『面接試験』
こっちの世界に来てこんなに目覚めが良かったのは初めてだった。…と言うより受験の事が頭の中を駆け巡り寝るに寝られなかったと言うわけだ。
今日、人生二回目の高校の受験に挑むのだ。勿論一回目は500年前の世界で受けた。500年前の世界と言うと俺が500歳以上に感じられるのは気のせいだろうか…
隆二さんがエルピネス学院に電話をかけてくれたところ本日の昼からさっそく着てくださいとの事だ。
時間が少しでも出来て嬉しい反面この待ち時間がたまらなく落ち着かなかった。尿意が近くになり、毎時2回くらいのペースでトイレに足を運ばせた次第だ。
隆二さんにどのような分野を勉強すれば良いのかと訊いても『すまん…エルピネス学院ほどのレベルの勉強は俺にはわからん。』と結局待ち時間…4時間ほど面接練習をした。
家族構成は両親と兄が一人。現在は実家でなく兄と二人で暮していると言う設定。
親元を離れたの理由は『うちの家計は16になると自立するのが決まり』と答えれば良いと隆二さんが言っていた。
何故、今まで学校に通ってなかったか。その間何をしていたのか。と言う質問はほぼ間違いなく来るだろうと言われた。
『えぇっと。今より500年昔の話になるんですが、如月高校と言う高校がありまして、そこに通学していました。その近くにある如月神社は私の大好きな場所です。』…こんな事は死んでもいえぬ。いや、言ったら死んでしまう。
そこの所も隆二さんが考えてくれた。平凡かつオーソドックスだが、まぁ妥当だろうとのことで、『都会のケルネスト学院を目指すため受験勉強をしていた』とでも言えば良いらしい。
ケルネスト学院とは、俺らの時代で言う東京大学の様なところだ。まぁ高校と大学の違いはあるが、その辺は機転を利かせてくれ。
この時代には高校受験のために浪人する事はごく普通の事らしいので、特に突っ込まれる事も無いだろうとの事だ。
そんなこんなで面接の打ち合わせ(練習)をしているとあっという間に昼になってしまった。
いつも通り、隆二さんがボタン一つで料理を作ってくれ、それを食べ終えると、隆二さんの車でエルピネスに向かった。
『うー。俺まで緊張してきた。今日は休暇をもらって休んでるから受験終わるまでココで待ってるから、バッチリ頑張って来いよ。落ちてもあんまり気にするな!!』と明らかに落ちると思っているらしい。
『うぃ!!当たって砕けてきます。』まぁ、面接は完璧だが試験の方は俺自身受かる気がしていなかった。
校内は高校というよりショッピングモールの様な感じだった。校舎のつくりは歪な形をしていた。分かりやすく言うならば、机の上に生卵をそのままボトっと落としたような形だ。
運動場というものは無く、中庭はどちらかと言うと公園のような感じだった。
校内にも木が植えられていた。これも隆二さんの家にあった『羽樹の木』の一種だろうか…
綺麗に清掃され、掃除ロボットって言うのかな???掃除機のような物が人の手を借りず自動的に校内をクルクルと回っている。
恐らく汚れセンサーがついていて汚れや菌に向かって移動するような仕組みになっているのだろう。人が近づくと廊下の隅に移動し、人間が歩く分には邪魔にはならないみたいだ。
職員室を目指して歩いていると、この学校の生徒と思われる人たちとすれ違うたびに会釈された、いかにも品のある生徒が多いな。と思った。
職員室らしき所を発見したので一応ノックし、応答を待ってから『失礼いたします。高貴・山岡と申します。本日受験を受けに参りました。』…俺はどっかの侍か…イカンイカン。緊張するな。
『こんにちはッ!!君が高貴・山岡君だね。じゃぁあの子達と一緒に待って居てもらえるかな??』
俺に声をかけてきたのは、美しいなんて言う言葉では表現でききれないほど綺麗な人だった。【反則だろ…】
…それにこの格好…この人達にとってはコレが普通だが俺にとってはこの露出度は目をそらさずにはいられなかった。
勿論、俺も立派な狼。目をそらす前に脳と言う瞬間描写記憶装置によって彼女の姿は一部始終記憶させてもらったがね。フフフ…
(注)瞬間描写記憶装置というものは狼の中の狼しか持ち合わせない能力なので君にその能力が無いからと言って落ち込むんじゃないぞ。
特別に超分かりやすく説明しよう。ミニスカートにブラ!!それだけだ。狼でなくても野郎には十分伝わるだろう…
おっと…あぶないあぶない。瞬時に色々を考えすぎて先生であるこの人の言った事を無視しかけてしまった。
『あの子達と一緒に待っていてくれるかな。』しか聞き取れていなかった。
すぐさま瞬間描写記憶装置を巻き戻し再生したが…いかんせん。俺が描写したのは…とりあえず俺は『はい。分かりました。』と答え、案内された部屋で待つことにした。
こんな特例の受験と言うのに俺意外にも受験者が居た事には正直驚かされた。【男女ともに1人づつ居た。】
男はどうみてもがり勉タイプのおぼっちゃまだった。肉付きの良い体といい、綺麗にそろえられた前髪といい。何といっても極太の黒ぶちのめがね。
どうやら落ち着かないらしく。左足をガタガタと貧乏揺すり…乳酸がたりないのかねぇ…と見ているだけでイライラしてきそうなタイプだ。
それに比べて女の子は凄く大人しそうな子だった。他の子と比べて若干露出度が少ない事が少し気になった。…いやいや、変な意味じゃなくてね。
