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第21話 『介入戦 4』

更新ペースが落ちてますが、今後もよろしくお願いします。

誤字脱字の報告や感想をお待ちしております。

「しくじったぜ…

 後1機までは無傷で切り抜けるつもりだったが、

 上手くいかないものだな」


そう言いながらもアンドラスの表情はさほど残念そうではなかった。過ぎ去った事に拘らないさっぱりとした彼らしい反応だろう。しかも、アンドラスは大きな傷にもかかわらず、傷の回復に廻す魔力は止血程度に留めて、闘志を漲らせながら剣を構える。感覚が鈍る痛覚遮断は行わず、傷からの痛みは意思の力で抑え込む。


アンドラスの備えは功を奏して、

次の攻撃に迅速に対応する事が出来た。


お怪我を負っている身とは思えぬ動きで追撃として行われた斬撃を避ける。その動きは曲芸師顔負けの動きと言っても通じるぐらいだろう。アンドラスはこの極限状態の中ですら、隙を見つけて砂塵展開ダスト・ディポイメントの展開で貴重な時間を稼ぐ事に成功する。


(手負いにも容赦しない手並み、こいつ等は戦争プロだ)


砂塵の中に潜むアンドラスに向けて1機の魔導機ウィザードが鋭い斬撃を放つ。背後からの攻撃だったが、攻撃を感知したアンドラスは難なく攻撃を避ける。魔導機ウィザードからの続けて攻撃を続けて受けるも見事な反応で避けて、時には剣で受け止めて攻撃を回避していく。アンドラスは魔導機ウィザードの動きすらも利用する無駄の無い回避を続ける。


アンドラスは魔導機隊によって包囲されているように見るが、人という小さな目標ゆえに一度に攻撃できる数が限られているので、実際に攻撃が行えているのは10機の内、特殊機の2機を含む3機に過ぎない。それでも回避を継続していた事実からして、アンドラスの高い回避能力が伺えた。達人といっても過言ではない技量。


「そうかっ、動きの際に生じる風と砂塵の揺らぎから、

 俺たちの攻撃を察知してるぞ!」


アンドラスが示した回避能力を察知した彼は、特殊機に乗ってアンドラスと対峙する搭乗者は実戦経験の豊富なテセス・タウンゼントと言う。彼はとある機関に所属する職業軍人であり、この増援部隊の隊長を務めている。搭乗者としての技量だけではなく、魔法剣士ルーンフェンサーとしての実力も高い。


「まさか!?」


「戦いぶりから油断できない相手だと判っていたが、

 そこまでとは!」


テセスは考える。


(こいつは死ぬ気で殿を行ってる。

 つまり撤退した部隊の存在、もしくは部隊に大切な者が居る証拠だ。

 任務の性質からして口封じは重要だが、

 全員が無理なら可能な限り多く封じれる方を選ぶべきだな)


短距離魔法通信による会話が飛び交う。

相手の存在感に気圧されそうになるがテセスは先手を打つ。


「聞け、油断さえしなければやりようはある。

 風と砂塵の流れを感知してるなら、それを掻き乱せばよい!

 相手は生身。直撃させれば我々の目的は達せられる」


テセスの言葉に魔導機隊は落ち着きを取り戻す。テセスは作戦を各機に伝えると詠唱を始める。魔導機ウィザードに乗っていても魔法発動は使用可能なのだ。もちろん発動に必要な魔力は詠唱者本人のものだが、魔導機ウィザードの増幅器を通す事で威力が2.3倍にも増す。発動起点は魔導機ウィザードの増幅機が備わっている手だ。機体によってはワンドを装備し、各所に増幅器を備えた重魔法戦用の機体もある。テセスは空裂ヴェインならば無詠唱で使えたが威力減退を嫌って大抵は詠唱を行うようにしている。


「ディーロフ・ザイン・ルーシス・パルティオン、

 大気に漂うマナよ、誓約に従い風となれ!

