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初依頼完了

「お、蜂捕りペンペン草見っけ!」

 10m程先に蜂が数匹集まっている、ポコポコとしたこぶのようなものの有る小さな植物を発見した。らっき~、と口ずさみながらナーニャは慎重に近づいた。蜂捕りペンペン草、という名のとおり蜂を捕らえて栄養としている植物なのだが、蜂の好む肉団子のような栄養塊を作って蜂を呼び寄せるため周りにはぶんぶん蜂が飛び交っているし、うっかり天辺の蜂を捕らえるトラップに触っては指を挟まれてしまう。指で触ってしまうほどおっちょこちょいではないが、髪の毛数本でも反応することもあるため、改めて髪を結いなおして近付いた。町を出るときに邪魔になるので結い上げてきたが、これまでの戦闘で少しばらけてしまっていた。

 ナーニャは背嚢からスコップを取り出し、風魔法で蜂を追い払いながら慎重に掘っていった。昔からこういう細かい作業は得意としており、根に傷をつけないように株ごと掘ったら根と土をまとめて布でくるみ背嚢に収めた。

 因みに、ナーニャの持っている背嚢はビッグイーターという蛇の一種の胃袋を加工して作られた魔道具であり、見た目の3倍ほど入り、重さは最大で十五㎏程までしかならない。高級品ならもっと沢山入り重さもほとんど変わらないものも有るが、これでも十五歳の誕生日にねだって買ってもらった十分高価な品である。



 日が傾くまで狩りを続けランゴスの町に戻ったナーニャは、冒険者ギルドで買い取りをしてもらった。

「半銀貨とちょっとか…」

眉をしかめて苦い顔をする。宿が幾らか分からないがこれでは食事のみでも中々に厳しい物があるはずだ。チップを払う制度を知らなかったこともあり、町の生活は思った以上に一々お金がかかり、稼ぎは良くない。ナーニャは現在Gランクという最低位の冒険者である。彼女は知らないことであるが、この時期の冒険者というのは未成年か成人したての冒険者が数人で組んで小遣い稼ぎと冒険者のイロハを学ぶための通過儀礼的に行うランクであり、ここで生計を立てるのではなく皆貯金を或る程度切り崩しながら短期間学ぶために費やすのである。因みにこの程度のことはエルフの村の私塾でも教えているのだが…。



「銀貨五枚!?」

 ギルドで教えてもらった、この辺りで一番安いという宿に来たナーニャは悲鳴を上げた。

 高すぎる。

(これじゃ、一週間も生活できないわ!!)

 野宿。町の外の、今日狩りをした辺りなら凶暴な魔物の気配もなかったのでそこで寝泊まりするしかない。幸い、テントなど道具一式は背嚢の中に入っている。

 せめて食事だけでも、と考えて宿に併設されている食堂で聞いたところ、一番安いワンプレートのセットメニューでも半銀貨一枚と言われ、諦めて店を出た。

 その後、町のパン屋で一番安い黒パンと干し肉、くず野菜を少し買って野営地(と勝手に決めたただの野原)にやってきた。この一週間の移動で慣れていたのでテントを張り、簡単な魔物除けのまじないを掛ける。

 黒パン、干し肉、くず野菜をちぎり、沸かした湯に投入して、粥状にする。少ない食材でも出来るだけお腹を膨らせる為の工夫だ。

「はぁ~、しかし、村の外って全然やっぱり中とは違うんだなぁ…」

 実際にはナーニャ自身が私塾での学びを嫌がってきたせいで世間知らずである部分が大きいのだが、彼女自身はそこに気付かない。



 翌日、朝から彼女は再び酒場に入ってみた。朝の酒場は、昼間とは違い、静かに朝食を食べている人たちで溢れていた。これなら聞きやすいかもしれない、そう思うと、彼女はまず、カウンターの中にいるふくよかな体形をした女性に声をかけた。

「おかみさん、聞きたいことがあるんですが」

「何だい?何でもいいけど、ここに来たんなら何か頼んでおくれ」

 昨日の経験から、食事だけでも半銀貨一枚かかることを考え、一瞬躊躇したが、それぐらいならまた稼げばいい、とも思いなおし黒パンとシチューの定食を頼んだ。

「私は見たとおりエルフなんですが、今まで見たことのない病気が流行しています。普人族の方の間でそのような病気の情報が無いか、知りたいのですが」

 ナーニャはおかみさんに病気の情報を話した。

 ふむ、とおかみさんは顎に手をやると、何か考えるようにしながら教えてくれた。

「アタシは医魔術師でも何でもないから詳しいことは知らないよ?ただ、最近、手が軽くしびれて目が疲れる、って冒険者たちがちょくちょくいるねぇ。連中は体が資本だから高い金払ってでも治療してるはずだよ。医魔術師ギルドには行ったのかい?」

