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1話 【手軽に都市伝説が味わえる】

「お兄……ちゃん……!最期に、私の……お願い、を……」

俺の一つ年下の妹ーー犬神悠里(いぬがみゆり)が、その瞬間息を引き取った。


2年前……当時の記憶が、今でも脳内を駆け巡る。

とても儚く、消えそうなーー『遺言』


悠里の人生は強引に幕を閉じたのだ。

『死』というものは止められるものではなく、ただ冷たくなっていく妹を抱き抱える事しか出来ない……

あまりに残酷で、そして脆い。


俺はその日を、忘れた事は一時もない。


悠里は最期に何を言い残したかったのだろうか……俺はその答えを、今でも探している。

悠里の人生に終止符を打った神を呪うし、死の真相を突き止める。それを生涯の目的と言っても言い過ぎじゃない。

けれど不可解極まりない、信じ難い事実が1つある。

俺は悠里の傍にいた筈だった。

最期の瞬間も傍にいた……筈だったーー

けれどーー


俺には何故かーー悠里が死んだその日1日の記憶が抜け落ちていた。



「ちょっと聞いてるの!?」

聞き慣れた女子生徒の大声で、俺ははっと我に返って周知確認。

茜色に染まる、夕焼けが差し込める放課後教室。

目の前には、こちらを心配そうに見つめるクラスメイト男女2人と、それらと机を囲むように俺は座っていた。

どうやら俺はまた、悠里が死んだあの頃を思い出していたみたいだ。

気を取り直し、目前の少女に詫びを入れる。

「ごめんごめん。何の話だったっけか?」

俺の問に、少女は呆れ顔で言い返す。

「ちょっと!修学旅行のプラン決めでしょ!しっかりしなさいよ!これ決めないと帰れないんだからね私たち!」

あー思い出した。確かそんな話をしていたっけ……

机の上には、修学旅行先ーー北海道の旅行雑誌がずらりと並ぶ。

辺りを見渡すが、夕暮れの教室にはいつの間にか俺たち3人以外の姿は無い。

つまりそういうことである。課題を終えてない落ちこぼれ3人組といったところだ。

俺は雑誌に目を通すこと無く、偏見で雑な案を出す。

「あ、動物園行こうぜ?何とか山動物園とかって言う、あの有名な動物園」

「空港から片道2時間半もかかるっていうのに、どうやってそんな所行くって言うのよ!」

一蹴だった。

そしてその後は、女の子らしからぬ台詞が続く。


「ーー真面目にやれ!」


クリーム色のショートヘアーで、テレビや雑誌などで出演してるようなアイドルにも引けを取らない顔立ちの美少女。

彼女が歩けば、視線を追いかける者も少なくない。

けれどそれも初見の反応なのだ。

何故ならーー機嫌の善し悪しで、口調が激変するからだ。


俺はそんなすっかり慣れてしまった言動に、思わずため息が溢れ出る。

「奈留……露草奈留(つゆくさなる)あのな?もう少し女の子らしく物を言えないのか?」

クラスの誰かがこう言っていた。

露草奈留は、口を開けば残念系美少女アイドルだと。

それには失礼ながら、現在進行形で同意する。


「……あ?喧嘩売ってんの?」

奈留は美少女の顔で、眉間にしわを寄せてヤンキー口調健在だった。

それを横目で見ていた、もう1人の男が腹を抱えて笑う。

「奈留落ち着けって。相変わらずだよな。お前この間またクラスの男子と言い合いになってただろ?」

「あ、あれは向こうが悪いんだ!」

「流石に巨漢の男泣かすなよな。周りにいた連中引いてたからな」

一体どんな状況なのか気になるところだが、詮索すると怖そうなので聞かないことにする。

奈留はそれを言われ、思わず赤面しながら立ち上がる。


「うるせぇ!ってか!男のくせに泣くなよなあれくらいで!それにあの時見てないでなんとか言えよな!神城杁唖(かみしろいりあ)!!」


神城杁唖ーー茶髪に右手ミサンガがトレードマークの少年。

奈留と同じく、俺の同じクラスのクラスメイトである。

クラスメイトと言うには少し他人行儀に聞こえるかもしれない。この2人はその枠を超え、俺の中ではかなり好印象な友人関係である。

プライベートも隔てなく、よく遊びに行く2人だ。

露草奈留と神城杁唖。そして俺ーー犬神渉(いぬがみわたる)

そんな俺たち3人だから、なんでも互いに言い合える。

俺はそんな光景にクスリと笑みを浮かべ、鞄を持ち上げ言った。

「話脱線してるし、訳わかんないし、修学旅行のプランは夜グループ通話で続きやろう」

すぐに杁唖は笑顔で立ち上がり、奈留の腕を掴んで立ち上がらせる。

「渉に賛成〜!」

「ちょ、ちょっと!何勝手に決めてんの!?勝手に帰ると怒られるから!」

奈留は当然先生の目を気にするが……


杁唖は急に、深刻な口調で話し出す。

それは、この街ではよく聞く口文句ーー


「……帰らなきゃ危険だろ。【都市伝説】が彷徨いてるんだから」


「……」

唖然で言葉を失った。

そんな俺を見て、杁唖はムスッとした表情で続けた。

「バカにしてるだろ渉!都市伝説は伝説で終わんねぇんだぞ!」

流石に高校生にもなって、怪談話は笑えない。

杁唖は席に座り直し、自身の鞄からごそごそとそれを取り出した。


1枚の大きな白紙とーー1枚の10円玉だった。


俺はまさかとは思うが、この組み合わせで【都市伝説】を連想させる事はあれしかない。

「お、おい杁唖……お前これまさか……」


「うん。『コックリさん』をするぞ」

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