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7話 負けないためには

都市伝説ーーコックリさんこと狐井狸花(きつねいらいか)を対面して俺は言う。

「心臓にナイフ刺したら痛てぇんだよ!常識で分かるだろそんなもん!」

俺は常識を物申す。

非合理的な常識だが、俺の常識に変わりない。

心臓部に突き刺さったナイフを、痛がる程度の反応で引き抜いた。

一滴の血も流れること無く、ナイフを構えて睨みつける。

相手から目をそらすな……!

距離を取り続けろ……!

大丈夫だ……!俺は不死身だ!死ぬ事はない!そして武器もある……!

そして考えろ……!

こいつから逃げる算段を……!

「ね、え」

「あっ!?」

「あ、な、た、ふ、じ、み?」

狐井が、キョトンとした表情で首を傾げる。

「あぁそうだよ!だからお前は俺を殺すなんて不可能だ!とっとと諦めてーー」

そこまで言ったところで、俺は狐井の不気味な笑みに気がついた。

ゆっくりと、恍惚の笑みを浮かべていた。

「わ、た、し、に、ちょ、う、だ、い」


背筋が凍るーー

恐怖が押し寄せてくるーー

流石にわかる……!やつの台詞は『死の宣告』。

殺られるくらいならーー

俺は右手に持ったナイフを、相手の顔面目掛けて投げつける。

放たれたナイフは、狐井の脳天を捉え、勢いよく突き刺さる。

俺は当然こう思う。やった!仕留めた!ってさ。

けれど思い知らされるんだ……


相手が『都市伝説』だって事。


「ね、え」

やつは言う。

頭に突き刺さったナイフを引き抜いて、平然とした表情で、変わらぬ口調でそれを言う。

「わ、た、し、も、し、な、な、い」

そして、ナイフで傷ついたはずの頭が、瞬く間に元通りに再生された。

いや、まるで生物の域を超えたそれは、再生というより復元と言った言い方が正しいか。

どちらにせよ、そんな光景を見せつけられた俺は、思わず返す言葉がなくなった。

「なんだ……これは……!?」

「ま、あ……し、な、な、い、じゃ、な、く、て……も、う、し、ん、で、る、だ、け、ど」


「うわぁぁぁぁ!!!」


俺は思わず走り去る。ただ我武者羅に、その場から離れる事だけを考えて。

「なんだよあいつ!なんだよあれ!」

もう死んでるだって!?こいつはそう言えばーー『幽霊』だったよな!?

除霊術とか知らねぇぞクソったれ!


こんなことなら、もっと杁唖の怪談話を真剣に聞いておくんだったと後悔しながら、俺は廊下の角を曲がったところで、見えない壁にぶつかった。

「クソっ!幻覚空間!?」

スマホですぐに撮影する。

けれどこの行為は遅すぎる……!

凄まじい速さで追いかけて来ていた狐井が、俺の腹部目掛けて投げナイフ。

俺は体制を崩し、どこか知らない教室に転がり込んだ。

「まずい……!か、勝てない……!」

なんとかそれでも逃げ出そうと直ぐに立ち上がる。けれど俺は衝撃のそれを目の当たりにする。

机の上に置かれていたーー紙と10円玉だった。

「は……!?」

離れて移動してこの教室に俺はいる……じゃあ何でこれはまだここにある……!?

幻覚を解く方法があっても、幻覚を無効にする方法が分からない以上、逃げることは不可能という事なのだ。

そしてまたも、狐井が執拗に迫る。

俺の頭部を後ろから掴み、そのまま地面に倒して抑え込む。

「しまった……!」

「つ、か、ま、え、た」

こいつは『ふじみ』、『ちょうだい』と言っていた。

だとしたらこいつは、俺を殺すのが目的ではなくーー

「離せぇぇ!!」

俺は必死に抵抗しようと試みる。

けれど押さえつけられる力があまりに強く、それは叶わない。

「だ、め」

俺は何度だって言ってやる!!

こんな所で死ぬ訳にはいかないんだ!!


「誰でもいい!!誰か俺を助けてくれぇぇ!!」


次の瞬間だったーー

教室の向こうで、聞き慣れない声が飛んできた。

それは、幼い女の子の声だった。

「わーい!こんな所に10円玉落ちてるー!」


俺は当然耳をーーそしてその光景に目を疑った。

何処からか現れた、12歳くらいの女の子が、お宝発見と言わんばかりのはしゃぎ声で、コックリさんに使われた10円玉に飛びついたのだ。

俺だけでなく、狐井もその少女の謎登場に驚愕していた。


「これでうまい棒買って食べよーっと」


少女は子供らしい満面の笑みを浮かべて微笑んだ。

そしてこちらを振り返り、俺たちに気づいた少女は、一気に焦りの表情で言った。

「あ、あげないからね!うまい棒1本しか買えないから!コンポタ味にするんだから!ニールが独り占めするんだから!!」

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