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俺だけが盛り上がれない転校生イベント

 いつもの学校への道。俺とふうちゃんの静かな時間だが、今日より1人騒がしい奴が追加したことで、10年以上保っていたバランスはいとも簡単に崩れていく。

 ふうちゃんのほうも落ち着かないのか、本に目を通しながらもチラチラこっちを見てくる。

 仕方のないことだ。俺はまだふうちゃんに事情を話してないし、分裂したサラを見れば不振がって当然のことだ。

 まぁ、当の本人は何事も無かったかのようにニコニコ歩いてますけど。


「学校、楽しみですねー。あ、どうですこの制服、似合ってます?」

「似合ってる似合ってる」

「あ、瑛太さん適当です! ぷんぷん!」


 正直言うとかなり似合ってる。たぶん全学年含めて1番似合ってるんじゃないか?

 いや、制服が似合うというより、元のルックスがいいからなに着ても絵になると言ったほうが正しいか。

 ただ、コイツを真面目に褒めるのはなんか俺のプライドが許さなかった。


「……えいちゃん……説明、求む……」


 気になりすぎて、とうとう朝の本を閉じてしまったか。

 さて、どこから説明すればいいのか。

 言いたいことが多すぎて困ってしまうな。


「では、私から説明いたしましょう」


 え、大丈夫なの? 

 不安すぎる。一体何をしでかすか分からない。

 まさか天使だって暴露しちゃうのか――、


「実は私、瑛太さんの手助けをするため、天界からやって来た天使なんですよ」


 ……言うんかーい!

 なんだ君、嘘とかつけないの?

 今の時代、天使って言われて信じる人なんかこの荒んだ現代社会にいるわけ――、


「……そう……信じるわ……」


 ……え、信じるの?


「……あんなとこ見ちゃったら……信じるしかない……」


 あんなとこ? どんなとこなの?

 一体なにを見たんだふうちゃん。


「えへへ、あれを見られるとは、今思うとすごい恥ずかしいですね……」


 だから何を見られたんだ。

 あれとかじゃなくてもっと何を見たのか教えてくれよ。


「……えいちゃんは……知らないほうがいい……」

「そうですね。私もちょっと知られたくないかもです。えへへ」


 まじかぁ……。

 そんなに知られたくないなら何があったかは聞かないけど。

 俺が見てないとこでなにがあったのかとすれば、おそらく分裂したときだよな。

 あそこでたぶん、俺にはお見せできないなにかがあったに違いない、

 くっそー、気になるなー。


「……あの時のサラさん……すごいエッチだった……」

「ちょ、ちょっとー、瑛太さんの前でやめてくださいよ。楓花さんの前でも結構恥ずかしかったんですからね、あれ」


 すげえ、気になるー!


 

 あれから、ふうちゃんとサラは仲良くなっていき、学校に着くまでずっとお喋りが止まらなかった。

 と言っても、サラが一方的に喋ってふうちゃんが相槌する感じだけどね。

 それでも、俺が会話に入る隙は1ミリも無かった。


 下駄箱まで行くと、サラは何か用事があるみたいで先に行ってしまった。おそらく行き先は職員室だろう。

 残された俺とふうちゃんは、いつも通り騒がしい教室に入り、騒がしい奴らの横を通り抜け、自分たちの席に着いていく。

 だが、いつも騒がしい奴らが今日に限って何倍にも増して騒がしい。

 というより、教室全体がなにかざわついているようだ。


「おはよう、瑛太くん」

「あ、おはよう結菜ちゃん」


 どスケベ委員長さんおはようございます。今日もスカートが短くてとても良いですね。

 ちょうどいい、委員長である結菜ちゃんならこのざわついた空気もなんなのか教えてくれるでしょ。

 ついでに3万円ほど渡して――、


「……結菜さん……教室うるさいけど、なにかあったの……?」


 俺より先にふうちゃんが問いに行った。


「うん? あぁ、たぶん転校生が来るって聞いて、みんなその話題で盛り上ってるんだと思うよ。噂では、かなりの美少女らしいからね」


 なんですとー!

