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出会い――体育館裏

(……きた)


 薄目で姿を確認する。

 そう、オレの考えたのは寝たふりだ。これならオレとしても相手としても、一番収まりがいいと思う。

 相手からすれば人がいて驚きはするものの、ここに一人で来たということは誰にも知られはしない。そうしてオレが起きないようにそうっとこの場を離れてくれるだろう。

 まぁ、これからここには来にくくなるだろうが、オレも来れなくなるのは嫌だからな。相手さんには諦めてもらおう。


 しかし、薄めだと遠くにいる人はぼやけてよく見えんな。性別すら分からん。

 ……っていうか、どういうことだ? 結構時間が経つが、一向にどこかにいく気配が無い。それどころか、なんだかこっちを見ているような気がする。

 やばい! 近寄ってきた。オレは目をぐっ、と瞑り直した。


「…………」

「…………」


 視線を感じる。オレの寝ている顔をじっと見ているやつがいる。めちゃくちゃ気分が悪い。

 大体、一人になりたいんじゃないのか? こんな場所に来るんだから、それくらいしか理由は無いだろう? それなのに、何故人に近寄ってくる? それに人の寝顔を覗くなんて悪趣味なやつだぜ。

 そんな風にいろいろと考え込みながら、演技を続けているが、消えることの無い視線。


「…………」

「…………」


 おいおい。まだいるのかよ。早くどっかに行ってくれ。こいつが一人になりたくないとしても、オレは一人になりたいんだ。さっきまではお前のことを気遣ってやっていたが、もういい。自分のためにいいたい。どっかいけ!


「……っぷ」

「なにがおかしい!!」

「うわ!!」


 いきなり笑われてついにオレの怒りが爆発してしまった。すると、相手は一目散にオレから離れていく。そうして入り口のところからどこかに行ってしまった。


「ふぅ。これでやっと一人になれたか」


 オレは再びその場に座り込み、いつものようにまた空を見た。


*****


(……どういうことだ?)


 自分に聞いても仕方ないのだが、この疑問に関してはわけがわからなすぎて動転しているせいか、何度も自分に問いかけていた。

 オレは目線を空に向けながら、横目で入り口の方をみる。すると


「…………」


 さっきまでオレの寝顔を見ていた相手……女子がこっちのほうを覗いている。壁に隠れながら……なのであろうが、もちろん丸見えだ。

 オレとしてはあれで追い払えたと思っていたのだが、まだだったようだ。

 ったく、オレは一人のんびりとした時間を退屈にエンジョイしたいというのに……なんだ。さっきから。あいつはオレのことをおちょくっているのか? ふん。オレもなめられたものだ。


「おい」

「!?」


 呼びかけてみると案の定というかなんというか、あたふたとし始めた。


「いや、隠れられてなかったからな」

「ええ! そうでしたか!」


 分かってなかったとは馬鹿だな。まぁいい。


「さっきからなんだ、お前。オレに用でもあるのか?」

「いえ。別に」

「じゃあさっさとどっかに行ってくれ」

「そうは言われましても」


 さっきからずっと距離は同じまま、相手のほうはずっと入り口のあたりで半分ほど体を隠しながら話しかけている。

 オレはやつが帰ったと思い、一番奥より移動してはいるが、それでもそれなりの距離がある。


「とりあえず話しにくいから、こっちに来い」

「…………」


 しかしその女子はそこから離れようとはしない。


「? どうした」

「いえ……私のことはお構いなく」


(かまうわ!)


 思わず心の中で突っ込みを入れる。じろじろじろじろとこっちを見られていたんじゃたまらない。

 しかたない。ここはこっちのほうで折れるか。オレは一つため息を吐き立ち上がる。

 女子は一瞬びくっ! となっていたが、かまわず女子のいるほうに歩いていく。


「それじゃ、オレはこの辺で」

「え? あ、はい」


 オレはその女子生徒の横を通り過ぎ、オレのベストプレイスの一つである体育館裏を去った。


*****


(しかしさっきのやつはなんだったんだろう?)


 午後の授業が開始され、外をぼんやりと眺めながら、ついさっきまでの出来事を思い返す。

 あんな場所に用があるとは普通思えないし、そういうわけでもなかった。

 一人になりたいというわけでもなかった。

 だとしたら、何をしにあの場所へ?


 考えても答えは出ない。いや、元から判断材料が少なすぎる。

 オレはその女子について何も知らない。名前さえ知らない。知っているのは容姿程度。その容姿も髪は肩にかかる程度で、小柄で華奢な~とか月並なことしか言えない。

 それなのに人のことを理解しようなんてできるはずもない。

 いや、それのほうこそできるわけが無い。人を理解なんて、まずできるはずが無いんだ。


 まぁいい。別にアイツに興味があるわけでもない。深く考えることも無いだろう。


(……でもまぁ、一応警戒はしておくか)


 オレは考えることをやめて、ふわふわした気持ちで外を眺めていた。

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