『念願のRPG…のために』
『全く…高貴君は情けないっすね…告白するわけでもあるまいし…それも僕の家に誘うだけなのに…あぁ、情けない情けない。』
子豚の家へと行く下校中俺はずっと子豚の説教じみた嫌がらせを受けていた。
自分自身でも情けない…と反省しているだけに何も言い返せないのがさらに己を惨めにした。
『そぉ言えばお前の方はもぉ誘ったりしてるのか??』…いい加減子豚の説教もうんざりしてきた俺は子豚の恋愛状況を聞いてみた。
『え!?!何がです!?』
『だからぁ。お前好きな子が居るからあの学校選んだんだろ!?その後の進捗状況はいかほどかと思ってな…』
『いえ、僕はまだ何も。恐らく相手は僕の存在すら知らないと思いますよ。』…子豚はキッパリと言い切った。
『っけ。お前の方が情けねぇじゃねぇかよ。』と俺もきつい言葉をかけてみたが、『僕は痩せてからが勝負なんですッ!!』とこれまたキッパリと言われ俺は呆れるしかなかった。
『ただいまぁ…』
『お邪魔します。』…一応挨拶はしたが、子豚家は俺と一緒に帰宅した子豚以外全員外出中で家の中から応答は無かった。
手も洗う事無く子豚の部屋へと直行し、『ちょっと飲み物用意するので適当に寛いで居てください』と子豚に言われ、子豚の体系にあった大きなベットに持たれ子豚の帰還を待つことにした。
ベットに机、クローゼット、窓、部屋の物が全て大きく、こんなに広い部屋が狭く感じた。
ごちゃごちゃと物が散らかっている中、ライトアップされたように俺の目に飛び込んできたのはあのゲーム機だった。…何て名前だっけな…あぁ。そうそう【ERSSG】だったな。
俺の手は引き寄せられるようにゲーム機へと運ばれた。
『お待たせです。ミカレンジジュースしかありませんでしたが、どうぞお飲みください。』と子豚は上品そうに二つのグラスをわざわざオボンに乗せて運んできた。
『おぉ、さんきゅ。』
『…あれ??ERSSGやりたいんですか??』…と俺の目の前に置かれたゲーム機を見て、子豚は言った。
『あぁ、前にやったときからずっとやりたくてな…俺RPGには目が無くてさ…あの日からずっと頭の中でやったりしてたよ…』
『えぇ〜じゃぁ僕の家に遊びに来てくれれば良かったのに…』
『いや〜俺は毎日暇だけどお前のとこのお母上やお父上にご迷惑がかかってしまうだろう。』
『いいんです。僕には友達と呼べる人が高貴君しか居ません。そんな大切な友達が来る事を両親が拒んだら僕が許しません。』…俺は何だか悲しくなってきたよ…頑張れ、子豚。
『そうゆうことなら…じゃぁ…遠慮なく来るとしよう。…で、今日は何か用でもあったのか!?!?』
…まさか俺が全然遊びに来てくれないから寂しかったなどと言い出すんじゃ無いだろうな…そんな気持ちの悪い事、言い出しやがったら俺はもう二度とこの家の仕切りは跨ぐまい…
『来週、校内テストがあるので勉強を教えてもらおうと思いまして。呼びました。』…俺は正直安心した。…数秒ね。
『ふ〜ん。ってお前なぁ…そぉ言う事は来る前に言えよ…』
『ですが、僕がテスト勉強を見て欲しいと言ったら来てくれないでしょう!?』
『ふむ。御尤もだ。』
『じゃぁ、告げずに誘うしかないじゃないですか。』
『あほか。俺は帰る。ミカレンジジュース、ありがとな。じゃっ』
『ちょ。ちょっと待っててくださいよ!!!』
…と子豚は俺の足にしがみ付き、いまにも泣き出しそうな目で俺を見つめてきた。…そんな目で俺を見るな。お前にそんな可愛い瞳を向けられても気持ち悪いだけだ…
『あぁもぉわかったよ…その代わり、俺が今後ゲームやりに毎日の様に訪れても文句言うなよ!!??文句言ったらゲーム機を持って帰るからな??』
子豚はブルブルブルと顔の肉を揺らしながら首を振り、『はいッ!文句など言いません!』と嬉しそうに答えた。
『コニィ…子豚よ。今更だがお前は何で俺に敬語で話すんだ???』…俺は何気ない疑問を子豚にぶつけてみた。
『え!?年上の人に敬語で話すのは当たり前の事ではないですか!?』
『なるほど…』…年上とか気にするわりには名前は君付けで呼ぶのね…まぁ良いか。
子豚はさっそくテスト勉強をするらしい。
小さいちゃぶ台を出し、ノートと教科書を広げ、鉛筆を鼻の下で挟み悩んで…って言うのは俺の時代のテスト勉強であって子豚達の時代の勉強方法はまた違ったものだった。