 美少女転校生イベントキマシタこれー! 

 ついに我が青春。今から始まるギャルゲー主人公物語。まだ名も知らぬ美しき転校生と過ごす高校生活に期待で胸がドキドキ……ってするわけねえだろ!

 知ってるんだよ! 誰が転校して来るかなんてな!

 だって今日一緒に登校してきちゃったもん。アイツと高校生活とか不安しかなくて別の意味でドキドキして心臓が破裂しちまうわ。


「……」

「瑛太くんも、やっぱ転校生ちゃんのことが気になっちゃうのかなー」


 頭を抱えていた俺に、結菜ちゃんは後ろから抱きついてきた。

 今日のミス・どスケベのスキンシップ、いただきましたー。

 相変わらずやわらけぇ乳してんなー。おらドッキドキすんぞ。


「……結菜さん……人前で下品よ……」


 おっと、やはりふうちゃんが間に入ってくるか。見事に俺と結菜ちゃんが引き離されてしまった。


「別に、下品じゃないでしょ。友達ならこんぐらい普通だよー」


 同姓ならな。

 友達でも異性ならそれなりの距離感ってのがあると思うんですよ。


「そーれーとーもー、瑛太くんはこういうの嫌だったりするのかな?」


 あ、全然大丈夫ですよ?

 むしろ推奨します。ぜひその乳を有効活用してください。

 だ、だがこんなこと本人の前では言える筈もない。


「そ、それより、い、いったい、だ、誰が転校してくるんだろうなー……ははは、気になるぅー……」

「……」


 ふ、ふうちゃん困ります! そんな愚人を見るような目つきで俺を見ないでください!


「そうだねー、本当に美少女だとあたしの瑛太くんが取られちゃうかもしれないなー。ほら、瑛太くんかっこいいし」

「ははは、かっこいいなんて大げさだよ」


 えっ、俺ってかっこいいの? 

 生まれて17年はじめて言われましたよ。しかも結菜ちゃんに。

 今までモテないのは顔のせいかもと思っていたがそんなことはなかったんだ。きっと、イケメンすぎて誰も俺に近づけなかったんだ。

 まったく、俺って罪な男だぜ。


「……ん? 今、あたしの瑛太くんって言わなかった?」


 いやね、聞き間違いだったらいいんだよ?

 ただ、念のため、ね?


「うん、言ったよ」


 ……ど、どういうことだってばよ。

 なぜか所有物になってませんか?


「そ、それってどういう――」

「はーい、みんなー席に着いて。ホームルームはじめますよー」


 俺らの担任の、柊先生が教室に入ってきたことで、騒がしい奴らも含め、俺たちの会話が中断されてしまった。


「瑛太くん、じゃあまた後でね」


 結菜ちゃんも、そそくさと自分の席に戻って行った。

 まぁ、休み時間にでも聞けばいいだろう。

 ……あ、やばい、めっちゃ気になってきた。

 ダメだー。これ一度気になりだすと止まらないやつだ。


「いったい、なんだったんだ……」

「……」

「ふ、ふうちゃん?」


 先ほどからこちらを能面のごとく見つめ続けてくるふうちゃんに、つい声を掛けてしまった。

 俺、なんかしました?


「……なに……」

「あ、いや、今日もいい天気ですねーって……」

「……そうね……」


 あ、ダメだ。ビビリ過ぎて、彼女に嫌われる会話の切り出し方ランキング(俺が独断と偏見で勝手に作った)の第2位を繰り出してしまった。

 ちなみに1位は、好きな時代劇の質問な。答えるやつなんてまずいないし、いたとしても大体が水戸○門か暴れん坊○軍だから。俺はどっちも知らないけど。

 俺が謎の悔いを感じてる間にみんなが席に着き、静かになったとこで今日の朝のホームルームが開始される。


「おはようございます。今からホームルームを始めたいと思うのですが、その前に皆さんに嬉しいお知らせと悲しいお知らせがあるのです。布川くんはどっちから聞きたいですか?」


 え、俺?


