『新たな生活…』
俺は隆二・岡野という男に連れられ訳も分からぬまま彼の家に来てしまった。
さすが500年後の世界…というのは嘘ぴょんで車の進化と比べて建物やその他の家具などはさほど形に変化は無かった。
俺は一応『失礼します。』と言い、靴を脱ぎ…と靴は履いていなかった。そう言えば芝生に寝転がる前に脱いだんだ…と思い出した。
良く見ると隆二・岡野も靴は履いておらず素足だった。俺は念のため靴下を脱いで部屋に上がる事にした。
まぁ適当に座ってくれ。と隆二・岡野に言われ、座布団のような物を発見したので俺はその上にすわった。
『さてと…』と隆二・岡野が話し出した。
約2時間にもわたる長編の話だった。が俺にはあっという間に感じられた。
何度も何度も疑問に思った点を聞きなおしたり、分かりにくい所を何度も説明してもらったりして8割ほど今の状況が理解できた。
彼が言った事をまとめるとどうやら本当にこれは夢ではないらしい。今日ココで眠り起きたら、2507年11月28日となっているだけで500年前にタイムスリップなど絶対にしないとの事だ。
現に俺が500年前から来たのだから絶対に無いとは言えないのではないですか???という質問に対して彼は君が来たからこそこの先10年は起こり得ないと言い切った。
要するにもう、戻る事は出来ないと言う事だ…俺も小学生や中学生の頃は何度かタイムスリップや瞬間移動にあこがれたものだが、まさかこんな形で…
彼が言うには俺にとって戻れないという事はさほど問題ではないらしい。俺は大問題だ!!と声を荒げていった。
【君は恐らく研究材料にされる…】と彼が言いだし、さっきまでも威勢の良い声がひっくりかえり、【え!?!?】っと俺は力なく言った。
俺の前に来た100年前から来た過去人…俺にとっては十分未来人なのだが、その人が100年もの異次元を超えてきたとの事で特例ケースとし、研究され亡くなったと言う話を思い出した。
500年も昔から来た俺は…と泣き出しそうな表情で隆二・岡野に聞いたが、彼は何も言わず黙って首を横に振るだけだった…
不幸中の幸い…と言うのかな、俺が500年前から異次元移動しココに来た事は彼、隆二・岡野しか知らない。そして彼は俺の公表を控え、ココでしばらくの間、親戚の子として置いてくれるそうだ。
本当にありがとうございます…俺は声に出す事は出来なかったが心からお礼を言った。
コレは本当に夢ではなかった。
おれが着てから早1週間が過ぎたのだ。最初の2〜3日は悪い夢なら覚めてくれ…と祈りながら眠りについた。それも隆二さんの言ったとおりの結果となった。
『じゃぁ高貴、俺は仕事に行くからお前も夜には戻って来いよ!!!』隆二さんが警官の姿で家を飛び出していった。警官の姿…とは1週間たってもどうも思えなかった。
俺は昨日初めて外出をした。昨日は日曜と言う事で隆二さんも仕事がやすみだった。色々とこの辺の事を聞いたりと隆二さんにとっては災難な一日だったに違いない。
けど、文句一つ言わず俺の事を弟の様に思って何から何まで世話をしてくれた。
『俺は一人子でな、弟がどうしても欲しかったんだ。と良い本当に嬉しそうに遠慮するな』と言ってくれた事には心の底から安心した。
まずは服装…あの格好で街を歩くのは問題だとのことで、コンピューター、パソコンの進化系の様なものをいじって服を買ってくれた。
誰かが届けてくれるかとおもったのだがコンピュータから出来てきたのには本気で驚かされた。しかしそんな事は序の口だった。
ご飯にしても変な四角い機械、俺達の時代で言う電子レンジの様な物に材料費(お金)を居れるとそのお金で作れるメニューが一覧となって映像に映し出される。それをタッチパネル感覚でタッチするとものの5分で出来上がってでてくるのだ。
見た目はパソコンや電子レンジだが中身の性能は俺達の時代では考えられないほど進歩していた。そうそう、予断だがこの時代にはお金の単価が円ではなくぺルとなっていた。
