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8話 ニール・クルーエル

狐狗狸さんの幽霊ことーー狐井狸花(きつねいらいか)に、教室で取り押さえられ、絶体絶命のその時だった。


その少女はどこからともなく現れた。

「この10円はボクのだから!お菓子独り占めするんだから!」

絶賛幽霊に襲われ中のこの空気を、少女はめちゃくちゃに掻き乱す。

身長140cm前半といったところで、膝まで伸びた長い赤髪と、深く被る角付き帽子が印象的である。

そんな見た目そのままの幼さに、俺は勿論狐井も驚愕して言葉を失ったのだった。


「ん……?お前達こんな所で何してるの?」

遅れてようやく状況に気がついたらしく、それでも俺の危機感に鈍感な様子で少女は問う。

見てわかんねぇのかよこいつ……!?

っていうかこの女の子は一体何者だ……!?

俺はちらっと、教室出入口ドアに視線を移す。

ドアが開かれた様子が無い。それにましてや、狐井の幻覚空間が学校中に展開されているそんな中で、この教室まで辿り着くなんて事は難しい。

狐井が不死身体質の俺をどうするつもりなのかは知らないが、部外者を容易に近づけさせるとは思えない……!

現に杁唖と奈留は、この建物を俺のマンションだと信じて外で待っている。

だとしたらこいつは……!?

しかもどうやって、俺たちに気づかれないままここにいる!?


けれど俺は、その少女がどうであれ、俺の道ずれになるかもしれないその少女に大声で呼びかける。

「おいお前!いいから早くこいつから逃げろ!!」


しかし、次の狐井の台詞が、俺を容易に裏切った。

「に、い、る……く、る、う、え、る?」

そして次に少女は言う。

「うんボクの名は『ニール・クルーエル』だ!って……どうしてボクの名前知ってるのかと思ったら、お前No.6の狐井か?なんだよ久しぶりー」

ニール・クルーエルと名乗ったその少女と、その名前を言い当てた狐井がーー親しい様子で話し出す。

俺の中の少女の識別が、その瞬間から『敵』に変わり、それでも事実を確認しようと俺は問う。

「お前……!ニールとか言ったお前だ……!」

「ん?なあにお兄ちゃん?」

「お前……!こいつと同じ、幽霊……なのか……!?」

するとニールは、女の子らしく可愛い笑みでニコッと言った。

「うん!ボクはもう、半年前に死んじゃった」


もう1人の幽霊ーー

俺は追い討ちとなる絶望に、元の根源である狐井に、頭部を押さえ付けられながらも怒り叫ぶ。

「ふざけんな!お前ら俺をどうするつもりだ!?俺は不死身体質なんだぞ!俺を殺したくても殺せねぇんだぞ!!」

それを聞いたニールは、キョトンとした表情で狐井に近づいた。

「ねぇねぇ狐井?この人が不死身高校生の犬神渉君なの?」

「そ、う、だ、よ」

やはり俺が不死身であるが故に襲って来ている……!

抵抗が叶わないこの状況に、俺はなされるがまま捕まってしまうのだろうか……!?


「ねぇねぇ狐井?犬神渉をどうするの?」

ニールが狐井の目前に顔を近づけてそう言った。

すると狐井は、嬉しそうに恍惚の笑みを浮かべた。

「た、べ、ちゃ、う、の」

俺はゾッと背筋が凍っていくのを感じた。

食べる!?俺を!?

いくら不死身体質だからって、それは流石にーー

そう諦めかけていた時だった。


「そっか。なら仕方ないね」

ニールはそう言ってーー

「でもさぁ狐井。ボクーー」

無邪気な幼い笑顔でーー


狐井の腹部目掛けて、右アッパーをぶちかますのだった。

「ーーこの犬神渉の、味方だからさ」

殴打音の直後、俺を押さえ付けていた狐井が弾け飛んだ。

誰も予想だにしていなかった不意打ちが、俺を拘束から解き放つ。

にしても状況に置いてけぼりの俺だ。このニールという女の動機が分からない……!

「お前……!ニールとか言ったな!」

俺は傷を抑えながら起き上がり、ニールから距離を取るように後ずさる。

「うんそうだよー」

「お前は俺の味方と言ったな……!?お前と、そしてあの狐井とかいう幽霊は何が目的なんだ!?助けてもらって悪いが、俺はお前を信用出来ない……!」

こいつは幽霊を名乗った以上、俺の味方をする理由が分からない。

「狐井が襲って来た理由?そんなの、渉が不死身体質だからだよ?」

いきなり呼び捨てかよ!

そして何故俺の名前を知っている……!?

「だから聞いてんだろ!?不死身の俺をどうするつもりだ!?さっきあいつが言ってた、食べるってなんだ!?」

俺の当然の問に、ニールは敵幽霊の情報を躊躇無く話す。

「ボクたちは幽霊だ。渉さぁ、ホラー映画とか観たことあるかい?」

「なんだいきなり!?ホラー映画!?それが一体、今とどう関係がーー」

「小説や漫画でもいい。ホラー物を観ている時に思った事ない?なんで人間を無差別に襲って殺すんだろうなって」

それは突拍子もない話しだが、『幽霊の動機』に関する重大な例え話。

「い、いや……幽霊はそういうもんだと」

「あれにはさ、幽霊側の事情があるんだ」

「はぁ!?そんなの、加害者側の勝手な都合だろ!?」

「確かにそうなんだけどさ?幽霊って、なりたくてなった者じゃないんだよ。もっと言うなら、死にたくて死んだんじゃないってこと」

ニールは胸に手を当て、噛み締めるように淡々と話を続ける。

「死ぬのって、みんなが考えてるよりよっぽど苦しくて怖いの。そういうものだった……何もかもが無くなって、『無』になっていくあの感覚。いや、その感覚すら無くなってしまうんだけど。けれど、1回の苦しみで終わりじゃなくて、幽霊になってしまったがために、もう一度その『死の恐怖』がやってくる……!」

俺はその話を聞いて、知っていたある単語を思い出す。

「『タナトフォビア』……!?」

別名ーー『死恐怖症』

その名の通り、死ぬのが怖くてたまらなくなる精神障害の事である。

この例は少なくなく、特に思春期などの多感な時期に起こりやすい病気だ。

1度経験した事のある恐怖であるから尚更だ。

そんな恐怖症に襲われ、きっと、生きてる人間に嫉妬する。それがホラー映画などで知られる、幽霊の動機。


ニールは俺に指を指し、話をかなり端折ってそれを言う。

「そこで渉の、『不死身体質』だ」

「……は!?」

「幽霊は死んで成仏したくない。けど、渉の不死身体質があれば死ななくてすむよっていう考え方なんだね狐井は」

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