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第02話 『序章 2』

今回は少し短めになります。

ライナス圏南東部の海岸沿には、7つの嶺に囲まれた平原が広がっている。その一角にあるゆるやかに登った丘の上にはリリシアが本拠地を置いているイシュリア自治領があった。


イシュリア自治領はライナス圏でときおり見られる村単位の小さな勢力の一つで、自然の恵みと周辺に広がる山脈からの水源から、天然の良港として栄えただろう地理的条件を有している。しかしながら、周辺地域に広がる複雑なマスティア領域が外洋進出の拠点としての価値を喪失させていたのだ。


その代わりに手付かずの自然が残っており、

ユニコーンを始めとした珍しい幻獣が数多く生息している。


この自治領を通って海へと注ぐレナール川の中ほどには、川に面する三角屋根とレンガ造りのしっかりと作られたリリシアが住まう屋敷が立っていた。その屋敷のほかには川に面した桟橋を有する川から伸びた水路によって積み荷の積み下ろしが可能な倉庫がある。屋敷の近くにはリリシアと交流が深いエルフの集落もあった。


夏の暑い日差しの中。

その屋敷の敷地内で少年と少女がリリシアの下で鍛錬に励んでいる。


男女のうち、長く伸びた耳を有し、

青い瞳で小柄な少女の方はイリス・マークライトと云う。


イリスは妖精族のエルフと人間ヒューマンの混血であるハーフエルフ。森に流れる心地良い風にさらさらとショートカットのブロンドの髪を舞わせる彼女は12歳と云う年齢からエルフの血を引きながらも、美しさよりも可愛らしさが引き立つ容姿だった。そして、彼女こそがリリシアによって1年半ほど前にフィンセンツ盗賊団から救出されたハーフエルフの少女でもある。


身寄りの無いイリスを引き取ったリリシアは、イリスに対して惜しまない愛情を注いできた事もあって今ではあの辛い記憶を乗り越え、リリシアを「お姉ちゃん」と心の底から慕うようになっていたのだ。


イリスからやや離れた場所でブロードソードを振っている黒髪の少年はロイ・フィールズである。 ロイは正義感に富んだ血気盛んな青年であり、年齢は13歳になって日が浅い。エルフに比べて成長が早い人間であったが、ロイの年齢はまだまだ成長途中である。しかし、現在体についている筋肉だけでも、実戦を想定した鍛え方をしているのがわかるだろう。ハンサムという訳ではなかったが、顔立ちはそれなりに整っており、不思議な魅力を感じさせる少年である。


ロイは2年前からリリシアの戦友であり弟子でもあったロイの父親アイザックの伝手で修行に来ていた。ロイの正義感が強く真面目な人柄が気に入っていた事もあって、リリシアの面倒見の様子はかなりのものだ。


もちろん、ロイとリリシアに引き取られたイリスの仲は良好そのもの。


そして、ロイの目標は遺跡探索やモンスターを討伐していく一流の冒険者になること。


冒険者とは、ざっくばらんの表現を行えば定職を持たない何でも屋である。


駆けだしから中堅までの冒険者の大半が各々の力量に適した依頼を冒険者ギルドに仲介料を支払って仕事を受けるのだ。ギルドを介するメリットは依頼を果たした際にギルドから報酬が支払われるので、踏み倒される危険性が無い。加えて依頼遂行する際に必要な情報も集め易いのもある。ギルドの多くは多くの場合に於いて商業ギルドがスポンサーとなっており、彼らが仕事の多くを斡旋する。例を上げれば各街を移動する商隊護衛や、希少素材の採取など。


時としては領主に雇われて領地に出没するモンスター退治を担う事もある。


これらの事からギルドは世界各地に存在していた。


余談だが、人材を必要な時だけ使える冒険者ギルドの仕組みは、商人達の人件費削減に繋がっているだけでなく、深刻な失業者を出さない副次効果もあった。そして、主要都市ともなれば、国家機関からの仕事を引き受ける冒険者ギルドも存在しており、辺境開拓、古代魔法王国の遺跡や地下迷宮の調査、場合によっては国軍の一部隊として働くなどの依頼があるのだ。また、地方であっても領主軍の中核としての雇用もそれなりに行われている。


