『子豚との絆』
俺と子豚はこの日に打ち解けた。
酔った拍子に暴露、暴露、暴露、で色々な事を聞いているうちに意外と良い奴じゃん!!ってのが俺の意見だった。
それは恋愛話がきっかけだった。
美咲さんはというと酔ったせいか、受験で疲れたせいか、素晴らしいスペックのゲームを楽しんだせいか、俺には分からなかったがリビングのソファーですやすやと眠っていた。
『高貴君は…好きな人とか居ないんですか!?』と言う子豚の質問に俺の酔いは少し醒めた。
俺は直ぐに美咲さんが頭に浮かんだが俺は『今は居ないなぁ…お前は!?』と話の矛先を子豚に向けた。【何たる事よ…あぁ神よ…美咲さんが好きだと言える強い心を俺にください。】
『え!?んー。僕は…僕はですね…ココだけの話にしてもらえます!?!?』と子豚は一瞬美咲さんをチラッっと見たように思え、子豚が答えるまでの数秒間…俺は殺意に満ちていた。
『あぁ…誰にもいわねぇよ。』
『じ…実はですね…僕、好きな人が居ますッ!!!』と大きな声を出し、暴露した…ことより、その後またもや美咲さんを見た事に俺は子豚に対して死刑執行を下した。
『貴様!!…美咲さんの事をいつから好きだったんだッ!!!』と俺は声を荒げて子豚に食いついた。…豚の丸焼きも良し、豚のステーキも良し、豚の角煮も良し…さて、煮て食おうか…焼いて食おうか…。
『いででででででで!!!なッ何するんですか!!!!??僕の好きな人は美咲さんではありません!!!…あんな綺麗な人好きになっても自分が虚しいだけじゃないですか!!僕が空きなのはエルピネス学院に通う1年生の子です!!』と食いつ俺の脳天に痛恨の一撃を食らわし振りほどきながら言い放った。
『へ!?』俺は子豚の好きな人が美咲さんではないということで、安心し痛みを感じなかった。
『全く…いきなり噛み付く何て酔いすぎですよ!!!おかげで僕は酔いが醒めちゃいましたよ。』
『いやぁ。ハハハ!!申し訳ない!!!さぁ飲め飲め!!飲んで忘れたまえ!!』と少々キレ気味の子豚ちゃんに俺はワインを注いで差し上げた。
っちぇ。と舌打ちし、子豚は注がれたワインを飲んだ。
『あ!!…さっきは居ないと言っていましたが、美咲さんを好きなのは高貴君じゃないですか!?!?』…痛い。実に痛い所を突かれた。
俺は先ほど神に貰い受けた、【強い心】を活用し、言い放った。『…まぁ…な。』
『えぇぇぇぇ!!本当にですか!?!?………ご愁傷様。』子豚は一回美咲さんを見て、再び俺の方を見て合掌し目を閉じた。
『ほっとけ!!!!』…酒のせいではなく、体温上昇のせいで自分でも頬が赤くなっているのが分かった気がした。
『まぁ…応援しますよ!!!』…この言葉によって俺と子豚は硬い友情の絆で結ばれたのだ。
この時代だから素晴らしい青春と言えるが、俺の時代でこんな事をしていたら変体だ。無数の星をバックに俺と子豚は握手したのだ。パンツ一丁で…
『俺も、協力するぜ!!…コニィ!!』
『こにぃ???とは何です??』と子豚が不思議そうに訊いてきた。
『お前のあだ名だ。新輔・子豚。それを俺の時代風に読むと子豚新輔だ。子豚のコと新輔のニィをとってコニィ。』…とまぁもっともらしい理由を述べたが、実の所コニシキみたく太っているからコニィなのだ。
『ふ〜ん。ところで俺の時代風に読むとは何です???高貴君の時代とは???』…と子豚に言われ俺の酔いは一気に醒めた。醒めすぎて顔は真っ青になっていた。…しまったッ!!!!!…
『俺…俺の時代って言う…言うのはな、マイ…マイ…マイブームみたいなもんだ。名前を逆さにして読むってのが俺の中でのはやりなんすよ。…』…自分でも何を言ってるのかさっぱり分からなかった。
『へぇ…変な趣味ですね。ハハハ。コニィかぁ。ちゃんとしたあだ名何てつけられた事無かったし嬉しいです。今まではデブだのブタだの…ありがとうございますっ。』と子豚は心底喜んでいた。
俺のボロに対してあまり突っ込んで来なかった事に安心した。というのが一番肝心だが、コニィとあだ名をつけられ喜ぶ子豚が可哀相に思えてきた。コニィとは遠まわしにデブ…と言っている様な物だから…まぁ良いか。
『お前の好きな子は可愛い子なのか??』
