4話 都市伝説を実証する!!
閉じ込められた教室で、絶体絶命と思われた状況の中ーー俺は小さな違和感に気がついた。
「教室の時計が……止まっている!?」
俺は息を飲み、都市伝説マニアである杁唖に問う。
「なぁ杁唖……!こっくりさんって狐、狗、狸さんって書くだろ?」
「ん?あぁ、それがどうかした……あっ!そういう事なのか!?」
杁唖は台詞の途中で、閃いたように理解する。
1人置いてけぼりの奈留は、当然俺たちに詳しく聞き直す。
「えっ!?何!?どういう事!?」
あぁ……説明してやろう。この、コックリさんを打開する方法を……!
「いいか奈留?『狐』『天狗』『狸』それぞれの共通点の話だ」
「共通点……?」
「そう。これらは全く別の動物。天狗にしてみれば、動物ですらない。空想上の生き物だ。けれどーーこれらを『妖怪』に当てはめてみるとどうだ?」
う〜んと悩む奈留に、杁唖は肩を叩いて囁いた。
「絵本なんかで読んだろ?この3匹は人を喰らう時、ある術を使う」
そこまで言われて、流石の奈留もたどり着く。
「人を……化かす?」
俺はニタァっと笑い、スマートフォンを見せびらかしながら言い放つ。
「今からそれを実証する」
「実証!?そんな事ができるの!?」
「当然!マジックは、種を暴くから面白いんだ!」
昔、数々のマジシャンや詐欺師を泣かせた事がある。
俺に暴けない謎や、解けない問題はこの世にない。
こんな所で躓いてられないんだ……!
いずれ必ず、妹ーー悠里の死の謎も解き明かす!
だからもう一度言う。こんな所なんかで躓いてられないんだ……!
俺は教室の時計を指差した。
当然直ぐに、奈留もその変化に気づく。
17時44分で止まっているのだ。
「時計がコックリさんを始めた時間から止まってる……!けど、これは単純に電池が切れてるだけって事もーー」
直ぐに杁唖が、台詞を割って訂正する。
「あれはソーラー式電波壁掛け時計だから、電池交換が必要ないタイプだ」
「で、でもーー」
「電波時計だから、24時間毎に勝手に時差修正するからな」
返す言葉が無くなった奈留に、俺も優しく肩を叩いて続きを話す。
「気を落とすのは早いかもしれねぇよ?」
「え……?」
「俺は偶然、おもしろい物を見つけたんだ」
そこで俺は、自身のスマートフォンを登場させた。
「スマホ?これが一体どうしたの……?」
論より証拠。
スマートフォンを起動させ、待ち受け画面を見せつける。
すると気づくのだ。変化の無い変化にーー
スマホの時刻が通常通り進み続け、18時24分正しい時間を示していた。
「もし、俺のこのスマートフォンが正常だとしたら……!コックリさんの影響を受けていないのだとしたら……!」
そして俺はーーカメラ機能で、止まっている壁掛け時計を撮影する。
パシャリ。
直ぐに写真フォルダを開き、今撮った写真データを確認する。
仮説が、確証に変わる。
「やっぱりそうか……!」
俺と杁唖は顔を見合わせて、ニヤリと笑う。
目の前の壁掛け時計は17時44分で止まっているのだがーーカメラで撮った壁掛け時計は、現在時刻18時24分を指していたのだ。
「写真が嘘を……暴いた!」
ここに来て始めて、奈留にも笑みが生まれた。
「実証された!この教室が、コックリさんによって創り出された『幻覚空間』だってことをな!」
同じようにスマホカメラで、閉ざされていたドアを撮影する。
俺達がドアだと思っていた所がただの壁でありーー
その1枚分右隣が本来の扉ーー
これがこの教室のトリックである。
※
瞬く間に世界が変わる。
吹き飛んだはずの机椅子が、元の正常な姿に戻っていた。
「幻覚空間を打ち破った事で、元の教室に戻ったんだな」
杁唖はすかさず鞄を抱え、俺と奈留に鞄を放り投げる。
それを手に取り、奈留の腕を引いて教室を駆け出した。
早くこの場から逃げないとーー
どんな相手が来ようと、俺は負けないけれど。
3人は教室を後にする。
誰も気づくことは無いのだーー
机の上でひとりでに動く、10円玉に……
《ま た あ そ ぼ う ね》