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なんてことのない1日の終わり

「じゃあまたね、ふうちゃん」

「うん……」


 ふうちゃんを家まで送ると、俺も妹の待つ家へ足を進める。

 といっても、隣なんですぐですけどね。


「ただいまー」


 玄関の扉を開け、靴を脱いでると、トコトコと可愛い足音をならしてこちらに妹が向かってくるのが分かる。

「お兄ちゃーん、おかえりー」


 トコトコ鳴らしたまま勢いを殺さず、ぎゅっと俺に抱きついてくる甘えん坊さん。

 紹介が遅れたが、これが俺の妹の布川未央。

 先ほどから名前で呼ばず妹と呼んでいるが、これは妹の要望で自分のことは妹と呼ぶようにとお願いされたのでこう呼んでいる。

 理由は分からないが、未央と呼ぶと何故か機嫌が悪くなるんだ。なかなかめんどくさい妹だろ?


「ねぇお兄ちゃん、お腹すいたー」

「あぁ、今からご飯作るからもう少し待っててくれるかい?」

「うん!」


 お腹をすかせてるし、制服のまま作るとしようか。

 妹が引っ付いたまま冷蔵庫の中を見ると、玉ねぎ、豚肉、ジャガイモ、にんじん、カレーのルーがそれぞれ2人分はあり、それ以外は見事に何も無かった。

 カレー以外の選択肢が潰されていた。


「……今晩はカレーにするか」

「やったー!」


 後ろで大歓喜の妹さん。

 お兄ちゃんとしては、妹の笑顔が見れたらそれだけでも嬉しいので、今回のことは偶然こうなったんだろうと割り切るよ。

 みんなもよくあるだろ? 冷蔵庫の中身が偶然カレーの材料しかなかったなんて現象。

 そういうことなんで、それじゃあカレーを作っていきましょう。



「「いただきます」」


 あっという間に出来たカレーを俺たちは頂く。

 妹さん、ご感想のほどは!


「うん、おいしい!」


 うおっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!

 不安しかなかったけど何とか美味く作れたな。

 普段から料理してても、やっぱおいしいの言葉をもらえないと自信がでないからな。


「お兄ちゃん、食べないの?」

「ん? あぁ食べるよ」


 俺も食べるか。

 モグモグ…………うん、おいしい。

 さっすが俺だな。もうカレー職人を名乗ってもいいぐらいだろこれ。

 ……もうカレーの感想はいいか。


「なぁ、妹よ。今日は何してたんだ?」


 食卓を囲めば、俺は決まってこの話題を振る。


「今日? 動画見て、掲示板見て、ネトゲしてたよ」

「ほう、ちなみにどんな動画見てたんだ?」

「猫がルンバに乗って部屋を1週する動画」


 想像したらなんか可愛いなおい。


「へぇ、面白そうだな。今度俺にも見せてくれよ」

「うん、いいよ!」


 ふむふむ、この調子だと今日も妹は特に問題はなさそうだな。

 明日は休みだし、一緒にどこか遊びに行っても問題ないだろう。


「明日どこか行ってみたいとこはあるか?」

「…………どこにも行きたくない。お兄ちゃんと一緒に家でゲームしていたい」

「……そっか」


 まぁ、妹がそう言うならそうしよう。

 別に外に遊びに行くことが、妹の為になるわけじゃないしな。

 明日は格ゲーで布川家チャンピオン決定戦でもやりますか。最初から決勝戦だけど。


「じゃあ、明日は俺と勝負だな」

「うん! 絶対に負けないんだから!」

「ほう、妹だからって容赦はしないからな」

「そんなこと言っていいのかな? 妹に負けちゃったらお兄ちゃんとしての立場が無いんじゃないの?」

「……言うようになったじゃねえか」


 こりゃ戦争だ。

 明日という日を覚悟するんだな。



「お兄ちゃん、わたしが寝るまでどっか行っちゃダメだよ」

「ふふ、分かってるよ。ほら、もう9時だから寝ないと」

「……うん。おやすみお兄ちゃん」

「あぁ、おやすみ」


 カレーを食べ終えた俺たちは、明日の決闘に備えるため、早めの9時に就寝することにした。

 うちの妹さんは俺が近くにいないと寝れない困ったさんなので、こうして寝るまで傍にいてやらないとダメなんだ。


 まぁ、妹にもいろいろあるんだ。むしろ可愛いもんだろ?

 そんなこんなで30分ほどで妹の寝息を確認したら、静かに部屋を出て行く。

 自分の部屋に戻った俺は、机の上でブルブル震えてる愛しきスマートフォンに気付く。

 こんな夜に一体、


「……はい、もしもし?」

「……えいちゃん、未央ちゃんとキスした?」


 いきなり来たなおい!

 こんな時間にまさかのふうちゃんから連絡来たと思ったらそれかよ。

 俺の少しのドキドキを返してくれ。


「いや、してないけど」

「……そう」

「……」

「……」


 やべぇ、会話終わっちまった。

 まさか、それだけの確認のために電話してきたって言うのかよ。

 あー、どうしよう。なにか話さなきゃ。


「……ねぇ」

「え? あ、なに?」

「……キス……しちゃダメだから」


 そう言い残し、向こうから電話を切られてしまった。

 ……え? 用はそれだけなの?

 もっと夜だからこそ、こうなんていうか他愛のない話で盛り上がったり、休日のお出かけの約束をしたり、よくある次のページからあの子とドキドキしちゃうラブシーンの前日みたいなやつを期待してたんだけど。


 いや待て、これあれだ。今朝のあれと同じだ。10年以上幼馴染やってる俺には分かるぞ。

 照れ隠しだ。そうであれば全てが納得できる。

 今朝のだってそうだし、放課後の帰りのあれだってそうだ。照れなきゃあれだけ可愛いしぐさや電話であんなこと言わないはずだ。


 そして照れ隠しから出るもう1つの結論。

 ふうちゃんは、間違いなく俺のことが好きだ。

 あー、これだわ。だって、もうこれしか考えられないもん。これじゃなかったら一体何なのだというんだ。


「……告白するか?」


 なんか今なら出来そうな気がする。だって脈ありでしょこれ。

 なんとも思ってない男と毎日一緒に登下校するか? それも小学校からずっと。

 それに、キスしちゃダメってさっき言ってたけど、好きでもない男子にそこまで言うわけないだろ。

 これは間違いなく俺を待っている。告白する俺を待ち焦がれているんだ。

 もうこれだけで根拠としては十分だ。


「よ、よし、い、いくか。お、俺か、か、から、い、いく、か?」


 無理だこれ! 絶対に失敗するやつだよこれ。

 そりゃそうだ。今まで一度たりとも告白したことだって、されたことだってないんだ。

 くっそ、俺には告白はまだハードルは高かったか。だが、そんなこと言ってたらいつまでも待ってるふうちゃんに申し訳ないし。

 どうしよう……。


「……あ、もう10時だ」

 そろそろ寝よう。


 告白はまた後日考えよう。ふうちゃんだって今すぐってわけじゃないだろうし。

 明日は妹といっぱい遊ぶんだ。今出来ないことを考えるより明日のための睡眠だ。

 それでは皆さまおやすみなさい。天のいたずらがなければ、明日にまた会いましょう。


ここまで前座。

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