『えぇ。僕は綺麗な方だと思いますが…美咲さんの方が綺麗だと思いますよ。』とニヤニヤとした目つきで俺の方を見てきた。
『まぁ…何にしてもお前…もぉ少し痩せた方が良いぞ…その容姿では落とせる女も落とせなくなる…』と俺の事は棚に上げ、子豚を指摘した。
『んー。そうですよねぇ…頑張って痩せます!!』子豚は少し考え…決心したように言った。
それから約二ヶ月が過ぎた…子豚は例の子と、俺は美咲さんと結ばれ…『高貴君!!高貴君!!次の授業は移動ですよ!!寝てないで移動しましょうよ。』
…ハッ…子豚と美咲さんとの出会いを振り返っている間に寝てしまっていたか…
『全く…何ニヤニヤしながら寝てるんですか…気持ち悪い…』…俺は…美咲さんと結ばれたのでは…あれは…ゆ…夢か…
『高貴君!!聞いてます!?!?先に行きますよ!?』
『あぁぁ。コニィか…悪い悪い、俺も行くからちょっと待ってくれ。』
『コニィか…じゃないですよ…あんな顔、美咲さんにでも見られたりでもしたら…』と子豚はクラスの女の子と楽しく話す美咲さんをチラッと見た。
『分かってるよ…うるせぇなぁ。一々彼女の名前だすんじゃねぇよ。そっちの方が心配だ。』…で俺どんな顔してた??と子豚に耳打ちした。
『なにっ!?それは酷いな…』…どうやら俺は美咲さんが彼女になったと言う夢を見ていたらしく、にやけた口から涎を少したらし、鼻の穴を真っ赤にしてピクピクと動かし、変体そのものだったらしい。…
『そうですよ…それより次ぎ男子は化学の授業なので移動しましょう。』
『あれ??女子は化学の授業は受けないのか??』
『今日は男子と女子は別々に実験すると先週先生が言ってたじゃないですか…』と子豚は俺の問いにめんどくさそうに答えた。
『あぁ。そっか。』
【この学校に通うことになって2ヶ月が経つのだが、未だに魔法の授業は受けていない。魔学と言うのは2年生になってからという事で何ヶ月経っても2年になれなかったら受けれないらしい。1年の俺達はまだ魔学の「魔」の字すら学んでいないのである。俺は元々2年生への編入学希望だったのだが、エルピネス学院は編入学を認めておらず、結局俺は1年生として入学する事になったのだ。よって歳は違えど子豚や美咲さんと同学年…そして見事に3人とも同じクラスに…】
化学の授業を受けるため俺と子豚は化学室へと移動した。
化学だけに言えることではなく、全ての教科に言えることなのだが、兎に角学力が酷い…都内の最高レベルの高校にも関わらずやっている事は俺の時代の中学生レベル…いや、それ以下かもしれない。
そんな事は受験の時にうすうす感じていたが、授業というものを受けてみて改めて実感した。恐らく、どの教師より俺の方が賢いだろう…とまで思い始めていた。
化学室に着き、子豚と俺は隣に座った。
『今日は何をするんだ???』
『えっとですね、今日はミジンコという微生物を顕微鏡というものを使用して見ると言う実験ですね。なんだか難しそうです…』…ミジンコはこの時代にも居たのか…生命力や子孫を残す仕組みの方がよっぽど知りたいと俺は思った。
そもそも顕微鏡でミジンコを見るだけで実験と言えるのかすら疑問だった。
『ふ〜ん。』と一応返事し、睡眠と言う名の退屈凌ぎ方法を用いて俺は化学の授業をやり過ごした。
天才と謳われ、初めの1週間くらいは俺も鼻高々の生活を送っていたが、それも段々と虚しくなり、今となっては小学校で授業を受けているようで鼻を高くしている自分が情けなく思うようになってきた。
テルリテルリテルリンリン。終業の合図だ。俺の時代で言う、キーンコーンカーンコーンだ。今日も一日寝て過してしまった…
『高貴君。今日はお話があるので僕の家に寄ってもらえませんか???』…と寝起きで不機嫌な俺に話しかけてきたのは子豚だ。というより子豚以外はめったな事がない限り俺に話しかけては来ない。少々寂しく思う…
『あぁ。いいぞ。俺も帰ってからやる事ねぇしな。お前の家か…久しぶりだな。』と俺は内心あのゲームがまたできると心躍らせていた。
『ありがとうございます。では急いで帰りましょう。』…『えっと…あの…その…美咲さんはよばねぇのか???』と俺は子豚を見た。案の定笑ってやがった…
『誘うのは構いませんが、ご自分で…』と言われ1分ほど迷ったあげく…やっぱり誘う事ができなかった。…