そう言われて振り返る。


そこには先ほどから僕に突っかかってくる、

神聖騎士団のエスメラルダが立っていた。

彼女は親の仇のように僕を睨みつけている。



「そう言うな嬢ちゃん!今は仲間だ!」


そう言ってガハガハと豪快に笑うのは帝国警備隊総長ゴーギャンだ。

黒く重厚な鎧に身を包んでおり、

背中には大盾を装備している。


「・・・11人でどうなることかと思いましたが、どうやら5対6になるようですね」


呟くように言ったのは、銀髪の美しい少女。

西方の聖女マルタだ。


「とりあえず連携方針、先に決めておく?やっぱり勝った方が面白そうだし」


無邪気な声を出したのは、

賢者の弟子ハリー。

若々しいその姿は僕よりも年下に思えた。


「・・・」


そして黙ってその場に立っているのは、

傭兵シンだ。シンはまさに武人といった印象の男。


その場にいたのは僕も含めて6人。

そして僕たちが立つ丘の中央には、

蒼い獅子を描いた旗が立てられていた。


黄金龍王杯の初戦、戦乱の大地(ウォーエリア)はチーム戦なのだ。



・・・

・・



「さぁ、ここでルールを確認しておこう!」


会場にマイクの声が響く。

初戦の様子は、会場に用意された巨大な魔導映写機(ラクリマ)に投影されていた。


それぞれのスタート地点に立てられた大きな旗。

ラタンは蒼い獅子の旗、

対するチームは赤い竜の旗。

これがそれぞれのチームを表している。


戦乱の大地(ウォーエリア)は、挑戦者が二つの陣営に分かれての陣取り合戦!今回は11人いるから、5対6の変則マッチのようだ!」


司会が説明をする。


「ルールは簡単!エリア内に点在する拠点を多く獲った方の勝ち!獲る方法は拠点内部に設置された、クリスタルの破壊。

これは攻撃をすることにより破壊することが出来る!また参加者同士の戦闘も可能で、致命傷を負うとエリアから強制転移される!勝ったチーム全員にポイントが加算される!なんで都合よく魔導映写機(ラクリマ)に中継されるんだ、なんて野暮なこと聞くなよ?ぜーんぶ女神様のお力だッ!!」


