『新たな友人…??』
俺の人生初の喧嘩が今行われようとしていた。…美咲さんのためだ、悔いはねぇ。
相手は不謹慎にも学校の廊下で美咲さんを口説こうとしたが失敗に終わり、それでも諦めずしつこく美咲さんに絡んでいた俺と同じ一年生だ。
学年は同じだが俺のほうが歳は一個上。…実際なら俺のほうが先輩。
【…ここで引いたら男が廃るッてぇもんだ!!…花は桜、男は山岡、…男、山岡。美咲さんのためにいざ出陣】
でも…奴は俺の一個下とは思えないほど体格が良く、身長も175センチある俺よりも10センチくらい高く、体系も子豚が綺麗に引き締まった様にがっちりした、何処からどうみてもレスラーだ。
【ええぃ!!弱音を吐くな。俺が奴を止めなきゃ、美咲さんは…】
『おら、どうした???せっかく胸座掴んだんだから投げ飛ばしてみろよ!!』…っち。ゴリラめ…俺に数分考える時間をくれ、いや、数秒で良い。
俺は奴の期待通り投げ飛ばすなんて野蛮な事はせず、(できるはずもなく)できる限りの鋭い目で奴の目を睨めつけていた。
『クォラァ!!!…お前ら、朝からなにしとるんじゃっぁ!!!まったお前か!!!岡田ぁ!!!』
廊下じゅう…いや、教室の中までも響き渡るほどの怒鳴り声に俺と腐れ外道の視線のぶつかり合いは一時中断され、声の主の方を見た。
『げ、…飯沼…』…先に叫んだ主を発見したのは奴だった。…どうやら叫び主は生徒指導の飯沼らしい…
飯沼は白髪のオールバックで、見た目だけでもかなりの威圧感のある鬼教師だ。体罰なんて朝飯前、時には逆らった生徒とタイマンだってしたりするらしい。…こりゃ、最悪だ。
飯沼は俺たちの方へと一歩一歩、近づいてきた。飯沼が近づくにつれて聞こえるはずもない足音、ズシン!!ズシン!!という地響きが聞こえてくる気がした。
俺は岡田とやらの胸座から手を放し、飯沼が目の前に来る前に「気をつけ」の姿勢になっていた。…不思議な事に岡田も俺同様「気をつけ」の姿勢になっていた。…さらに言うなら美咲さんまでもが「気をつけ」の姿勢になっていた。
飯沼は止まることを知らないのか、俺たちと顔がひっつきそうになるまで近づいてきた。…その距離約15センチといったところだろう。…気持ち悪いので辞めて貰いたい。
…が、こんな状況で、『ちょ、ちょっと先生。近いッすよ!!おっさんに顔寄せられても気持ち悪いだけなんでもう少し離れていただけないでしょうか!?』…なんて言おうものなら骨すら残らないだろう。…男のカンがそう言っていた。
当然、岡田とやらも「気をつけ」の姿勢でぴくりとも動かなかった。…ちょっとした不良がヤクザに絡まれたみたいに…
『岡田!!!お前、今度学校で騒いだらどうなるって言ったか覚えとらんのか!!??』…飯沼の声はこの距離でも小さくなる事はなく、俺と岡田の顔に唾が満遍なく飛んできたしだいだ。
当然だが汚いなどと言えるはずも無く、ひたすら顔に掛かる唾と息に耐えながら聞くしかなかった。
『お騒がせしてすいません!!!決して揉めていたわけではありません!!!久しぶりに友人にあったものでついついテンションがあがってしまいまして。』…よくもまぁこう口が回るもんだな。少々感心した。
俺や美咲さんにとっては正直に打ち明けた方が良さそうだが、流石にこんな先生に叱られると思うと敵ながら同情が芽生えてきた。
『私もすいませんでした…』と美咲さんが飯沼に謝った事で岡田に口裏を合わせてやることが確定した。
仕方なく俺も頭をさげ、数分怒鳴られる事で開放された。
一悶着あったが、とりあえず美咲さんも無事なわけで、めでたしめでたしで教室に戻ろうとした。
『おい。』…声の主は岡田だ。…なんなんだ、こいつはまだ懲りてないのか…今度飯沼に見つかったら完全に現行犯になるのがわからんのかね…
『何か?』…と俺が足を止めると、美咲さんも立ち止まった。
『さっきはすまんかった!!!飯沼に本当の事言ってればお前らは何事も無く開放されただろうに…まぁお前らが俺に合わせてくれたおかげで俺の命は助かったわけだ…本当にすまんかった!!!』…とっさに俺は美咲さんを見てしまった。美咲さんも俺のほうを見て目を丸くしていた。…俺も美咲さんみたいに驚いた表情をしていたのだろう。
美咲さんの目は俺に岡田に返事をしてくれ、と訴えているように見え…『気にするな!!昨日の敵は今日の友だ!!』っと俺は親指を立てて言い放った。…いやー。見事にすべったけどね。
『こ、高貴君…』…美咲さんのクリクリと丸かった目は気持ちの悪い猿でも見るような細い眼に変わり、その反面、さっきまでギュっと矢印の様に閉じていた目は丸く開かれていた。
『昨日の敵は今日の友じゃなくて、さっきの敵は今の友だったな〜ハハハハァ…』…Why??…何故俺がこんな仕打ちを…
美咲さんは俺に預けていたカバンを奪い返す様に取り、一人で教室へと戻ってしまった。美咲さんもあんな顔するんだな…と知った時には時既に遅し…美咲さんははるか遠くの自分の席に着いてしまっていた。
『な…なんかすまんねぇ。お前らが喧嘩する事ないのに…』…今ならこのレスラー岡田すらも瞬殺できるのではないかと感じた。
