忘れられた姫君
ここは ヴィジャナル王国ユスティネス公爵の屋敷。
髪に白髪が混ざり、長身の人物が2階の窓から、苦々しく庭を歩く母子を見ていた。
この屋敷の当主でもあるライオネン=ユスティネス=マッティには、
我が一族の評判に関わる大変な悩みがあった。
ちなみに、この国の人名は、称号+家名+名前のつづりとなる
去年生まれた赤子が成長し、頭に髪の毛が生えてきたことによって、
公爵は大変なショックを受けた。
「なぜ、お前は我が名門の家に黒髪で生まれてきたのか!?」
「あああっあ なんてことだ!!」
ヴィジャナル王家を起源に持ち、強力な魔道力によって王家に仕えてきたユスティネス公爵家にとって、
魔力を持たないことを示す黒髪の子が生まれることは、我が家にとっては、たいへん恥であった。
「この子は、生まれなかったことにする!! 離れの屋敷で、人に知られず育てるのだ!!」
母親は、はじめは渋っていたが、同じく魔道力を持つ一族であるがゆえに、
黒髪をたいへん卑しく思うところもあったのかもしれない。
結局のところ・・ 離れの屋敷に閉じ込めることに母親は同意してしまった。
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黒髪は魔力を持たない!!
このヴィジャナル王国では、一般的に知られている事柄であった。
しかし、黒髪には魔力を持たない者が多いのだが、確実に魔力がない!というわけではなかった。
ユスティネス公爵家の初代にあたる伝説の大魔術師は黒髪だったことを、
子孫でさえ忘れていたのである。
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私は山と森に囲まれた大きな屋敷に住んでいた。
ここはどこなのか、知らない。
私の周辺だけが 世界そのものだった。
メイドがたくさん働いていたのは分かっていたが、
私に直接、話してくるのはただ一人、ミルヤだけだった。
ミルヤ以外の人と会話をした記憶がない。
肩まで薄赤い髪を垂らした若い女性で、眼鏡が印象的。
なにか花の香がしてた気がする。
そのミルヤだけが母がわりに世話をしてもらった。
食事の用意から服装、文字や算数など一般的なことを彼女から教わった。
私は6歳のころである。
ミルヤは魔法で水を召喚し、庭で水撒きをしていたのを二階の窓から目撃した。
私は魔法に興味を持ち、それから毎日、ミルヤの後をつけて、
魔法の様子を眺めた。
なにやら詠唱をおこない魔法陣が生成され
そこから、水が噴きだしてるのが分かってきた。
私は魔法陣が きらきら光るのが不思議で楽しかった。
そのうち私も、ミルヤの詠唱を真似るようになった。
でも、まったく魔法は発動しなかったが、
暇があれば、詠唱を口ずさむようになっていた。
成長期にあたる年齢で、何度も詠唱を繰り返すことが、
知らず知らずに魔力量の増加につながることになる。
その後、私が強力な魔導士となる原因が これだったのだろうか!?
だが、6歳のころの私には、まったく魔法とはなんなのか、
さっぱりわからなかった。
そのうち、ミルヤは私の行動に気付き、正確な詠唱ができるように、
教えてくれるようになった。
おそらくは 安全な魔法である飲料水の生成、そよ風の吹かせ方から教えてもらい、
八歳ごろからは、防御系魔法を教えてもらうようになった。
実は書斎と呼ばれる部屋を見つけて、
そこにあった魔術書から、攻撃系魔法の知識を得ていたが、
ミルヤに怒られそうなため、知らないふりをしていた。
九歳のころ、私はミルヤのつぶやきを聞いた。
「すばらしい才能だわ! 私の娘だったら もっと教えてあげれるのに・・」
「娘!?」
このとき、初めて私が女だということを知る。
書斎の書籍では 人間には男女というものが、存在することぐらいは知っていたが、
どういう存在であるかは、あまりよく知らなかった。
私がよく目にする人間は女性のメイドばかりで 男の人は料理人ぐらいであり それもたまにしか見なかったのである。
10歳のときである。その日は、いつもと違っていた。
ミルヤは、わたしの長い黒髪を、髪留めでまとめ上げ、ひらひらのついてる、
今まで見たことない服装を着せられていた。
「ミルヤ! これはなんなの?」
「今日は、お嬢様の父上がこられます」
「父上、ってなに?」
ミルヤは口ごもった。
そして、今まで見たことないタイプの人間・・・たぶん男の人という人物が、部屋にずかずか入ってきて、
私の手を無理やり引っぱり・・連れていかれた。
「いっ・・・ いたい!!」
