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第10話


「行きたくない」


僕はアリシアに言った。


「馬鹿ラタンッ!そんなの聞くわけないでしょ!良いから行くわよ」


「どうせ僕が行ったって恥かくだけだよ!僕なんて地下道掃除がお似合いのダメ魔導士なんだから」


「昨日までのやる気はどうしたのよ!また前までのネガティブラタンに戻ってるじゃない!」


黄金龍王杯の当日の朝。

僕はベッドから出ることを拒否した。

迎えに来たアリシアは、

まだ何も準備をしていない僕に対して大激怒した。


冷静に考えると、自分自身が信じられなかった。

あの黄金龍王杯だぞ?

どうして僕にも出来ることがあるかも知れないだなんて思っていたのか。

とんだ勘違い野郎の身の程知らずだ。

昨日までの自分を殴ってやりたい。



「いいから!い、く、わ、よ!!」


僕はアリシアに文字通り引きずられ、

黄金龍王杯の会場である闘技場へと向かった。




「お客様、ここから先は関係者しか入れません!」


闘技場の入口で係員に止められる。


「関係者よ!黄金龍王杯の出場者を連れてきたわ!!」


「えぇ!?」


「いや、出場は辞退します。ご迷惑おかけしました」


「えぇ!?」


「ダメにきまってるでしょおおお!!!」


そう言ってアリシアに頭を叩かれる。


「と、とにかくこちらへ!」


僕は係員に両手を捕獲され、

闘技場へと連れられて行く。


「ちゃんとやりなさいよ!!!」


通路の向こうでアリシアが叫んでいるのが聞こえた。

僕は大きくため息を吐いた。



・・・

・・



「・・・緊張してるのかい?」


そう言って話しかけてきたのは、青髪の騎士だった。

近衛騎士団の若獅子リックだ。


「え、ええ・・・はい・・・」


僕はしどろもどろになりながら答えた。

初対面の人と話すのは苦手だ。


青髪の騎士が続けて口を開こうとすると、

後ろから別の声がかかった。


「そんなのに話しかけるの止めておきなさいよ」


声の主は白い鎧を纏った、美しい女騎士だった。

彼女の事も知っている。

神聖騎士団のエスメラルダだ。


「え、あの・・・その・・・」


僕が何も言えないでいると、

彼女は苛立たしそうに舌打ちをした。


「・・・私はあんたなんか、絶対に認めないから」


彼女はそういって僕を睨みつけると、

扉から外に出て行った。


彼女の言葉に僕はがっくりと肩を落とす。

たしかにそうだよな。

誰もがアーヴァインさんみたいに、

僕を歓迎してくれているわけではない。



「・・・気にするなよ、それよりお互い頑張ろうな」


そう言って青髪の騎士は僕の肩を叩く。

なんていい人なのだろう。


きっとこの人は皆に愛される星のもとに生まれてきたのだろう。

アーヴァイン様と言い、実力者には相応の人格を備えている人が多い。

僕とはえらい違いだ。


僕がそんな事を思っていると、

係員が僕たちを呼びに来た。


部屋の中にいた、他の参加者たちも腰をあげ、

部屋の外に出ていく。


僕もそのあとに続いた。

先頭を歩くなんて到底できない。


やがて通路の先、外の光が見えた。

周囲を歩く他の参加者の間にも緊張が走る。



通路の出口をくぐると、

暗い通路との明度の違いに、

思わず目を開けていられなくなる。



「う・・・」


思わず僕は目を閉じる。


だが次の瞬間、

地鳴りのような轟音が僕たちを包んだ。


それは大歓声。


円形の闘技場を包むように、

客席が配置されている。


見渡す限りの観客。


そしてその誰もがでこちらを見て、

喉が裂けんばかりに歓声を上げていた。


その熱狂に、

僕は思わず息を飲んだ。


なんだここ、僕が来ていいところじゃないだろ。

僕は改めてそう思う。



『ご来場の、そして魔導映写機(ラクリマ)により繋がるすべての皆様!お待たせいたしました!』


僕の後悔をかき消すように、

場内にアナウンスが響く。


「ただいまより、世界で最も伝統ある黄金龍王杯を開催いたしますっっ!!!」


そのアナウンスに、

場内の歓声が今までで最も大きくなる。

地面が轟くように揺れ、僕は耳鳴りで眩暈がした。


・・・

・・


「いよいよだな・・・」


僕の隣で呟くのは、

若獅子リックだ。


僕はその言葉にごくりと喉を鳴らす。


会場の拍手が収まると、

闘技場内の一角に、

龍王杯が運ばれてきた。


それを見て、人々がどよっとする。

そしてある人物が龍王杯の隣に立ちマイクを握ったことで、

会場に一気に緊張感が走る。


「此度、黄金龍王杯が開催できたこと誠に喜ばしく思う」


重厚な声。

そして獰猛な鷹を思わせるような鋭い目の人物は、

この国の王。アルフレッド三世だ。


「黄金龍王杯はこの国の安寧を願う祈りの儀式である。出場者たちには女神様に捧げるに相応しい気高き姿を求める」


アルフレッド王はそう言うと、

その鋭い目で僕を見つめたような気がした。


「そして此度の黄金龍王杯はすでにこれまでとは違う事が起きておる。」


勘違いではなかった。

アルフレッド王は僕だけを見つめながら話を続ける。


「それが吉兆かはたまた凶兆かは分からぬ。だが我々は女神様の意思を尊重し、史上初めての11人による黄金龍王杯を開催することにした」


アルフレッド王の言葉に会場に戸惑いが走る。

そりゃそうだ。

悪いことが起きるかもなんて言われて、

動揺が走らない訳がない。


「だが――――私は信じている。女神様のご意思を、そしてこの国のすべての者の力を。どうか安心してほしい。さぁ共に捧げようではないか、千年変わらぬ女神様への感謝を」


アルフレッド王の言葉に会場が震えた。


その時、

僕のすぐ近くから、

チッと舌打ちが聞こえたような気がした。


すぐに顔を上げるが、

参加者たちの表情に変化はない。

僕の聞き間違いだろうか。



僕がそんな事を思っていると、

黄金龍王杯から轟と炎が上がる。


それは出場者が選ばれた時と同じ、

女神の意思が示される時だ。


僕は前を向き、ため息を吐く。

いよいよ第一戦目の競技が開始される。

いや、開始されてしまう。



炎は徐々に勢いを弱め、

光り輝く文字へと変わった。


「さて!!!お待ちかね、第一競技の発表だーーーー!!みんなももう分かってるよな!!」


司会の言葉に答えるように、

会場から大歓声が起きる。


「第一戦目、競技は戦乱の大地(ウォーエリア)だ!」


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