『うるせ〜ほっとけ、お前には関係ねぇ…言っておくが俺とお前は友達でも何でもねぇからな…わかったらとっとと失せろ…。』…初めて朝早く学校に来たと思えば…本当にろくな事がない。
岡田は何を考えているのか、失せろと言っているのに全く失せる気配がなく、窓にもたれかかる俺の横に居座り続けた。…座っては居なかったが。
『あ〜。高貴君!!!およはうございます!!今日は早いんですね??…どうかされたんですか??』…子豚だ。
『おぉ。子豚か。おはよ。今日は先生に聞きたい事があったんで早くきたんよ。』
『へぇ。そうなんですか…高貴君にも聞きたい事なんてあるんですね。』…子豚よ。この時代では天才児かもしれんが俺だって一応人間だ疑問に感じ聞きたくなる事だってあるさ。
『うむ。』
『ところで、お隣のでっかい人はお友達ですか!?』…子豚は岡田を見上げながら言った。
『おう!!!』…岡田。
『違う!!』…俺。
同時に真逆の応えをした事に子豚は混乱しだした。
『え???どうゆうことなんです!?…』
『朝っぱらからこいつに絡まれて、悲惨な目にあっただけで、俺とこいつは友達でもなんでもない。』
『おう、高貴!!さっきは確かに世話になったが、俺とダチになる事をそんなに嫌がらなくてもいいじゃねぇか!!』…お前に高貴と呼び捨てにされる覚えは無いがまぁいい。
『ふむふむ。君は高貴君と友達になる事を希望しているのですね。』…と子豚は楽しそうにクスクスと笑って言った。
『あ…??大体何だてめぇは、ココは中学校でも、ブタ小屋でもねぇぞ。とっととけぇんな。』…子豚に笑われ少々キレ気味の岡田。
『し、失敬な。僕は中学生でも、ブタでもありません。名前は確かに子豚ですが、正真正銘、人間です。』
『おい、子豚、こんな奴に一々腹を立てるな。騒ぐと生徒指導の先生が来るだろ…』
『あ〜そうだそうだ、いけねぇ。騒ぐのはまずいな。』…子豚を見下ろしていた岡田も冷静さをとりもどし、定位置(俺の横)にもどった。
俺はあまり騒がぬように、子豚に今までの経緯を丁寧に説明し、子豚も大体の状況把握はできた。
『へぇ…それは悲惨ですね…』
『だろ??…』
『でもまぁ、岡田君は高貴君の友達になりたいみたいですし友達にしてあげたらどうです??…僕が聞いていて思った事は岡田君が友達になる事と美咲さんに嫌われた事は関係ないと思います。』…子豚の癖にきっぱりと言い切った。
『うぬ。豚の言う通りだな。俺とお前が振られた事には何の関係もない。』…岡田もいつの間にか打ち解けだし、腕を組みながら頷いていた。
『いいじゃないですか…岡田君が友達になっても。…高貴君、言っちゃ悪いですけど友達、僕と美咲さん以外居ないでしょう??』…グサッ!!!酷い…酷すぎる…あんまりだ…
『な、んな事、ねぇぞ。今日、あそこの山下さんと友達になったしよぉ。』
『…あの人は木下さんですよ…』
はぁ…もう認めざるを得なかった。確かに俺はこの学校に入って付き合いと言う付き合いは何にもしていない。偶然受験が一緒になる子豚や美咲さんが居なかったら…そう思うと少しゾッとした。
『岡田…お前の名前は…』
『あ??…お前が先に名乗れよ。』…無理だ。俺はこいつとは絶対に上手く行かない。そう思う弱気心を押しつぶし、堪えた。
『俺は高貴。ってお前さっき呼んでただろうが。苗字は山岡だ。…お前は?』…なんか口に出して名前を逆さに読むと流石にまだ違和感をかんじるな…
『おう!!山岡か。俺は、慙愧・岡田だ。』…なんちゅー極悪そうな名前しとるんだこいつは…
『高貴君、良かったですね。友達が一人増えましたね。…高貴君の友達は僕の友達でもあります。新輔・子豚と申します、以後お見知り置きを。』
まぁ、最初は乗り気は無かったが話してみると、子豚、美咲さんの二人より俺は岡田との方が話が合うらしく、久しぶりに俺の時代の友人の事を思い出した。あいつら、何やってんのかな…英明さん…
考えても悲しくなるだけだな…と心の涙を拭いて子豚と岡田との会話に戻った。
岡田とマジで友達になったことを美咲さんが知ったら…そう思うと教室に入る足取りが重く感じた。
御閲覧本当にありがとうございます。
大変、身勝手な事なのですが土日は小説を書くことが出来ず更新も出来ません。この場をお借りし深くお詫び申し上げます。
皆様からのご意見、ご感想、ご指摘を辛口でも構いませんので是非お聞かせください。
先週、岐阜県の飛騨へ温泉旅行に行ってきました。私も驚いたんですが雪が尋常じゃないですね…
私の住んでいる所はまだ雪が降っておらず(日本の殆どがそうだと思うんですが…)ノーマルタイヤで向かったわけです。
天候も悪くなく、快調に高速を飛ばしていると、普段は見かけぬ人が居ました。…そう。検問です。
私は見事にチェーン規制に引っかかり、人生最大の200キロユーターンをし家に帰りスタットレスに変え再び飛騨に向かいました…
皆さんも年末出かけると思いますが、寒い所に行く際にはチェーン規制だけには十分注意してください。←普通は引っかかりませんよね…