『受験前夜…』
未来に来て1週間が過ぎ、俺は明日高校の面接に行くらしい。
トントン拍子で物事が進み、ココ一週間で色々な疑問を抱きまくった。己の状況把握に戸惑いその疑問達の群れは後回しにされていた。
俺は要約頭の中が整理できるくらいに落ち着いてきた。
隆二さんの家の裏にはにあるやたらとデカイ『羽樹の木』。
その木に登り、羽の様に平たく大きい木のベット見たいな枝に寝転がり、500年と言う長い年月を経てもなんら変わることのない…暗い夜空に堂々と輝く大きな月を見上げて俺は一人考えていた。
ゲームや漫画、ドラマやアニメ、そうゆう類で異世界、未来、過去に飛ばされてしまうなどと言う話は良く見たことがある。
俺の中であれはフィクション、そう。作り話だと思っていた。しかし、現実に起こってしまったのである。そんな事ってあるか??
ココで俺は残りの人生を過すのか???…高校に通うって…本当に大丈夫なのかよ…
俺は意外と何でも簡単に受け入れれる性格の持ち主だが、流石にこんな出来事には受け入れるのに時間がかかりそうだ。
そもそも本当に、受け入れて良いのかすら分からない…
家族、友人…英明さん…いきなり消えてしまった俺をどお思っているんだろう…
寂しい…という気持ちが炭酸のジュースを振ったみたいに一気に胸の奥から込上げてくるのが分かった…自分の意思では止める事が出来ず胸の奥から噴出した思いは俺の目から涙となってこぼれ落ちた。
『ちきしょう…何泣いてんだ俺は…』歯を食いしばって必死に涙を止めた。止めたと言うより枯れるまで泣いた…と言う方が正かもしれない。
赤く腫れ上がった目を擦り、大きく深呼吸し【もう、泣かない】とあの月に誓った。
『ひょっとしたら英明さんは高貴より驚いたかもしれないな…いきなり隣で寝てた人間が消えてしまうのだから…』
【!!!!!!】とっさに俺は体を起こした。
心拍停止を俺は覚悟したね…おまけに研究材料にされることも。
声の主は隆二さんだった。
『隆二さんか…驚かさないでよ…誰かに聞かれたかと思った…』
『ハハハ。俺が登ってくるのにも気がつかないなんてよほど集中して考えてたんだな。で、度々で出てきた英明さんってのは誰だい???』
『あっちの世界の兄貴的存在っす。』と笑って答えた。
『ふーん。まぁ色々と突然の出来事で厳しいかも知れないけど、こっちの世界では英明さんに代わって俺が色々と助けになってやる。だからあまり心配するな。それに高貴は凄いと思うぞ。』
『え!?』何が凄いのかと隆二さんの話を割いて聞いた。
『そりゃお前。500年もの時空を超えて来て、初日に俺と打ち解け、ものの1週間で冷静に考えるほどまで落ち着いてるんだもんな…すげーよ。俺だったら…』と隆二さんはウムウムと頷きながら言った。
正直俺からしても、隆二さんの存在は計り知れないほど助かっている。隆二さんが居なかったら…あの時の警官が隆二さんじゃ無かったら…きっと俺は…
『隆二さん…本当にありがとう…それとこれからも宜しくです。』俺は珍しくしっかり頭を下げた。
ココは俺の居た時代とは全然違う。こっちの世界で隆二さんに見放されたら…そう思うと真面目に生きねば…と自分自身で己の背中を押した。
『まぁ…なんにしても、戻れる日が来るまではこっちの世界で上手く生活するしかないな…』と隆二さんは照れくさそうにこめかみ辺りをポリポリとかきながら言った…ポリスだけに…失敬。
『うぃっす!!明日の面接は隆二さんも一緒にきてくれるんすよね!?!?その…高校の事で色々と質問があるんですけど…』
『そりゃ。そうだな。学校の事とか何にも分かってないんだもんな。学校紹介の資料でも一緒に見るか。』
『うぃ!!』
『羽樹の木』この木は人口的に作られた木らしく、隆二さん曰く家具の一種だそうだ。俺達の時代にあったハンモックの進化系がこの『羽樹の木』だろう。
俺が登る時はよじ登ったのだが、羽樹の木は枝が螺旋階段の様になっており、簡単に登り降りすることが出来るらしい。
木を降りて俺と隆二さんはリビングへ向かった。
隆二さんの集めた近辺の高校の資料は7校分もあった。隆二さんが俺に薦めてきた高校はキュリアス学院という学校だった。