 空裂ヴェイン!」


テセス機の左手から詠唱の始まりと共に集まっていた風が収束して、アンドラスが潜む砂塵に向かう。人が唱えた魔法より増幅された衝撃波の塊が着弾と同時に解き放たれた。アンドラスには直撃しなかったが、砕けた岩の少なからずがアンドラスの鍛え抜かれた体に打撲傷を残す。しかし肉体的な傷よりも彼を覆い隠していた砂塵が衝撃波によって拡散したのがアンドラスにとっては痛手だった。砂塵という隠れ蓑の喪失に加えて、衝撃波によって風も掻き乱され、風の揺らめきから攻撃を察知するのは難しい状態になったのだ。


アンドラスは再び砂塵展開ダスト・ディポイメントの詠唱を行おうとするが、テセス機の僚機の魔導機ウィザードが切り込んでアンドラスの詠唱を中断させる。その直後にテセス機も攻撃に加わり、アンドラスを追い詰めていく。


(特殊機の足止めは絶対として、

 後2.3機ぐらいは此方に釘付けにしていないと討伐隊が危ない)


アンドラスはリオンならば逃げ切れると確信していたが、追いつかれた場合は討伐隊の壊滅は必至と判断していた。残念な事にその判断は全くもって正しい。だが、アンドラスの願いもむなしく直接戦闘に参加しない7機のサーダイン2型のうち、ロングレンジタイプ1機を含む隊が先ほど撤退した討伐隊の方向に向かって移動を始める。アンドラスは何とかして回り込もうと試みるも、2機の特殊機による阻止攻撃によって失敗に終わった。


(最初に討伐隊を叩いて、

 最後にこの場に釘付けにした俺を処理する。

 忌々しいが悪くない判断だな)


こうなる危険性を増援部隊との遭遇時に理解していたアンドラスだが、討伐隊と共同で戦う選択肢は最初から持ち合わせていない。何しろリオンを除けば魔導機ウィザードに対する攻撃手段と効果的な防御手段を持ち合わせていない時点で戦力としての価値は無かった。それに、この場に討伐隊が留まっていたら、アンドラスとリオンに大半を仕向けて、1機の魔導機ウィザードが討伐隊を攻撃していただろう事は火を見るより明らかだ。1機だけでもリオンとアンドラスの支援がなければ討伐隊にとって死神に等しい敵だろう。


アンドラスは生身でかつ手負い関わらずサーダイン2型の攻撃を受け流し、続けさまに特殊機からの攻撃を回避する。これまで獅子奮迅の奮闘を見せていたアンドラスだが、回避の限界に達した。テセス機からの一撃を避け切れず、受け流しに失敗して吹き飛ばされ、背中から岩に叩きつけられる。


「ぐっ!」


強い強打と共にアンドラスの意識が一瞬飛ぶ。


意識が飛んでいた時間は僅かであったが、戦闘中としては致命的な時間。意識がしっかりと戻った時にはサーダイン2型が繰り出したグレートソードによる突きがアンドラスの目の前に迫っていた。


(まずい! この軌道では完全回避は無理だ!)


完全回避は無理と判断したアンドラスは直撃だけは避けようと迫り来るグレートソードに対して横に飛ぶ。アンドラスは斬り払いによって叩きつけられる覚悟の上だ。しかし、グレートソードはアンドラスの体に触れる直前に刃の中心から青い火花と共に折れてしまう。 青い火花からフルロード型魔石弾なのは確実だ。


テセスだけでなくアンドラスも突然の介入に驚く。


主要兵装のグレートソードを失ったサーダイン2型がアンドラスから離れるように回避機動に入る。跳躍を交えた機動を行うも、再び行われた魔導機用狙撃銃の攻撃と思われる狙撃を受けてしまう。しかも、一撃で急所を狙う驚くべき精度を見せた射撃だったのだ。狙われたサーダイン2型は斜め上から操縦席コックピットを撃ち抜かれてバランスを崩して倒れる。当然ながら搭乗員は即死だった。


「どこからの狙撃だ!?」


テセスは狙撃精度からして並々ならぬ敵だと即座に理解し、戦いの原則である戦力の集中を決断する。彼としては、先に逃げた討伐隊の大半が徒歩なので追跡を後回しにして、今は未知の敵に備える事を選択したのだ。


