滴る
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私は驚き後退りした。
校長先生が私に何かを伝えようとしている言葉を遮り宮本先生が私に飛びかかるように掴みかかり罵声を浴びせた。
「クソ女が!!俺のキャリアに泥を塗りやがって!!全部お前のせいなんだよ!!」
あまりの剣幕と怒号に私は言葉を無くし、ただ呆然と宮本先生の顔を見つめいてた。
何を言っているのか理解できなかった私のせい?何を言っているんだ。
宮本先生は私に罵声を浴びせる
「こんなことをして楽しかったか?手の込んだ悪戯だな…あんな真似までしやがって!!!!クソ…」
校長先生が宮本先生を私から引き離そうとするが凄い力で振り払われた。
宮本先生は私の右腕を力強く握りしめた。
「い…っ痛い!!」あまりにも小さく頼りない悲鳴、声が出なかった。
宮本先生はニヤリと私の目を睨みつけスーツのポケットから取り出したナイフを私の手首に深く押し当て切りつけた。
手首から肘まで歪な形の切り傷が浮き上がった。
血が滴り落ちた。
痛みよりも衝撃が強く私はただ立っていた。
校長先生がドアを開け大声で何かを叫んでいる、校長室に先生や生徒たちが入ってくる。
宮本先生は虚な瞳で私の顔をぼんやりと見つめている、遠くから悲鳴が聞こえた、そんな気がした。
私は絨毯に染みていく赤い血を見つめ綺麗だと思った。
あの後宮本先生は屈強な体育教師に羽交い締めにされていたが当の本人はまったく暴れてもいないし寧ろ大人しい。
そんなことを冷静に観察していた、遠くから走ってきた保険の金井先生が大きな声で「退いて退いて!!怪我人がいるんでしょ!!あんた達邪魔だよ!!退いて退いて!!」
急いできた金井先生の額に汗が滲んでいるのを見て今が8月だということを思い出す。
金井先生は私の傷を見て病院に行くように他の教師に呼びかけている横で担任の河北がオロオロ私と宮本先生の間をうろちょろしていた、まるで自分の尻尾を追いかける犬のように頼りなく滑稽な様子だった。
その傍ら山田先生が私を優しく介抱してれていた。
病院につき診察をしたが、幸いにも私の傷はそこまで酷くはなかった血の量が多い分大怪我しているように見えるが神経も筋肉も無事だと病院の先生が言っていたものの、私の心に深い傷を残すことになった。
父親と母親が病院に駆けつけていた。
父親が担任に怒りを露わにしている横で母親が泣いていた。
その日は家に帰りシミひとつない天井を見つめて一夜を過ごした。
翌週学校に行くと宮本先生はいなかった。
私は胸を撫で下ろした。