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改造された国産スポーツカーが1台、舞い上がり、ルーフからアスファルトに叩きつけられ、そこへトレーラーが突っ込み、炎上。
大阪を南北に走るハイウェイに、雨水と血、オイルが流れ込む。
原型をとどめないワゴン、底を見せる観光バス、タイヤを炎上させるバイク。
全て、いつもなら人間には見えるはずのない相手を見てしまったが故。
八尾料金所を突破した“何か”を1台のパトカーが追っていた。
“何か”が通り抜けるたび、車がクラッシュする。
「また車が・・・何なんだよ!あれ」
そう叫んだ隊員に、無線が答える。
―――“ターボばあちゃん”、“ジェットばばあ”、“ミサイル婆”。
人々は、各地で、こう呼称する。
運転手を驚かし、黄泉へいざなう存在。
「あなたは?」
―――“トクハン”よ。すぐに追跡をやめなさい。さもないと、二階級特進することになるわよ。
そう言われ、パトカーは速度を落とす。
代わりに、青いランプを光らせたZ33が、追い抜いていく。
「“トクハン”、本当にあったんだな」
運転していた隊員が、先程、無線で対応していた隊員に言った。
「噂では聞いていたが。
警察力を以ってしては解決不可能の、不可解事件を扱う部署。特別犯罪対策係。通称“トクハン”」
「でも、あの声。女だよな?それも、若い」
「ああ、まるで、10代後半から20代くらいの」
Z33は一般車を交わし、相手にピッタリ付いた。
右側、反対車線側に、世界最長路線を持つ大阪モノレールの線路が現れ始めた。
「こちら、特01、ラッシュに追いついた。高速道の封鎖は?」
―――この先の守口JCTで、12号線に誘導している。
それ以降は、封鎖済みだ。一般車はいない!
「了解」
―――大丈夫なのか?
「ラッシュ967-ジェットババアのテリトリーは六甲山。名神を使って、そこへ戻せば何とか。
元々は、ここまで凶暴な存在ではないわ。多分、環境が変わって暴れているだけ」
そう話すうち、左車線に渋滞ができている。高速12号守口線へ降ろされる車の列だ。
テールライトがぼやけながら、流れ去る。
開けた道路。眼前には標的のみ。
アクセルを踏み込み、できるだけ近づく。
少しでも間違えば、自分も命がない。
「止まりなさい!」
後ろから呼びかけるも、止まる気配がない。
淀川を渡り、右手に新幹線操車場を流し、尚も、名神吹田JCTへ向かう。
そんな時、無線が状況変化を伝えた。