選んだ理由は単にココからの距離が近いと言う所にあるとの事だった。…俺としてもその方がありがたい…なんせ俺は朝が大の苦手だからだ。
『ん!?隆二さん。距離だけ考えるとキュリアス学院よりインバルト高の方が近くないすか!?』と地図を見たまま隆二さんに聞き、即答しない隆二さんの顔を見上げた。
『まぁ…そぉなんだが…インバルトはこの辺で最も頭の悪い高校なんだ…仕事とは言えお前の通う学校に行くのは嫌だしな…できればキュリアスくらいの学校に通ってほしい…かなぁぁ…と。』
隆二さんは最後に『まぁ最終的にはお前が選んでくれれば良い!!』と優しい声をかけてくれた。
『ふぅん。そっかぁ。じゃぁココは無しっと。』インバルトに罰印をつけた。
『キュリアスはどれくらいのレベルなんすか!?!?』と隆二さんのお勧めする高校の学力を訊いてみた。
『キュリアスはこの周辺では3番目だな。中の上といった所かな。』
ふ〜んっと相槌を打ち、俺は適当に資料を眺めていた。
【どれも、似たような感じの学校だな…これなら隆二さんに任せて、キュリアスって学校に通おうかな…】っと思った時、俺の目に信じられない文字列が映った。
≪…☆魔法の授業も開始しました☆…≫
俺は自分の歳も忘れ、恥ずかしい事に魔法と言う言葉に目をキラキラとさせてしまっていた。
いやいや、それだけではない、もう既に頭の中では魔法を唱えたりしていた…
そう。完全に妄想の世界に入り込みニヤニヤとあれやこれやとやりたい事リストを作り上げていたのだ。
『隆二さん!!!俺、ココが良いです。』と熱意を込めビシッっと指差した。
俺の指差す場所を見るなり、『エルピネス学院か…無理だ。やめとけ。』隆二さんは即答した。
崩壊した。俺の頭の中で積み上げてきたやりたい事リストたちが、あれよあれよと崩れていった。
500年ものタイムスリップをし、初めてこっちの世界に来て良かったと感じた俺の夢はものの15秒程で無になった。…仕方ないか…
『やっぱり高いんですか???』と俺にとって諦めるしかない理由の一つはお金問題だ。居候の身分で贅沢など言えるはずも無いからだ。
『いや、金は只だ。国がだしてくれるんだ。言わば入学できた人たちは全員特待生…そうゆう事だ。』隆二さんは腕を組み、勝手に頷きだした。
『え!?お金かからないなら無理な事なくないすか!?』
『いや…あんまり言いたかないんだけど、ようはココの問題よ。』と隆二さんは右手人差し指で自分の頭をトントンと叩いて見せた。
『…』
『それに、入学さえ出来てしまえば只なんだが、受験料が鬼の様に高いんだ。一発で受かればかなりの儲けだが、そうそう受かる奴はおらん。』
『どれくらいなんです??』っと俺は少々力なく訊いてみた。
『毎年受験者数でかわってくるんだが、今年は……75万ペルだ。平均は120万ペルらしい。今年は受験者が沢山居たらしいな。』 *1ペル = 1円*
『じゅ…受験料でその値段はボッタクリじゃないすか…』あまりの高さに声を荒げた。
俺達の時代でも私立、公立、県立、都立、国立…など色々な高校の種類はあったが、受験料が平均120万なんて高校は全国探しても恐らく無いだろう…
『まぁそれだけ、価値のある学校なんだ。高貴もコレをみて決めたのかも知れんがココでは魔法を習う事が出来る。この時代においても魔法の存在は大きいんだ。それに入学さえすればただだしな。』
と隆二さんは言った。
『俺も一回だけ親に頼み込んで受けさせてもらったが…全然話にならなかった…』とボソボソっとかすれた声で付け加えていた。
恐らく大学生レベル、いや大学のトップクラスの問題が出たりするのだろう…少々、知識には自信があったのだが…やっぱり無理そうだな。
『んー。そうだな。よし。今年は安いし、一回だけなら受けても良いぞ!!!兄貴である俺が受けてお前が受けれないなんて可哀相だもんな。』とニッと白い歯を出して笑い、『当たって砕けろ』と親指を立てた。
何だろうこの感じ…
好きな女の子と偶然、視線が絡み合ってしまったかのような…ドキリと心臓の右心室と左心室がはじけてしまったような…兎に角胸打たれた感じだった。
『いいんすか!!!!???』
『おう!受かったら受験料も只になるしな。その代わり一回失敗したら諦めるんだぞ。』
『モチッ』とウインクし親指が反り繰り返るほどピンと立てた。