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3万円あったら何がしたい?

「それじゃ妹よ、行ってくる」

「うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん、ふうかちゃん」

「……うん……」


 俺とふうちゃんは、妹に見送られ、今は2人で学校までの道のりを歩いている。

 家から俺たちが通う文橋高校までは、片道30分ぐらいかかる。

 季節が春なことで、学校までの道には未だに桜の残り香がふんわりと感じられる。

 俺たち2人は、高校に入って1年経った今でも毎日一緒に登校している。

 妹の前ではついふざけてしまうが、ふうちゃんと2人きりだとそうはならない。


「ねぇ、今日はなに読んでるの?」

「……」


 この通り、俺の言葉も耳に入らないほど没頭して、歩きながら本を読んでいるのだ。

 歩きながら本を読むのは危なくねえか? という意見があると思うがそこらへんは問題ない。何故なら、そのための俺だからだ。

 ふうちゃんは小学生からずっと登校中は本を読んでおり、それを見つけた俺が危ないと思い、こうして隣を歩いて見守っているというわけだ。

 今日もその日常は変わらない。学校までの2人きりの静かな時間を、俺はそれなりに気に入っている。



 そんな時間をしばらく過ごし、俺たち2人は30分など一瞬に感じるほど早く、学校に着いた。

 教室に入ると、騒がしいやつらの横を抜け、俺とふうちゃんは各々の席に着いた。

 といっても、隣同士なんだけどな。


「おはよう、瑛太くん」


 席に着くと、背後から人を包み込むような甘い声が俺の名を呼んでいた。


「や、やぁ、おはよう。結菜ちゃん」

「やだなぁ瑛太くん。そんなに緊張しなくてもいいじゃない」


 か、顔が、ち、近い……。

 このスキンシップの強い彼女は千崎結菜。このクラスの学級委員長だ。

 結菜ちゃんは確かに学級委員長なのだが、腰まで伸びたくせっ毛の金髪に、こちらを見つめる瞳はどこか妖艶的で、特に服の上からでも分かるでっけえおっp……胸が完全に男を殺す兇器となっている。故に、男子からは影で、どスケベ委員長って呼ばれてる。

 おそらく土下座すればやらしてくれ――、


「あれ? 瑛太くんからやらしいこと考えてる臭いがするなぁ……」

「……気のせいだよ」

「ふーん……」


 え、やだぁ~。俺ってそんなにやらしい臭いでちゃってるの~?

 んなわけねえだろ! ちょっと嗅覚がおかしいんじゃねえの! 

 ……はい、そんなどスケベ嗅覚お化け委員長、結菜ちゃんは名前の通り委員長である。

 見た目からは想像できないかもしれないが、クラスをまとめる存在として誰もがその豪腕を認めている。先生も認めてるし、もう委員長のプロと言ってもいいかもしれない。

 あとは3万円払えば――、


「えいちゃん……それはダメ……」

「え? あ、え、うん……」


 くっそ、隣にエスパーがいたわ。

 臭いも嗅がれるし、心を読まれるし、どうなってんだここは。

頼むからやめてくれマジで。


「……あと結菜さん……えいちゃんに近づきすぎ……」

「えぇー、別にいいじゃんこんくらい。ただのスキンシップだよ、委員長としてね」


 こんくらいと言ってますけど結菜さん、俺の腕を掴んで胸に当ててますけどこれが委員長としてのスキンシップなんですかね。

 そうなら、ぜひそのまま離さないでいただきたい。


「……えいちゃん……迷惑がってる……」


 いや、別に迷惑というわけでは……。


「え、そうなの?」

「あ、いや――」

「なーんだ。別にいいんじゃん」


 おっと、決断が早いですね。さすが委員長といったとこか。

 それになんだか、腕に抱きつく力が強くなっている気がする。

 なんか豊満な胸が俺の腕を思いっきり挟んでるんだもん。

 なんか、こう、いいっすね。へ、へへ……。


「……」


 ……やべぇ。隣でふうちゃんが、ゴゴゴゴゴって文字が見えそうなぐらいの雰囲気でこっちを見てんの。

 無表情だから余計に怖いんだよ。俺がいったい何したっていうんだ。


「あれ? 楓花さんそんな目で見てどうしたの? 私なにか気に障ることでもしちゃったのかな?」


 まずそういう発言がやばいんだと思うよ。

 気に障ったかなって発言をする人こそ、人を怒らせるのが得意な人の特徴だと思うね。


「……べつに……」


 うん、それも機嫌が悪い人ほどよく返す言葉だね。

 なんで2人はいつもそんなに仲が悪いんだ。

 1年生のときからそうだよね。君たちはいつも目を合わせると挑発的だったり、機嫌を悪くしたりと目線だけで火花を散らしているよな。

 あっ! まさか、


「お前らまさか俺のことがぐふぉっ――」


 言いかけたとこで、ふうちゃんからは腹を蹴られ、結菜ちゃんからは腕を離し力いっぱいの腹パンを浴びせられた。

 な、なぜだ……。


「……えいちゃん……それは違う……」

「うん、それはないよ。瑛太くん」


 拒絶の言葉を吐いたとこで、2人はもうすぐ始まるホームルームに備えてそれぞれの席に着いていた。

 あれは軽い、えいちゃんジョークのつもりだったんだけど、こうも本気でやりますか。

 暴力ヒロインは今時流行りませんよ本当。


「あぁ、ダメだ。立ち上がれねえ」


 まったく、困った子猫ちゃん達なことで。

 


「ねぇ瑛太くん、楓花さん、これからクラスの何人かとカラオケに行くんだけど、来ない?」


 授業が終わり、帰る準備をしていると、委員長が俺たちを誘ってきた。


「ふうちゃんはどうする?」

「……えいちゃんは?」

「俺? うーん……俺は行かないかな。妹の夕飯の準備とかしたいし」


 悩むまでもないことだけど、結菜ちゃんの前だから悩む素振りだけは見せとかないとな。


「そう……なら私も行かない……」


 だろうな。ふうちゃんはみんなとカラオケってとこに行きたがる子じゃない。

 俺もそれは同じ。妹の事を抜きにしても、俺はたぶん誘われてもいかない。

 なんか苦手なんだよな。大人数で行動するのって。


「そっかー、なら仕方ないね。じゃあ2人とも、ちゃんと月曜日に学校くるんだよ」

「あぁ、じゃあな」

「……」


 結菜ちゃんと別れ、俺とふうちゃんは部活にも入っていないため、そのまま家に帰る道を歩く。

 案の定、ふうちゃんは隣で本を読み歩いている。放課後になっても、そのスタイルは変わらない。

 しかし、どうなんだろうなぁ。こうして放課後2人で歩いていると周りにはカップルに見えたりするんじゃないかな。

 あぁ、そういうのも悪くないな。フフ……。


「……っ! ……」


 ふと隣を見ると、いつもなら俺なんて気にしないふうちゃんと目が合った。

 だがそれも一瞬のことで、すぐに本で顔を隠されてしまった。そしてそのまま、また本を読み始めてしまう。

 そのしぐさはなんというか、こう、ぐっと来ますね。うん、可愛い。


「どういう風の吹き回しかな?」

「……べつに……」


 おっと、このべつには完全にべつにって感じじゃないですよね。

 可愛すぎるべつにですよこれは。デレべつにって名付けましょう。

 こんな珍しいふうちゃんが見られるなんて、今日はいい夢が見れそうだ。


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