木製なのかアルミ製なのかジェル製なのか分からないような小さな机を出し、その机についているボタンを押すと気体状で出来たエアーモニターが浮かび上がった。
そのモニターに自分達の通う学校のバッチを翳すと【エルピネス学院…読み込み中…】と言う文字列が表示された。…読み込みが終わると、俺達の学校のシンボルが映し出された。
子豚がモニターに向かって『3期、校内テスト、仮問題集…』と話しかけると【サンキ、コウナイテスト、カリモンダイシュウ…了解シマシタ。】とモニターからの応答があった。
【Now Lording…】となり画面が暗くなると、2〜3秒ほどで問題が表示された。
『な…なんだこれ!?すげーなぁ…』
『え!?知らないんですか!?!?もしかして高貴君…勉強とかした事無いんですか??』…どうやらこの作業は俺達が教科書を片手に勉強するような事と同様でこっちの時代では当たり前の事らしい。
『あ、いや、その…』と俺が何て言い訳しようか考えていると『まぁ高貴君の場合勉強をした事がないと言われても不思議じゃありませんが…』と子豚が勝手に勘違いしてくれた。
ハハ…っと適当に苦笑し、モニターを覗いて子豚がやろうとしている問題を確認してみた。
『ふむ。数学からやるのか。』
『えぇ。僕は数学があまり得意でないので、長い時間かけて勉強しようと思っています。』
『そう。がんばって。』
…入試の時よりは多少難しくなっていたが、それでもまだ掛け算と割り算…というレベルだった。
俺の役目は子豚が勉強を終えるまでの3時間、ただひたすら待つ、子豚が分からない問題があったら俺は教える。子豚の勉強が終わるまではゲームもお預けと言うわけだ。…それにしても3時間って…長いな…
子豚は早速、分からない問題にぶち当たり、俺の肩を揺すって質問してきた。
『高貴君…この問題なんだけど…』…見てみると【3+4 x 2 = ??】と書かれていた。
『ふむ。これの何処が分からないんだ??』
『いや、分かるには分かるんですが、答えが合ってないんですよ。』…それを分かっていないと言うのでは無いのか??
『僕が解いた答えは、【14】なんですが、答えの確認をしたら【11】と書かれているんですよ…コレって答えのミスですかね???』
『いや、俺が解いても【11】になるぞ…お前【3+4】を先に計算しただろ。』…『うん。そうですね。』
『計算式に掛け算と足し算があった場合は( )で囲まれていない限り掛け算が優先されて先に計算するんだ…』
子豚は数学の先生が言っていた事を思い出したかのように『あ!!』と声をあげ、『ありがとうです。』と再び勉強に戻った。
何度も同じような事で呼ばれたくなかったのもあり、『引き算も割り算も同じだからな』と先に教えてやると、『そんな事知ってますよ…』とクソ生意気な口調で言い放った。はぁ…少し寝るか…
『高貴君。高貴君。起きて下さい。』
『あ…??勉強終わったのか???』
『はい。勉強終わったので、そろそろ帰ってください。』
『なぁにぃぃぃ!!!』と怒りをあらわにしようとした時『冗談ですよッ!!ゲームでもしますか。』と子豚は笑いながら言った。
『冗談か…もぉ用無しで追い出されるのかと思ったよ…』…やっと念願のリアルRPGが出来る…俺は秋葉系アイドルのアキハバラ・モエちゃんにキスしてもらえるオタクの様に…失敬。例が悪すぎた。ヒーローに握手してもらえる子供の様に俺は目をキラキラと輝かせていた。
『その前に、最後に一つ質問して良いですか???』
『なんだ…』…人の綺麗な妄想を粉々に砕きやがって…
『高貴君はそんなにぐーたらして、いかにも頭が悪そうなのに、何故勉強が出来るのですか???』
『子豚よ…俺に喧嘩を売っているのかい???』
『いえ、ずっと前から気になっていたもので。』…子豚には悪気など全くないという事は百も承知だったが、一発頭に拳骨をお見舞いし、『影で努力しているからだ』と大嘘を付いた。
『頭が良いのは納得できたんですが…殴られたのには納得できません…』と子豚も俺の頭に拳骨を食らわしてきた。
数分取っ組み合いになり、お互いの体力が切れたことで、仲直りの握手をし、ゲームをする事になった。
『RPGと言いましても色々ありますがどれにします???』