「慌てるな。

 別働隊は追撃を中止して合流。

 索敵を密にして警戒せよ」


テセスは大破したサーダイン2型に付いた弾痕から長距離狙撃に適した渓谷の頂きから狙撃を行ったと判断するも魔導機ウィザードの姿は見えない。だが魔力波は現在も途切れていないのでこの一帯にいるのは確か。


討伐隊への追撃に移っていた魔導機隊はテセス機を中心に配置へと就く。

テセスは魔力波の流れから位置の特定し警告を出す。


「頭上から来るぞ!」


その言葉通りに頭上を見上げると1機の魔導機ウィザードが見える。驚異的な跳躍力だが、魔石圧壊を利用した特別性の携帯型緊急加速用ブースターの装置を利用した効果だろうか。並みの魔導機ウィザードでは成しえない飛翔高度だ。機体色はワインレッドの色で塗られているのが判る。


魔導機ウィザードの高度が下がった事で、この戦場に介入してきた魔導機ウィザードがスマートなデザインが特徴のアレイオン型魔導機ウィザードと判明する。アレイオン型魔導機ウィザードは六強国の一国、技術大国レスティア連邦が6年前に開発していた強襲型魔導機ウィザードの一つだった。アレイオン型は突出した運動性能を始めとした高機動を実現する高出力魔力炉を詰め込んだ結果、戦闘機動時に於いて操縦者に高い魔力制御のセンスが求められるので著しく操縦者を選ぶ曰く付きの機体だったのだ。加えて機体重量を抑えるために装甲は薄い。 試作機としてアレイオンは9機製造されたが、あまりの扱い難さと多発する事故から、軍内では未亡人製造機ウィドーメーカーや欠陥機という散々な評価を下されて採用が見送られた程の機体。


識別マークは無かったが、

介入行動からしてテセスたちからすれば明確な敵だった。


「介入してきた機体はアレイオン型か!

 しかし、いくら高機動を誇るとはいえ、

 あの速度で降下してると簡単には軌道修正は困難だろうよ」


(基本性能も俺のアストラーデ型なら十分に戦える)


アレイオン型は攻撃を受ける危険性を事をまったく考慮していない様子のまま降下が続く。無詠唱の爆発エクスプロージョンの魔法がテセス機とその僚機から放たれ、ロングレンジタイプからの狙撃も始まる。


魔法及び狙撃が始まったにも関わらず、

アレイオン型魔導機は回避行動すら行わない。


(おいおい、無用心すぎるぞ…

 隊を呼び戻したのは杞憂だったか?)


アレイオン型魔導機にフルロード型魔石弾が迫るも、それが直撃する前に弾かれる。フルロード型魔石弾を弾く瞬間に装甲の表層に空気断層のようなものが一瞬だけ現れたのだ。対物理・対魔法用の魔法障壁シールドとはまた別の防御刻印が起した現象だろう。防御刻印とは受けたダメージに応じて消費していく防御機材である。テセスはその装備を予見していたので慌てない。本命として放っていた爆発エクスプロージョンの光弾がフルロード型魔石弾の狙撃から僅かな間を置いて直撃して衝撃を伴う爆風を撒き散らす。僚機が放った2発目の爆発エクスプロージョンも立て続けに発生した。この2発の魔法攻撃なら防御刻印があったとしても貫通可能な打撃力。


しかし、防御刻印があったとしても並みの魔導機ウィザードなら撃破確実だと思われる攻撃の中から、何事も無かったように魔導機ウィザードが姿を現す。しかも全くの無傷のまま、優雅な機動で地面に降り立つ。


「なにっ!?」


予想外の展開に流石のテセスは驚く。傷を癒しながら警戒を怠らずに見ていたアンドラスも同じように驚いていた。


二人は頭の中で状況が示す意味に至る。2.3発程度のフルロード型魔石弾を弾く防御刻印ならまだ理解できたが、爆発エクスプロージョンまでは防げない。高出力の対物理・対魔法用の魔法障壁シールドを使用しても何らかの損傷は受けて然るべきだろう。残された答えはアレイオン型に搭載されている魔導機ウィザードの出力が桁違いに高い事を指している。


「全機、敵機出力からおそらく魔力炉は遺失機関と思われる!」


遺失機関とは旧帝国時代に作られた魔力炉を指す。六強国が作り上げる魔力炉とは比べ物にならぬ出力を有し、中には魔導機ウィザードに搭載可能な小型魔力炉ですら巡洋艦級の機関出力を有するものすらあった。完全な状態でなくてもパーツだけでも非常に高値で取引されている程だ。


