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面談

 2時間目の始まりを告げるチャイムが、校内に鳴り響く。

 その中、なぜかオレは担任の深内と二人、面談をしていた。


「それでなんでしたっけ? 話の内容は」


 今思うと、授業に出るよりこうして一対一で面と向かっているほうが疲れるし、面倒だな。

 授業なら無視していればまだマシだが、これではそういうのはできない。


「まったくお前というやつは……いいか世良。進路を決めるというのは自分のためだけではない。他の人のためでもある。たとえば、そう。家族のためとかな」

「あんたはオレの家族の何を知っているんだよ」

「むぅ……確かにそうだがな。それと、教師に向かってそんな口のきき方はするな」

「それは失礼。でも会ったこともないオレの家族については触れないでもらいたいですね」

「そうだな。お前の場合はいろいろと複雑な環境なんだろう。三者面談と言いつつ、お前の親とは連絡も取れないから、結局二人で面談することになっていたからな」

「ええ、そうです。すでにあなたの『他の人のために理論』は破綻しましたね」


 いつまで話していればいいんだ? 早く終われ。

 気持ちがそのままでたのか、オレはつい口走ってしまった。


「じゃ、帰りますね」

「いやまて。まだなにも話をしていないのだが」

「オレは十分したように感じているので大丈夫です」

「いやいや。なにも大丈夫ではない。むしろこれからが重要だろう。それとそうやって教師を馬鹿にするような言動はやめろ」

「いえ。オレはあなたを馬鹿にしているのですが。あなたをおちょくっているのですが」

「それは特にやめろ」


 深内は力なくそう言う。心ここにあらず、もう何もしたくない、疲れたといった感じだな。


「もう行っていいですか?」

「駄目だ……と言いたいところだが、私も疲れた。行っていいぞ。また今度話をさせてもらう」

「はい。分かりました」


 マジかよ。またこんな面倒なことやんないといけないの? 嫌だな……。

 そう思いながら、部屋を出ようとする。しかし深内が止める。


「おい。世良」

「なんですか」

「お前そんな性格で友達とはどうなんだ? やっていけているのか?」


 ……いやな話題だな。適当にあしらう、つまり嘘をつくこともできるが、何故か普通に答えていた。


「別に関係ないですよ。友達……いえ、人間関係なんて」

「おいおい。それはさすがにいいすぎだろ」

「でも事実ですよ。オレにはそんなものいませんし」

「そうか……」


 顎に手を当てて考えこむ深内。

 いつもならここで空気も読まず、ここから離れるはずのオレなのだが、どうしてかその場に止まり続けていた。

 しばらくして「なら」と深内が言葉を発する。


「私と友達にならないか」

「……はぁ?」


 あまりにも意表をついた……いや突拍子も無い意見に、オレは素っ頓狂な返事を返していた。


「だって世良よ。お前は友達がいないのだろう? ならせめてもの足しに私がなってやろうという、粋な計らいではないか。私はお前のような一人浮いているやつでも、助けようと頑張っているのだ。うむ。私はとてもえらい人ではないか?」

