魔王再誕
そしてそれを見たいたのは勇者以外にもいた。今まさに戦場で争っていた人類だ。驚いたことに彼を認識するやいなや、今まで争っていた事嘘のように手を取り合い老人もとい魔族と戦っていた。
そこで再び暗闇に戻っていた。それから少しの時間互いに口を結んでいたが先に口を開いたのは勇者だった。もっとも貌は無いので念話に近いのだが。
「……貴様は魔王の思念の残り香なのか?」
先程とは変わり落ち着きを取り戻した声で老人に聞いた。
「正確には違う、けど僕だと思ってくれて良いよ。このままじゃなんだし直接伝えてたいし、順を追って説明もしたいから今からそっちに行くね」
何度目かの光、次の瞬間には魔王を倒した大広間に戻っていて、目の前には骸骨執事が魔王の王冠を持ち立っていた。
「貴様は……」
「僕だ。
『歴史上最高の頭脳を持っていた男』だよ。ついでに言えば『人類平和を実現した男』でもある」
「……世界……平和……だと? こんな世界がか!?」
堪らず勇者は激昂した。
「貴様らの性でどれ程の人々が不遇を強いられていると思っているんだ!?」
「気持ちはわからんでもないが、まあ怒るなよ。――お前は知らないだろう? 人類同士の戦争と言うものを。考えてみろ、人類同士で殺しあっているより人外と人類で争わせてた方のが人の輪の中は平和なんじゃないか? ただ、今の王共は愚か者だから不遇な者が出ているだけだ」
「……それでもお前の魔術は『人を魔族に変える』はずだったよな? 貴様が人類を脱させた元人類でもそれは変わらないではないか?」
「その事については何の問題も無い。今の魔族に人類に戻ろうと考えてる者はいないよ。なんせ彼らは人類を恨みこそすれ、戯れることはないからね。皆進んで僕の元に集まってきたよ。ここにいる全魔族はみな狷介な奴らだからな、力を与えた後は大半が独立しているよ。いちいち地方の被害までは責任負えないから」
「見せかけだけじゃないかそんな平和は……」
「だが救われ、争いも減っている。見せかけだと気付く者もいない。完璧じゃないか?」
勇者は納得せずにはいられなかった。確かに老人――今は骸骨、昔はマッドサイエンティスト――の言う通りなのだ、今現在のこの世界は。
人類を怨んでいる者を使い人類同士の殺し合いを防ぐ。その結果は人類の共存、人類の安全だ。
「だいぶ逸れたね。元の話、続けてもいいかな」
勇者は力なく頷いた。
「まず僕が人間をやめたところからだね。あの後僕は戦場から後退してここ、魔王城のある所まで来たんだ。で、早速城を作った。まぁ結界を何重にもしてたから中々気付かれることは無かったけど」
勇者は酷く納得した。ここから程無くしたと所に人が居住しているのはそういう理由か。どんだけ胆の据わった人だとは思ったがそういうことか……
「その後、迷い混ませた商人らを使って噂を流させたんだよ。『人を怨む者のみがたどり着ける秘境がある。そこでは願いを叶えられる』ってね。この作戦は成功だったよ、次から次へと人が訪れてきたんだ。
そこからは早かったな。人を増やして、適当に村を襲って、城を増築して。五十年くらいはそんなことしてたな。因みに魔族には寿命が無い。ただ肉体は朽ちていくけれどね。
ことが動いたのはその後だったよ。初めての勇者が来たんだ。それは嬉しかった嬉しかった……まぁその性でボッコボコにしちゃったんだけどね」
勇者にとってその話はどれも信じがたいものだったが頭はすんなりと受け入れていた。こいつの願いも俺と同じ平和だと信じているのだろうか?だが次の事だけは疑った。
「取り敢えず勇者を麓の村に返したときに気付いたんだよ。こいつらに跡継ぎを、今後は魔王をやってもらおうと。妙案だとは思わんかね?」
思わん。
逆に何故そう思ったんだと勇者は強く思った。
「なんせ勇者なんてのは正義感の塊だろう? きっと理解してくれると思ったんだ。それに基本強いしね。魔王が破られるたんびに出向いて『再誕』させるのは疲れるし。それに少なくとも君は話を聞くまでは信用してくれている。魔王を倒した勇者はみんなそうだった――僕は君もそうなってくれると信じよう……」
次の言葉で勇者は先代の勇者の行方を知った。すなわち――
「君に僕の後を任せたい」
――先程の魔王だったことを。
そして老人の願いを、『世界』平和を諦め、『人類』平和の為に、勇者の名において――了解した。
「今更だがこれはいったい?」
改めて城の最上階に行く途中、骸骨執事に尋ねてみた。
「僕がこの骸骨に憑依しているんだよ。自身の肉体は朽ち果ててしまったから、これが疲れるんだよ筋肉無いから魔力で動かしてる訳よ」
「自身に『再誕術』をかければいいんじゃないか?」
「いい魔法には作用が付き物なのさ。『再誕術』は一人に一度しか使えないからな」
「なるほど、だからこその後継ぎか」
「そういうこと、だけどこれは魔王不在の時の緊急処置だからもって二日なんだけどね」
話していると、最上階の暖炉のある魔王の部屋についた。中には倒したはずの魔族の重鎮らしき者達が待ち構えていた。その真ん中を進み、皇の椅子の前までいく。
「……貴方の意識がある内に、済ませましょうか」
告げると骸骨執事は無言で王冠を掲げてきた。勇者は頭を垂れ、目をつむりそして――人間をやめた。
不思議な感覚だった。意識があるのに体が崩壊し再構築され神経が接続し直される。
目を開くと床が遠退いていた。武具は内側から弾け飛び、破れた服の隙間から見える肌はどす黒くなっていたが、不思議と不快には思わない。
視界を前に戻す。見える世界が一変した。先程までいた重鎮からは信頼感を受けとった。
骸骨執事を見下ろすと彼は喋り始めた。
「貴殿を第二十六代目の魔王と認め、魔族の全権を譲与する。よろしく――」
言い切ると同時に骸骨執事は霧になって消えていった。
俺は重鎮らに対し宣言した。受け継がれた遺志を、果たすべき責務を。もうそんな事は俺の意思に関係無く決まっていた。
「これから――」