まわりのメイドたちは、直立して 男にうやうやしく礼をする。
この男は、偉い人だと私は直感した。
この男は無言のまま私を無理やり馬車に乗せた。
初めて見る馬車と、その内装の豪華さと、そして対面に座る、怖い男の人。
私は、なにがおこったのか分からず恐怖であったが、馬車から見る外の風景は素晴らしかった。
私が初めて、屋敷から出たからである。
森や川、町並みは、はじめて見る風景で、私は感動であった。
ミルヤやメイドたちのような人たちが たくさん歩いている。
この世の中に、こんなに人がいたんだ。
そして 馬車は止まり、この男に無理やり、引っ張り出されるように降ろされ、
とある建物に連れていかれる。
後で知るのだが ここは魔術師協会であった。
廊下を進むと、ステンドグラスが張られ、明るい色がきらきらと光る巨大なホールに行きつく。
ホールには多くの人たちがおり、何らかの作業をしているようだった。
そして、その奥の方には 装飾された台座が置かれており、その上にこれまた目立つほど大きい宝石が鎮座していた。
その傍らには・・白い服を重厚に着た、見るからに偉い人と思われる人物が、手を広げ歓迎をしている。
私を引っ張ってきた男と、ホールにいる人達の間に短い会話のようなものがなされた。
白い重厚な服を着た人物が私に何かを問いかけてきたが、言ってる意味がさっぱり分からない。
そうしてるうちに、男は、私の手をつかみ、私が今にもひっくり返りそうな姿勢になったまま
無理やり巨大な宝石に触らせた。
宝石はわずかに光っただけだった。
・・・・・・・・・・・
「あのメイドの助言で、わずかだが期待してたのだが・・・ 」
やはりなぁ、 魔力なしか!!
我がユスティネス家にとっては汚点
なぜ黒髪で、生まれてきたのだ?」
怖い・・・・・
私は何も言えず、何がおこっているのか分からず、涙を流して、ただ震えているだけだった。
そこに魔術師協会の人が何人か、口をはさんできた。
「ちょっと 待ってください公爵殿!」
そのように、無理やり手をかざしても、正確に測定できません
それに 黒髪だからといって魔力がないとは限りませんぞ!!
逆に 魔術に対してたいへんな才能を持つものも おられます!!」
「私のやり方に不満でもあるのか!?」
男は威圧的に周りを睨んだ。
これは、あとで私が知ったことだが、魔力を測定する魔道具だったらしい。
おそらく魔力が判定されなかったのは、無理やり手を触れさせたためと、
昨日の夜に 私は部屋で空中浮遊魔法の特訓をしてたため、魔力の枯渇も理由だったかもしれない。
一般的な魔法の訓練は12歳過ぎから、おこなうため、
ここの人たちには、私がある程度の魔術を使えるとは思っていなかったのだろう。
あと、魔法使いに黒髪の人物が、たいへん少ないという思い込みもあった。
まわりの人たちからの批判をうけた男は、
八つ当たりをするかのように
私を蹴り倒し髪をつかんで、無理やり引っ張ってホールから出ていった。
「いっ いたい、やめて~」
震える声で、小さく叫ぶしかできなかった。
「公爵! やめて下さい! あまりにも・・・・」
魔術師協会長は、おもわず叫んでしまった。
男が出ていったあと、
顔が見えないように深くローブをかぶった男が、魔術師協会長に囁く。
「今の娘さん・・・ 魔力測定魔具で図らずとも、私には分かります
ここにいる一流魔導士なみの魔力量を持っていることを・・・」
「んっ!!!!」
「ここで あの娘が魔力なしだとアピールすることによって、なんらかの政治的・・・」
魔術師協会長は手で口を押し当て、これ以上喋るなと ジェスチャーをした。
「こっ これは 失礼しました!!」
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屋敷に帰る馬車の中で、
その男は、この無能な娘を どう処理するべきかを考えていた。
馬車の窓から、ぐしゃぐしゃになった髪と涙目で外を眺めている魔力なしの娘。
強力な魔導力を誇るユスティネス家にとって こんな娘を認めるわけにはいかない!
殺してしまい闇に葬るべきか!?
いや、まずい!
魔術師協会での所業を見られている。
すぐに殺すと、不味いことになる!!
なんとか始末しないと・・・・・
何かを思いついたのか、男はニヤッと笑った。
-------------------- To Be Continued \(・ω・\) 次回! 本当の聖女を君は目撃する!!
シリアスのような始まり方でした。
予定ではコメディです。
異世界転移、転生要素もはいる予定!!!