「あ、じゃあ悲しいほうから」

「……分かりました。悲しい話というのは、このクラスの鈴木くんが突然の転校となりました」


 鈴木くんが……転校だと……。

 俺の前の席で話したことはないが、確か……あれ、鈴木くんってどんな人だっけ?

 後頭部のアフロしか見たことないから、アフロってことしか分からねえや。

 なんか教室のみんなも「誰だっけ?」「アフロ」「そんな人この教室にいたっけ?」「アフロ」などなど完全に忘れられた存在になっていた。


「そんなことより皆さん、もう1つの嬉しい話なんですが……布川くん、何だと思いますか?」


 鈴木くんをそんなことって、柊先生、あなたには人の心が無いのですか!

 ……って、また俺かい!


「あー……転校生が来てる、とか?」


 誰が来るのか知ってるけどどね。


「そうなんです。なんと、このクラスに転校生が来ることになりました。しかも……美人さんです!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 騒がしいやつらだなおい。

 まぁ俺も、何も知らなければそれに混ざれたんだろうなー……。

 無知って羨ましいよ。


「さて、それでは登場してもらいましょう。今日の転校生は、サラさんです、どうぞ!」


 バラエティ番組みたいな掛け声と共に教室に入ってきたのは、いつものふざけた雰囲気とは違い、上品な風格を漂わせ、形容しがたい美しい容姿もあって、クラスの全員がその転校生に見惚れていたに違いない。

 中には「天使だ……」「いや女神だろ」「あぁ、このクラスでよかった……」「ついに我が青春」「俺の物語、始まっちゃったな……」などなど、かなり個性的な感想がそこかしこからあふれていた。

 仕方のないことだ。初見であれば、みんなそんな風になる。俺もそうだった。


「ではでは、自己紹介しちゃってください」

「はい」


 しっかし、本当に雰囲気違うな。

 なんというか、大人な女性と言いますか、あふれでる母性感と言いますか、あえて言うなら名家のお嬢様って感じだな。

 おっと、お嬢様、チョークを持ち始めましたね。おそらく黒板に自分の名前を書くのでしょうか。

 えーっと……布……川……サ……ラ………………え?

 なに書いちゃってんのサラさん。


「今日からお世話になります。布川サラです。どうぞよろしくお願いします」

「「「いえええええええええええええええええええええええええい」」」


 ノリよすぎだなお前ら。特に男子陣。

 盛り上がり過ぎてお前ら気付いてないのか?

 となりのふうちゃんを見てみろよ。今日2度目のビックリ顔してるぞ。


「……そんな手が……」


 この喧騒の中のせいで、ふうちゃんの言葉がうまく聞き取れなかったが、たぶん「そ、そんなバカな!?」的なことを言ってるんだと思う。俺だって同じようなこと思ってる。


「皆さん静かにー。男子陣はとりあえず下心を、女性陣は嫉妬と憎しみの心を閉まってくださいね」


 男子は分かるが女性陣、怖すぎだろ。

 アイツ今度から夜道は歩かせないようにしよ。


「はい、今日から一緒になる布川サラさんです。では、せっかくなのでサラさんの質問コーナーをやりましょうか。誰か、質問のある方、挙手――」

「はーい! はいはいはいはーい! はははははーーーーーーい!」

「……で、では瑛太さん、質問どうぞ」


 柊先生にじゃっかん引かれながらも、誰かが手を上げる前に俺が先に質問をする権利を勝ち取る。誰かに先にやられる前に、自分が先手を打つ。

 う、うわー……みんなめっちゃこっち見てるわ……。目線がめっちゃいてぇ。


「コ、コホン、え、えー、サラさんは、何故わたくしめと同じ姓を名乗っておるのでござるかな?」


 やべえ、緊張しすぎてよく分かんねえキャラが発動しちまった。

 慣れないことはするもんじゃねえな。


「ん? なにを言ってるんですか瑛太さん。お嫁さんなんだから同じ姓なのは当たり前じゃないですか」

「……え?」


 ん?

 ……………………え?


「「「えええええええええええええええええええええええええええええ!?」」」


 いや、俺がえーですよ……。


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