 医魔術師ギルド!どうして今までそれに思い及ばなかったのだろう。

「ただ、あそこは患者以外には情報漏らさないからねぇ。冒険者ギルド経由で情報収集の依頼出せば届くはずだよ?」

「それならもう出してあります!ありがとうございました!!」

 ナーニャは急いでシチューとパンを掻っ込むと飛び出すように冒険者ギルドに走り出した。



 ナーニャがギルドに到着すると、受付嬢が声をかけてきた。

「ナーニャさん、依頼完了の報告が来ています」

「!!本当ですか!」

「医魔術師ギルドのルグニカという男が治療法を知っているそうです。詳細は連絡先がありますので当人同士でお願いします」

 ルグニカ、ルグニカ、とナーニャは口の中で繰り返した。連絡先の用紙を渡されても、彼女は文字が半分程度しか読めないのだ。

 言われた方角へ向かうと、如何にも医魔術院という雰囲気の静かな薄暗い建物のドアノッカーを叩く。

 中から、中年の細身の男性が出てきて、彼女の金髪と耳を見て頷いた。

「君がナーニャさんかな?…確かにルグニカは私だ。まぁ、入ってくれ」



「ポルト茶で良かったかい?エルフは味覚が敏感だと聞くが」

「あ、お気遣いなく。何でも美味しくいただきます。それよりも…」

「まぁ、慌てないでゆっくりしていきたまえ。聞いた病気はランドル症でほぼ間違いない。であるとするならば、まだあと一か月ほどは猶予があるはずだ」

「ランドル症?」

 やはり全く聞いたことのない病気だった。

「ああ。エルフの森の中のことは詳しく知らないが、川や沼はあるかね?」

 勿論ある。しかも綺麗な沼と川だ。病気の原因になることはなさそうに思える。

「ありますが、それが何か??」

「そこで、病気が発生する前に山火事が起こった後蛙が沢山獲れたことがあっただろう?」

「――!!確かに…。魚はまれに豊漁になることがありますが、蛙は珍しいのでよく覚えています」

 しかも、漁を行ったのは自分で、自分が家族に振る舞い、近所に配って歩いた。

「ランドル症はランドル顎方線虫という虫が大量寄生して起こる寄生虫病だ。蛙の筋肉に虫がついているが、少しならほとんど問題はない。ただ、大量に取ることと、ある条件が揃うと人族の身体の中で増殖することが知られている」

 稀な病気だから知らない人も多いがね、と付け加える。そもそも、蛙自体が普人族の間ではあまり食べられていない。

「この蛙というのがルグニカアオサビガエルというのだが…」

「るぐにか?」

「ああ、ぼくが発見したからね」

 何でもないことのように彼は続ける。

「普段は水の中で主にミミズを餌にしている蛙だが、たまに山火事やなんかの被害から逃げてきた陸の虫を大量に捕食することがある。この虫の中に寄生虫の幼虫がいて、蛙の中で増える。それを人族が食べると発症する、というわけだな」

 何だか段々よくわからなくなってきた。

「要するに火事の後などで大量発生した蛙を大量に食うと問題がある、と言う事だ」

 成程。

「それで、治療法ですが…」

 うむ、と頷いた後、ルグニカは眉をしかめた。

「これが、結構高い」



 一人分の治療薬が金貨三枚、と聞いたとき、ナーニャは目の前が真っ暗になる気がした。今、村で重症軽症併せて五十人ほどの患者がいる筈だ。金貨百五十枚。到底払えない。

 聞けば、冒険者は中級以上になれば結構稼いでいるので体が資本ということもあり払っていくし、そもそも普人族は蛙をあまり食べず、食べてもさほど重症にならないので薬も金貨一枚分ほどで良いそうだ。

(アタシが捕まえた蛙…)

 村から出ていたことが原因ではなかったが、やはり自分が原因だったことに変わりはなかった。ナーニャの胃に鉛が流し込まれたような、重く熱いものが広がる。

「…やっぱりアタシがどうにかしなくっちゃ!」



 冒険者ギルドへ戻ってきた彼女は、受付嬢に詰め寄った。

「どうしてもあとひと月で金貨百五十枚稼がなきゃならないの!」

 あまりの剣幕に、外野も驚きの目でチラチラとこちらを見ている。

「しかし…。ひと月で金貨百五十枚と言えばBランクの収入、未成年でGランクのアナタには無理な話ですが…」

「そこを何とかお願いします!何か、何か方法はないの??」

 暫しの逡巡の後、受付嬢は重い口を開いてくれた。

「…上位ランクの方とチームを組む方法があるにはありますが。。」

 お勧めしませんよ、そういう受付嬢を遮るようにナーニャは続きの説明を請うた。面倒なものを見るような、また何処か憐れむような感情を交えて受付嬢は説明してくれた。

「上位ランクと一時的にパーティを組むと、その方のランクの依頼まで受けることが可能になります。但し、この方法は現在では若く将来有望な冒険者の事故率を大幅に上げてしまうことから現在では殆ど推奨されていません」

「――!!今この町に、ランゴスにいるBランク以上のチームって誰!?」

「今ですか?今ですと、Aランクの『錫杖の燈火』とBランクの『宵闇の宴』ですが…」

やはり違う方法を探せば、そう勧める受付嬢を振り切り、ナーニャは酒場に向かった。

読んでいただきありがとうございます。感想等、お待ちしております。

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