俺が目を向けると、頬を赤く染め、露出されたお腹の前で腕組をし、隠した。…太っている様には見えなかったが…
『お待たせしました。それでは別室に移動しますのでこちらへ。』と俺達を呼んだのはさっきの美人ではなく頭が少々薄い男の先生だった。
廊下に出て螺旋状の階段をあがり、20メートルほど歩き、頭が少々薄い先生は足を止めた。
自動ドアの横にはソファーのような椅子が置かれており、高貴・山岡さんは部屋に入って、それ以外の二人はココで待っていてください。と言われ、『はい。』と返事し椅子に座った。
……高貴・山岡さんは部屋に入って…『って!!!え!!?!僕からですか!?!?』勢い良く立ち上がり、顔を林檎の様に赤く染め、頭をかいた。
頭が少々薄い先生は眼鏡をかけなおす仕草をし、恐らくマイナス点だろう…と感じた。
『クス…』っと笑い声が聞こえた。俺と一緒に受験するこの女の子だ。俺がチラっと目をやると、逃げるように顔を下げ、『が…頑張ってください。』と何故か応援してくれた。
『はいッ。』っと俺も応答し、『失礼します!!!』と元気良く部屋へと入った。…
…20分にわたる長い長い面接が終わった。自己評価はさっきのマイナス点を引いても80点はあるだろうと、なかなかの出来だった。
『次は、美咲・紺野さんを呼んできてもらえるかな』と面接官の一人が言い、俺は『ハイ。失礼しました。』と言い廊下に出た。
ダウン症患者の様に全身の力が一気にぬけ、ソファーに包まれるように腰を下ろした。
『あ…美咲さんって君だよね。次ぎは君だってさ。頑張って。』と報告し、俺はこの子の名前は美咲って言うんだ。と頭の中のメモ帳に刻み込んだ。
彼女は、『え…あ…はいッ!!』とかなり緊張した様子で、部屋に入っていった。…あの調子だと先ほど頭の中のメモ帳に刻み込んだ名前が無意味になるかも知れないな…と少々残念に思えた。
外に声は漏れないような防音システムらしく、ウィーンっとドアが開いて驚いた。…俺の時より10分も早く彼女は出てきたのだ。
『失礼しましたッ。』
彼女はソファーに座る前に俺の横に落ち着き無く座るぼっちゃんに『新輔・子豚君…入ってくださいとの事です。』と言った。…子豚って…(ぉぃ。
子豚が立ち上がるり、覚束無い足取りでドアへ向かい。ウィーンと言う音と共に『失礼します!!!!!!!!!』と校内全域に響き渡ったのではないかと思われるほど馬鹿でかい声で入室した。
『どうでした!?!?』…始めに声をかけてきたのは美咲さんだった。まさか彼女の方から声をかけてくるなんて思いもしない俺は、『えッ。微妙っす。』と答えた。
『私も手応え有りとはとてもいえません。…』と小さくため息を付いて顔を伏せた。
『面接の結果は直ぐ出るみたいだし。もし受かってたら次は筆記で…僕はそっちの方が心配です。』
『私も…面接の練習は色々してきたんですけど…試験勉強は全くで…』
俺も彼女も苦笑し、長い沈黙と共に子豚が面接を終えてでてくるのを待った。
カチッカチッカチッと俺達の正面にかけてある、この時代では極レアなアナログ時計がやけにうるさかった。
俺は退屈な待ち時間の間、ずっと秒針を目で追い続けた。そろそろ1000回目くらいのカチッがなろうとした時『失礼しました!!!!!』と馬鹿でかい声と共に子豚が出てきた。
息を荒くし、子豚は俺の横の座れそうにない隙間に強引に座ってきた。このクソ豚…ふざけるな!!と思ったのは数秒で、押しのけられた俺の体は美咲さんにべったりひっついた。
災い転じて福となす…まさにこの事。狭苦しいのは正直な感想だったが、嫌な気分ではなかった。美咲さんの香りは良い匂いだった…
この状態が5分ほど続き、ウィーンという音がなり一人の面接官が出てきた。
『えー皆さんおめでとうございます。面接の結果皆さん合格ですので、10分の休憩を挟んだ後、筆記テストとさせてもらいますが宜しいでしょうか??』
『((はいッ))』…3人とも綺麗にそろって返事した。
俺は子豚が面接中の1000回ものカチッを数えてる間に美咲さんとの話題をひたすら考えていた。そして10分の休憩…絶好のお近づきチャンスと思い『あのぉ…』と声をかけようとした時。
こともあろうことか、子豚が俺に話しかけてきた。…と言うより俺と美咲さんにだ。
『この学校の面接はほぼ100%受かるそうなので、あまり浮かれない方が良いですよ。』…うるせぇ。お前に言われなくとも浮かれたりなどしない。
『え!?そうなんですか??』と美咲さんは子豚の会話に参加してしまった。
『うん。僕が聞いた話だと、面接で落ちたという人は居ない。筆記試験で9割の人が落とされる。…今年の4月の受験者は2000人近く居たらしい。』
『2000人!!!!???』不覚にも俺も話しに参加してしまった。
『そう。でも受かったのは200人程度だったらしいよ。』と子豚にしては珍しく落ち着いた口調で言い頭を下げた。
『筆記試験…凄く難しいんだね…』美咲さんまで俯いてしまった。
またしても沈黙の時が開始された。…今度は400回くらいカチッを数えるはめになった。
『お待たせしました。それでは筆記試験を始めますので…中へお入りください。』
面接官に言われるがまま、俺達は立ち上がり、さっき面接をした部屋へと入った。