「オレに聞かれても困ります……。それ以前に、自分で自分を褒めるのもどうかと思いますけどね。後、余計なお世話です」

「まぁそう言うな。まずはそうだな……。友達の証として、これからはお前を名前で呼んでやろう。幸希」

「いえ、別にあなたに名前で呼ばれたところで教師なので普通だと思いますが……。しかし、名前で呼ばれるのは背中に悪寒が走り気持ち悪いので、早急にやめてください」

「では、そうだな……ニックネームで呼ぶか? うーむ……お前の名前、世良幸希……。こうちゃん……こうきん……セーラー服……」

「いや、明らかに最後のはおかしいでしょう!」


 どういうことだ。いつものオレのテンションと違う。「!」が使われるなんて、普段のオレからすれば絶対に無いことだぞ。

 くそ……オレをこんなにするなんて。これは仕返しが必要だな。


「おい、深内」

「む。なんだ?」


 いきなり呼び捨てで呼んだせいか一瞬、睨んできたが、友達になるがどうとかいっていたので、「それでか……」とすぐに納得していた。


「お前は名前なんていうんだよ。今まで一度も聞いたことないんだが」


 単にオレがこいつの話を真面目に聞いていないだけかもしれないが。


「む……。それはだな」


 口ごもっている。オレに名前を呼ばれるのがそんな恥ずかしいのかこいつは。


「別にいいだろ? 学校でちょっと調べれば教師の名前くらい簡単にわかるだろうが。今言うのも、後でオレに知られるのも同じことだろ?」

「ぐ……確かにな」


 深内は深呼吸し、気持ちを落ち着かせ始めた。どこまで緊張してんだよ。そこまでのことではないだろう。

 深呼吸を何度かし終えると、深内は意を決したように名前を言った。


「……ポエム」

「……はぁ?」

「だからポエムだ! 詩とかいてポエム! 私の名前だ!」

「それは、まぁなんていうか……ご愁傷様」

「うぅ……だから言いたくなかったんだ……」


 しかし、こいつの名前こんなDQNだったとは……さすがに可哀想に感じるよな。少し慰めてやろう。


「でも……うん。いい名前だと思うぞ、詩」

「あまり言うな! 恥ずかしいだろ! せめて……そうだ。ニックネームで呼んでくれ」

「いや、すでにそれでニックネームの役割担えているんだが」

「いいから考えろ!」


 深内のキャラがオレの中で急速に崩壊していくな。


「えっと、名前は深内詩…ポエム…詩…うた?」

「どうした!? 何か浮かんだか?」

「えーと」


 これは言っていいものなのか。

 こいつをからかうつもりで名前を呼ぶつもりだったのに、既に目的を忘れ……いや方向転換しているし。

 これ、呼ぶのこっちも恥ずかしいんだが。

 でも深内のやつなんか目をきらきらさせてやがる。その年でそんな顔するな! それにどんどんキャラぶれていくし!

 くそ……これは言わないといけないようだな。


「うたちゃん」

「……なんだ。それは」

「いや、なんかぱっと浮かんだ」

「ぱっとって……いやまて。いったん落ち着こう」


 一応オレは冷静だ……と思う。


「うたは詩からきているんだよな。それは分かる。が、なぜちゃんがついている」

「いやー、友達というし。あなたは教師だから、生徒との垣根もあるし。『ちゃん』でもつければ、少しは距離も縮まるし、あなたのような人が『ちゃん』とか可愛らしいもので呼ばれているのは、ある意味ギャップ萌えの部類に入るのではないかと」

「半分以上理解できなかったが……とりあえずちゃんはやめてくれ……」

「……はい」


 自分でもなに言ってんのか途中からわからなくなってた。

 深内はこほんと咳払いをし話を戻す。


「それで他のニックネームは……」

「いや、もう友達にならなければいいんじゃないでしょうか」

「それは駄目だ。私の美学に反する」


 意味分かんねーよ。美学とかないだろ。


「じゃあもう自分で決めるのはどうですか? 自分で呼んでもらいたい名前を相手に言っておくんです」

「む。それは邪道な気もするが仕方あるまい」


 そうして互いに愛称を考える。

 しかし自分で言っといてなんだが、なにやってんだ? オレたち。自分のニックネーム考えるとか馬鹿じゃないんだからやらないよ、普通。

 大体ニックネームとかその人の感じをみて、付き合っていく中でその人のキャラに合わせてできていくものだろう。

 それを考えれば『自分で自分のニックネーム』をつけるというのは、一番妥当なのかも知れないが、それにしても自分でつけるとかないよな。


 それに自分でつけるのって案外難しいし。これから呼ばれるものだと考えると、どうしても無難なものになるし。でも突拍子も無いもの考えても、滑って恥ずかしいことになりそうだし。

 ふと、深内の方に目をやる。そうすると深内もうんうん唸っているのが見えた。オレと同じことを考えて悩んでいるんだろう。

 そんな考えを張り巡らせながら、オレ達は自分のニックネーム付けを十分ほど考え込んでいた。

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