俺は今日一人で街に出ることにした。露出度80%くらいの服…海水パンツの様な短パンにやけにちゃらちゃらとしたブレスレットのような物を首と両手首につける。コレだけだ。インディアンを想像していただけると分かりやすいかもしれない。
コレがこの時代では普通の格好らしい。と言うより若者の男ならもう少し露出している物の方が良いんじゃないか??と言われたくらいだ。
早速俺はそれに着替えた。これまた驚かされたよ。こんなに露出しているにも関わらず凄く暖かいのだ。俺の着ていた学生服なんか比じゃないほどに。
恥ずかしいと言う気持ちを抑えて俺は図書館に行く事にした。
図書館にはエアバスと言う乗り物で直ぐにいけると隆二さんが言っていた。エアバスから降りると【図書館まで←300M】と書かれた看板のようなものが立っていた。
ついつい『ライブラリンって何だよ…せめてライブラリーだろ…』と口ずさんでしまった。
それともう一つ、あんなに性能の良い家電が一般的に出回っているのに公共の看板はさほど進化していない事に疑問を抱いた。
看板の指す方角に歩いていると、『よう!!!』、『うっす!!!』、『おはよッ!!』とすれ違うたびに俺と同じくらいの歳の人から声を掛けられた事には少々驚いた。
男性、女性問わず、図書館に着くまでに軽く10人くらいには声を掛けられた。
俺もかけられるたびに『おう!!!』と応答しているのだから不思議なもんだ。500年もの年月が過ぎると人見知りと言う言葉は消えるのかねぇ…と少し思った。
コレだけ色々な事が変わっているのに言葉だけは全くかわって居ないのは本気で助かった。
声をかけられる意外は何事もなく図書館に着いた俺は、とりあえず500年前の資料を探した。
図書館とは名ばかりでDVDのような物が棚にずらりと並べてあった。結局自力で発見できなかった俺は図書館の人に歴史の資料が見たいと言い、貸してもらった。
借りたディスクをコンピューターに入れ、検索項目に【2007年】と入力した、0.02秒くらいで検索が終わった。
おもな出来事無し…と画面に出力された時には少々落ち込んだ…
と言うより俺が本来生きるはずの1990年〜2090年の100年間のおもな出来事が2つしかのだ…500年も昔のことだ…仕方ないか…と自分達の歴史の教科書を思い出し何となく納得した。
これでは全く調べ物にならないと、俺は図書館を去り速やかに帰宅した。
何もすることがなくただぼーっとしていると『ただいまぁ』と隆二さんの声が聞こえた。隆二さんの帰宅は昨日より遅かった。
『なぁ高貴!!!お前高校に行かないか!?!?』と近場の高校のパンフレットを持ち帰っていた。パンフレットと言ってもこれもDVDのようなディスクだ。これで帰りが遅かったのか…
『高校なんて無理だよ…土地感も全然ないし、隆二さんは俺の事を500年前から来たって知ってるから良いけど普通の人は知らないんだしさ。それにボロをだしたら…』と俺は語尾を濁らせた。
『何言ってるんだ。お前なら大丈夫だ。勉強をしないとだめだと言ってるんじゃない。学校に言って仲間を作れと言ってるんだ。俺だって500年前の化石に勉強力なんて期待しちゃいない』キッパリ言われて少々むっとした。
『これでも俺はまぁまぁ名の通った高校に通ってたんだぜ!!』と少々見栄を張った。
『へぇ…ちゃんと行ってたのか???』と訊かれ、痛いとこ突かれたなと思いながらも『おう!!!』と答えた。
『じゃぁこの辺で一番賢い所に明日面接に行くぞ。』と隆二さんは嬉しそうに言い、俺は拒否る事すらできなかった。
『高校かぁ…』
と…こっちの世界で今後も生活するしかないのだから知り合いは欲しい。というワクワクする気持ちと、ちゃんとやっていけるのだろうか。と言う不安の気持ちが俺の思考回路を鈍らせ結局、隆二さんに任せ俺は明日高校の面接に行く事になった。