【詩】むぼうびなきせつ
人びとのほおは
上気していて、
足もとの石だたみも
火照っている。
たのしげに、
わがままに、
えがおを
もち歩いている。
はっとするほどの
ととった顔だちに、
すこしばかりの
おさなさが光る
ひとがいる。
どうどうとした
体くのうえに、
人なつっこい
かおをのせている
ひともいる。
汗ばんでほほえむ
やさしいひとの
いそがしさは、
しあわせに
つながっていて、
いつのまにか
さむさを忘れてしまった
こうさてんの信号も、
夜のあいだじゅう
あおいろで
照らしていたいと
思っている。
ふしぎなことに
はるになっているから、
凍えていたはずの
ばしょからも
ちいさい花が咲いている。
あたらしいみどりに
うもれてしまう
その花は、
つまようじの
せなかほどのおおきさで、
いろだって
はっきりとしていない。
それでも
あまねく陽はてるように、
ひとしく雨はふるように、
すべてに春はきているから、
このちっぽけな花にも
よろこびのたましいが
ゆるされていて、
ゆるみ、
そだち、
ひらき、
むきだしになって、
むぼうびのままで、
春をのみこんでいる。