冒険者の中でもこれらの遺失機関の採掘を生業をする者がいる事から、どれだけの富を生み出しているか判るだろう。もっとも採掘された機関の大半は軍用ではなく生産設備に転用されているので、戦いの場で見かけるのは珍しいケースなので、それだけに遺失機関の希少性が判る。


「なんとか間に合ってよかったわ」


(この地域のこれほどの装備を投入してきたとなると、

 おそらくは聖杖騎士団の遺跡調査隊かしら?

 どちらにしても丁度いいわね…

 部隊展開の余裕も出来た事だし、

 貴方たちは私からのメッセージになってもらうわ)


アレイオン型に搭乗していたのはリリスだった。彼女は普段の格好とは違う。全身にフィットした太ももから下、肩から先の素肌を惜しみなく見せるレオタードのような衣装を着て、歩き易そうなシンプルかつお洒落な感じがする黒基調のブーツと、同じく黒基調のフィンガーレスグローブを身に着けている。イシュリア自警団魔導機隊の女性搭乗者が纏う衣装の一つ。夢魔化を想定している分、リリスのような魅力溢れる女性が着ていると引き立つ服装と言えるだろう。その証拠に搭乗席に跨るリリスはどこから見ても魅力的だ。


『アンドラス、無事で何より。

 ここから先は私が行うわ、貴方は傷の手当に専念しなさい』


テレパシーによるメッセージをリリスから受け取ったアンドラスは未確認機が友軍、しかもリリスが乗っている事実に安堵の表情を浮かべた。自分だけでなくリオンの身も安全が保障されたので当然の反応と言える。リリスはライフルを魔導機ウィザード腰に装備しているチェストリグに固定してからアンドラスに伝え忘れた言葉を言う。


『そうそう、

 少し暴れるから気をつけて頂戴ね』


その言葉でアンドラスの豪胆な彼にも似合わないほどに顔は真っ青になる。リリスはリリシアより長く生きているだけあって高位魔法ですら容易く操る実力者。魔力量も豊富で、接近戦の実力もアンドラスと引けを取らず、また、アンドラスにしてもリリスの本気は見た事がない程だ。


(なるほどな…アレイオンのカラクリが見えてきた。

 っと、それどころじゃない。

 まずは身を隠さないと俺も危ない!)


アンドラスは急いで近場で堅牢そうな岩を見つけると、その場所に急いで身を隠す。 彼が隠れた岩は魔導機ウィザードよりも大きく、まるで対攻城戦用の大魔法に備えた身の隠し方だった。


「久しぶりに見せてあげる…」


リリスが色っぽく呟くと、操縦席コックピットの中にありえない程の魔力が満ちる。リリスの肩甲骨の辺りから高濃度の魔力によって具現化した翼と尾てい骨の辺りから尻尾が具現化し、僅かに送れて頭には高位夢魔の証拠である角が生えた。流石に密閉空間の操縦席コックピットでは翼を広げる事は出来ないので羽の具現化は途中で止めて、しかも畳んだままだ。そして、両耳の上に出来た角の具合からリリムに見えるだろうが、その角も良く見ると普通のものと違う。リリスは貴族種ノーブルとして伝えられる最高位のリリム(イプシロティリリム)だったのだ。


「なんだ! この重魔導機、いや巡洋艦クラスに匹敵する魔力量とは、

 アレには一体どのような遺失機関を積まれてるんだ!?」


リリスが乗るアレイオンと対峙する7機のサーダイン2型の内、2機が異常な魔力を何らかの大魔法の発動と捉え、それを阻止するべくアレイオンの真横から挟み込むようにして攻撃を行う。やや離れていた、テセスとその僚機もアレイオンに向かっていた。挟まれ様としているにも関わらずリリスの表情に焦りはない。


「もう、せっかちね」


アレイオンが左右から向かってくるサーダイン2型に向けて手を向けると、見えない何かに激突したように動きを止める。2機が激突したのはリリスが発生させた魔力の塊だったのだ。

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