会場が熱気に包まれる中、

アリシアは心配そうな表情で魔導映写機(ラクリマ)を見つめていた。


「頑張りなさいよ・・・ラタン・・・」


祈るように組み合わせた彼女の両手は、

力を込めすぎて白くなっていた。



・・・

・・



「・・・私は自分の好きにやらせてもらう!」


エスメラルダが言う。


「無茶ではないでしょうか?向こうには人類最強のアーヴァイン様がいるようですし・・・」


それを聖女マルタが優しくたしなめる。


「無茶ではない!私はアーヴァインが相手だろうと勝って見せる!」


意気込みやよし、

とはよく言ったものだ。


エスメラルダの実力は知らないが、

あのアーヴァインに勝つというのはかなり難しいのではないか。

僕はそんな事を思った。


チーム戦である以上、戦略と連携が大きな意味を持つことは明らか。


だがここに転送されてもう数分。

チームがまとまる気配は一向に訪れなかった。



「これじゃあ話し合いにならないなぁ・・・」


賢者の弟子ハリーが困ったな、と頭を掻く。

彼は姿こそ幼いが、かなり大人びた感覚を持っているようだ。


僕もその意見に内心で賛同する。


そうこうしている内に、

どこかから大きな鐘の音が聞こえた。

リンゴンとどこまでも響くような美しい鐘の音は、

黄金龍王杯の競技開始を告げるものであった。


「あ、始まっちゃった」


ハリーがそんな事を呟く声が聞こえた。

随分緊張感のないスタートだな。

僕はそんな事を思った。




「どうします?エスメラルダさんも言う事を聞かないし、各自個人で頑張るってことにしますか?」


ハリーはエスメラルダ以外の人間に同意を求める。

彼自身はあまり戦略とか連携にこだわっていないように思えた。


「むぅ・・・だが誰が考えても個人行動は不利であろう?」


ハリーに答えたのは帝国警備隊総長ゴーギャンだった。


「あ、それならオイラと組みます?ゴーギャンさん前衛でしょ?相性が良さそうだし」


ハリーの提案にゴーギャンが頷いた。


「おうおう、それは良い。噂の天才少年の力量を見てみたいと思っていたのだ」


そう言ってゴーギャンさんはガハハと笑った。


「ではシンさん、私とコンビはいかがですか?支援や回復をメインにしますので、お力にはなれると思いますが」


「是非もなし」


聖女マルタの提案に、傭兵シンが短く答えた。




「えっと・・・」


そこで僕はようやく口を開いた。

まずい、僕以外のところでペアが出来てしまった。


エスメラルダさんは僕を毛嫌いしているし、

ソロが良いと公言してる。


このままでは僕もぼっちになってしまう。


エスメラルダさんのように、

一人でもなんとかしてやると言う自信はなかった。


「あー、そしたらお兄さんは・・・」


空気を察したハリーが困ったように頭を掻く。


年下に気を遣わせてしまっているようで、

僕は何とも申し訳ない気持ちになった。



だが、次の瞬間、

僕を除く全員の気配が変わる。

全員が一斉に頭上に視線を向けた。


「来るぞっ!!」


そう言って素早く大盾を取り出したのは、

ゴーギャンさんだった。


「【聖守護結界】!」


同時にマルタさんの身体が輝き、

その輝きが僕たちの頭上へと広がる。


僕は何も出来ず、

ただみんなと同じ方向へ視線を向けた。


するとそこには、

巨大な炎の柱が僕たちへ向け落下してくるのが見えた。


まるでこの世の終わりを迎えるかのような巨大な火柱に、

僕は思わず目を見開いた。


「【剛健なる大盾】ッ!!」


ゴーギャンさんがそう叫び、

炎の柱を受け止める。


丘を飲み込むほどの巨大な炎柱を、

ゴーギャンさんはあろうことか大盾で受け止めた。


マルタさんの魔法も、

炎を消滅させてる。


「がああッ!!!」


ゴーギャンさんが気合を入れて盾を振るうと、

巨大な炎柱はかき消された。


あれだけ巨大な魔法を大盾で打ち消すなんて。

本当に人間か、この人。

僕は思わずそう思った。



「ここは危険です!狙い撃たれています!」


マルタが叫ぶ。


「こんなことが出来るのは・・・紅蓮の魔女か!舐めるなっ!」


そう言ってエスメラルダが丘を飛び出していく。


「あ、待ちなってエスメラルダさん!ったく!各自、拠点の制圧を念頭に行動して!戦闘も良いけど、なるべく脱落は避けて!!」


既に我がチームの司令塔となっているハリーが叫ぶ。


「応っ」

「わかりました!」

「御意」


そう言って残りの三人が返事をして、

早々に丘から飛び出していった。


「あ、え・・・ちょ!」


僕は一人丘に取り残される。

その姿を見送ることしかできなかった。



・・・

・・


「チッ、仕留めそこなったか」


恨めしそうに舌打ちをしたのは、

赤いローブに身を包んだ魔女だった。


「いいじゃないですか、開戦の狼煙は派手な方が盛り上がりますし」


そう話しかけたのは蒼い甲冑の騎士リックだ。


「・・・黙れよ、若造。若獅子だかなんだか知らないが、アタシに舐めた口聞くんじゃない」


赤いローブの魔女は、冷たく言った。


「・・・ふむ。向こうはバラけたようですね。こちらはどうしますか?大人数で襲い掛かり確実に各個撃破が一番良いと思いますが」


そう言ったのはゆったりとした服装にメガネが特徴の男だ。


「バーカ。ここにいる奴らがそんなの従うタマかよ。俺も絶対にごめんだ。・・・頭でっかちは黙ってな」


重装備の戦士が言う。

彼の言葉にメガネの男が不快感を顔に出した。


「・・・こちらも別行動だ。それが一番効率的だろう。」


そう締めくくったのは勇者アーヴァイン。

彼の言葉を否定するものはいなかった。


「まぁ普通にやれば、アーヴァイン様を有するこちらが勝ちますね」


リックが呟いた。


「それは分からぬぞ、若獅子よ」


アーヴァインが答えた。


「分からない、とは?貴方が負ける相手がいるとでも?」


「そうではないが・・・」


「ヒャッハハ、もう良いからよ、そろそろこっちも動こうや」


アーヴァインの言葉を遮り、

重装備の戦士が言った。


彼の言葉をきっかけに、

その場にいた全員が動き出す。


やがてその場には赤い竜の旗だけが残った。


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