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PM1:06
奈良市 平城京跡
あやめたちは行き詰った。
追跡していた容疑者が車を乗り捨てていたことに気付かなかったのだ。
車に仕掛けられた装置は、タイマー式になっていた。
周辺の聞き込みによると、観光バスがこの駐車場に進入した時には、車は無人だったという。
タイマー作動時刻がPM12:43
それ以前に逃亡したことになる。
「問題は、彼がどこに行ったか」
「そうなのよね」
そう話す大介とあやめ。
不意に、大介のケータイが鳴った。
「誰から?」
画面には、小田切マコの文字。
「マコから!?」
しかし、その電話はすぐに切れた。
「マコちゃんから着信が?」
「すぐに切れたが、間違いない。
何かあったのか?」
「どこにいるかが分かれば」
その時、エリスが彼らに走り寄る。
「アヤメ、ミスターカンマから、緊急連絡が」
「緊急連絡?」
大和西大寺駅を張り込んでいた神間刑事からの連絡だった。
あやめは、愛車の無線を引っ張った。
「こちら、あやめ」
―――西大寺車庫から緊急連絡が入った。
大阪難波駅に向かっていた回送列車がジャックされたらしい。
「どういうことです?」
―――私にも、よく分からん。
学園前に停車して以降、音信不通だそうだ。
「大介です。
まさか、童森君?」
―――可能性はあるが、どうなってるんだ?
今まで、駅のコンコースで張り込んでいたんだ。
見落としたのか?
「西大寺駅では、何事もなかったんですね」
―――そう聞いている。
再び、あやめに変わる。
「その電車の現在地は?」
―――ダイヤ通りだと、既に生駒駅を出ている。
次の停車駅は、布施。
難波に到着後、賢島行きの特急になる車両だ。
ちょっと待ってくれ・・・いや、停車している!
「止まっている?」
―――石切~奈良の信号がすべて赤の状態だ。
だが、石切以降の信号は正常に作動している、つまり。
「電車は、新生駒トンネル内で停車していると」
―――生駒山は、関西でも磁場が大きい土地でもある。
磁場を狙ったり、引き寄せられる妖怪も、少なくない。
そこを貫通するトンネルは、格好の場所。
「ファントムに何らかのアクションが起きたら・・・。
すぐに向かうわ。
本部に、ヘリをいつでも飛ばせるよう、スタンバイするように伝えてください」
―――分かった。
無線を終え、大介とエリスに、目線を送る。
宮地刑事に、その場を任せ、エリスたちは、生駒へ向かった。
サイレンを鳴らし、2台が疾走する。
「いつの間に、生駒に」
驚くあやめに、大介は言う。
「おそらく、あらかじめ平城京跡の近くに、他のバイクか車を用意していたんだろう。
それに乗って、逃亡した。
しかし、それに気が付き、検問を敷かれたら、おしまいだ。
かと言って、刑事が張り込んでいるであろう最寄駅から列車に乗るのは、リスクが高い。
だから、こうしたんだ。
大和西大寺から2駅離れた、警察もまだ目をつけていない学園前駅に向かい、人を乗せていない回送電車をジャックした。
営業列車の合間を縫って走る回送や団体列車は、大抵の主要駅には停車する。 そこで、利用客を装い車掌を襲撃。
運転台を制圧ってところだろうね」
そこへ、エリスが無線で割り込む。
―――でも、この後どうするんでしょうか?
列車はバスや飛行機と違って、自由に動けない。
終点に着いたら、そこで終りよ。
「確か、近鉄奈良線の線路って、阪神電鉄と連絡していたわね。
とすると、終点は神戸・三宮。
いえ、そこからさらに連絡している山陽電鉄も乗り入れれば、姫路まで」
「いや、無理がある。
全ての電車が、一本の線路でつなげられる訳じゃない。
その路線に対応できる機器を積んでいなければ、意味がない。
車種にもよるが、近鉄特急は、阪神に対応できる機器を積んでいないから、難波以降は走行不能。
エリスが言ったように、いくら線路がつながってても、終点になれば、そこで終り。
それを考えれば、電車をジャックした目的は逃亡以外にもあると考えたほうがよさそうだな。」
「逃亡以外の目的?」
「分からないが、さっき神間刑事が言っていた、磁場が何らかの関係を持ってくるんじゃないかな?」
「もしそうなら、トクハン本部の警報が鳴るわ。
異常な磁場の反応が起きたら、警報で知らせる装置が、全国の要注意地点やパワースポットに設置されているの」
その話のすぐに。
―――あやめ君、大介。
隼からの無線。
「どうしたの、パパ?」
―――生駒トンネル付近で、異常な磁場の変動が観測された。
ジャックされた電車と、何らかの関係があるかもしれない。
「噂をすれば」
―――それと、生駒駅からの情報だ。
さっき、回送電車の運転席に、若い女性が乗り込んだそうだ。
話から、小田切マコの可能性が濃厚だ。
「親父、本当かよ!」
―――ホームにいた乗客が証言している。
磁場は危険レベルに達した。
近鉄奈良線は全線で運転を見合わせているが、その後、どう行動するか分からん。
大至急、生駒駅に向かってくれ。
その時、隼が、無線から離れる。
数秒して、リオに変わる。
―――アヤメ、エリス。
完成したわよ。
超強力プログラム
『やった!』
「おっしゃーっ!」
―――すぐにサーバーを経由して、世界中の証券取引所にブロックをかけるわ。
気が済むまで、ファントムを痛めつけなさい。
私も、ヘリで向かうわ。
『了解』
通信を終えようとした時、大介が隼を呼んだ。
―――どうした、息子よ。
「親父、東大阪一帯に警戒網を敷いてくれ」
―――東大阪?
「ここまで注目されれば、電車で逃亡するのは無理だ。
第一、危険レベルの磁場で、電車の計器は破壊されているはずだ。
となると、童森は電車を捨てて、さらに逃げる。
だけど、警察が目を光らせている奈良方面に逃亡するとは考えにくい。
そうなると」
―――もう一方の東大阪方面か。
よし、大阪府警に連絡しよう。
気を付けるんだぞ。
分かっていると思うが、お前は一般人だ。
大介は微笑し、言った。
「親父。
俺は、ローマでエリスと会ってから、その称号は捨てたよ」
―――フッ、そうだったな。
親子の通信を終えた時には、車は生駒駅手前に来ていた。
ものすごい圧迫感のようなものが、体に襲ってくる。
だが、あやめたちは思った。
これだけの磁場なら、ファントムのいるスマホも、ただでは済まされないはず。
一体、トンネル内で何が起きているか。
想像に任せたくても、それができない。
ファントムは、じわじわと追いつめられているはず。
なのに、まだ、謎だらけ。




