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意味深な『僕』

 なんやかんやで日曜も終わり、月曜日。

 オレは再び戦場へと駆り出される。

 いやだされない。

 どっちだ。

 大袈裟なんだ。

 退屈と戦うんだから大袈裟じゃない。

 学校行くだけだろ。


 心の中の自分がどうでもいいことで争う。それさえも無駄なことだと気づいたとき、どうにも変な徒労感を味わってしまった。


*****


 ああ~~……暇だ。いつも暇だが、今日はいつも以上に暇だ。何故かそう感じる。飽きたんだろう。この生活に。

 刺激がほしい。この前の疲れるようなのじゃなくて、もっとソフトな変化が。


「……え~ではここ。世良解いてみろ」

「…………」


 いや、こういう刺激は望んでないんですけど。

 授業なんてなにも聞いてなかった。というか、まずこの時間は何の教科なんだ? 準備だけはちゃんとするが、それだけで興味が無いから気にも留めていない。

 いうなれば、人が歩くという程度のレベルで机に教科書などは出す。変に意識しているわけではないのだ。


 しかし当てられたのだから答えないわけにもいかないだろう。えっと黒板を見る限りだと教科は数学か?

 黒板には既に問題は書かれてある。なら問題ないな。

 オレは立ち上がり、黒板へと向かう。


 かっ……かっ……かっ……


 リズムよくチョークを走らせる。今初めて問題は見たが、オレの手はよどみなく動き続ける。えっと、そしてこれをこうするから……。


 かっ……かっ……かっ!


「はい正解だ」


 問題を解き終え、オレは席に戻る。

 まったく、授業など受けなくとも簡単なものしかない。冷静に考えればすぐに解ける。ただし、いきなり当てられるのは心の持ち方的によくない。勘弁してほしいな。

 オレはもう刺激がどうこうといっていたことはどうでもよくなった。前言撤回だな。刺激なんて無くていいから、普通に過ごしたい。


「…………」

「…………」


 何だ? 誰かに見られてる気がする。先週も同じことがあったが、まさかまたあいつか?

 ……いや違うな。視線から感じる雰囲気が違う。あいつとはまた別のやつだ。

 オレは視線がどこから向けられているのか、相手に気づかれないよう細心の注意を払いながら、目を配らせる。


「こら、天見! 授業中にどこを向いている!」

「ひぃ! すみません!」


 ……あいつか。先週、昇降口ぶつかったやつだ。

 あいつ、天見というのか。しかし、それにしてもあいつはオレのほうを見たりして、何をしていたんだ?


*****


 授業が終わり、昼休みになるとその天見という生徒はオレのほうに駆け寄ってきた。


「ねぇ。君」

「なんだ」

「いやー。この前はごめんね。でも、一緒のクラスだったとは思わなかったよ。びっくりだ」

「なに言ってんだ。昇降口のあの位置でオレにぶつかってきたんだろう? なら必然的に同じクラスだと分かるだろうが」


 オレ達の使用している下駄箱はクラスごとに分かれているわけだが、その中でもオレ達のクラスは特別で、普通なら


 箱・箱・箱・箱・箱   箱:下駄箱 ・:足場


 といった感じになり、両隣に下駄箱が来ることになるが、オレたちの使用するのはその一番端。右端だ。そして右端の空間からみて右には下駄箱が存在しない。使うのは左側。つまり


 箱・箱・箱・無   無:下駄箱がない

     ↑ここを使う 


 といった具合だ。そんな場所に現れるやつなんて一握りしかいない。そう、オレと同じクラスだということだ。

 天見とか言うやつは「へー。君は頭がいいんだね」と感心した様子を示す。こんなことにさえ気づかないとは、こいつは馬鹿なんだな。


「でも驚いたことはもう一つあるんだよね」

「なんだよ」

「君、外ばっかり見て授業なんて聞いてないくせに、勉強できるって事だよ」


 イラ。


「てめーは、なぜそうやって人をおちょくるんだよ、あん?」

「うわ!! いたいって!! やめてよ~~!!」


 この前のように、頭グリグリを繰り出していたオレ。まったくこいつは。いつでもムカつくことするやつだ。

 解放してやると、頭をすりすりと撫でる天見。


「ああ、それとさ。何で君はそんなことしてても先生に怒られないの?」

「さあな。オレが知るか。強いて言うなら、成績がいいからじゃないのか」

「じゃあなんで成績いいんだい?」

「要領がいいからだろうな」

「それじゃあ、どうして要領がいいんだい?」


 なんだこのループ。もうやってられん。


「もう知らん」

「ええ! 答えてよ。どうしてなの? ねぇ……」


 あああああああああああ……もう


「うざいからあっちいけ!!」

「うう。なんだがご立腹のご様子で」

「当たり前だ。お前のようなやつと関わってると気が狂いそうだ」


 そう言って、外の景色に目を向ける。もう話すことは無いというオレなりのアピールだ。こうすれば、そのうちどっかに消えてくれるだろう。


「……ねぇ」

「…………」


 話しかけられても無視だ。いちいち反応していたらきりがない。


「むむ。なんとも強情な人だ」

「…………」

「じゃあまぁいいや。そのままで聞いててよ」


 おいおい、どっかにいけよ。なんで無視する人相手に話をしようとするんだ。

 ……いやこれもこいつの作戦のうちかも知れにない。気を抜くな。


「何で君はいつも一人なのかな」

「…………」

「君は誰とも話さず、ただ一人空を眺めている」

「…………」

「授業中も休み時間も、学校にいる間は、君はずっとそんな調子だよね」

「…………」

「友達がいないぼっちさんなのかなとも思ったけど、そうでもないみたいだよね。ううん。君は自分からそれを避けている気がする。友達というものを」

「…………」

「君からすれば、オレの何を知ってるんだとか、怒りそうな気もするけど、午前の間少し君を見ていてそう感じたんだ」

「…………」

「外を見て、そんなにそれが楽しいかい? もっと近くを見てごらんよ。そこにはもっと楽しいことがあると思うよ」

「…………」

「そうだ! 僕が君の友達になってあげるよ。それでどうかな?」

「……お前はいったい何者なんだ」

「……別に。何者とかないよ。僕は天見連っていう、ただの一般生徒だよ」

「…………」

「ねぇ、そういえば君の名前聞いてなかったね。教えてくれないかい?」

「……世良幸希」

「そう。わかったよ。じゃあ僕は行くよ。また後で来るから、幸希君」

「……ふん」

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