このようにギルドは有名機関への登竜門としても機能していたのだ。


閑話休題


無論、冒険者を目指すロイの修行を見るリリシアも冒険者である。しかもリリシアは戦闘や討伐だけでなく、調査や探査などの幅広い知識が必要な依頼すらも行えるオールグランダーであり、その実力は超一流。教えを受ける相手としては最良の存在と言っても過言ではない。


魔法書を読みながら二人の様子を見るリリシアは木と木を垂直に組み合わせて作られたパーゴラの下に広がるテラスにある椅子に腰を下していた。リリシアの服装はイリス救出時に着ていた機動力を重視した黒いレオタードの上に軽装鎧を纏ったものではなく、ややボディラインを強調しながらも品の良いデザインのローブを纏っている。


リリシアは魔法書を閉じてテーブルの上に置く。

二人の方を見ていないようで、きちんと注意を払っていたのだ。


また、元々修行に来ていたロイは当然として、イリスが受けていた鍛錬は押し付けではなく、イリス自身の希望によって行われている。


「ロイ、素振りはもう止めて良いわ。

 次は足裁きのから基本攻撃動作を繰り返して行いなさい」


「判った!」


ロイは両足を肩幅に開いて右手に持つブロードソードを中段で構えてから左足を前に出し、右足を後ろに置いた。膝は軽く曲げ、重心が土踏まずよりもやや前に移動させる。真っ直ぐ前へと向く左足のつま先に対して右足は45度に開く。


左足に重心が移動し、右足で踏み込む。


腰のひねりを伝えるように、肩、から手首を押し出して、剣を出す。ブロードソードの突きが伸びきったタイミングで前に出した右足を地面に下した。すばやく右足に力を込めて後ろへと下がる。続けて左右の水平、左右の上斜め、そして真上へと剣撃を行う。すべての動作において、攻撃動作のみに終わらず、引く動作にも重点を置いた鍛錬。


ロイが行う剣戟の流れからして、

長期戦を意識したものだ。


同じような動作をロイは繰り繰り返す。

幾度も繰り返すことで、その動作を記憶させるのだ。

基礎は応用へと繋がる土壌だからこそ、積み重ねが大事だった。


応用は極めるには果てしない修練が必要な領域だからこそ、その根本を支える最初が大事である。無論、戦闘技能の習得だけに、応用に繋げるためには危険なことも多々にしてある。基礎から応用への昇華には適度な実戦経験が必要なのも、例の一つとして挙げる事ができるだろう。


ともあれ、ロイの剣捌きは彼の年齢のものとしては悪くないものレベルに達しており、これだけでも真面目に鍛錬してきたのが判る。


「いいわ、その調子よ。

 攻撃の瞬間に力を込めるだけでなく魔力も練られる様になれば、

 攻撃力は更に増すわ。

 これからも頑張りなさいね」


ロイは元気よく応じる。

リリシアはロイの様子に満足げに微笑んでから、

視線をロイからイリスの方へ向ける。


「なかなかの魔力が溜まってきたようね」


リリシアは地面に突き立てた理解のコンパートワンドに魔力を集めるべく意識を集中させていたイリスに近寄った。リリシアから声を掛けられたイリスは明るい笑顔を浮かべる。


「お姉ちゃんと比べればまだまだだよ~」


「それはそうよ。

 経験からして違うのだから。

 でも、焦らなくても鍛錬を欠かさなければ貴方も強くなれるわよ」


「頑張るよっ」


天真爛漫なイリスの返事にリリシアは優しく頭を撫でる。


「さぁ雑談はここまで。

 次は杖に集めた魔力を洩らすことなく出来る限り体内に戻しなさい。

 スムーズに扱えるようになれば、それが大きな財産になるわ」


「うん」


イリスはリリシアから言われたとおりに始める。リリシアは魔法剣士ルーンフェンサーとして高い力量を有しており、剣士を目指すロイ、魔術師ソーサラーを目指すイリスの双方に教えを与えること事が可能だった。


イリスは深呼吸を行ってから杖の先に視線を集中させて、杖に貯めた魔力を両手から取り入れて体内に戻していく。効率よく魔力循環を行うためのトレーニングである。これを繰り返すことで魔力展開速度及び、魔力操作能力を上げることができるのだ。魔法の中では展開と操作は基礎中の基礎であったが、それだけにそこから派生する物事も多く、大事なものであった。


リリシアは二人を鍛錬をきめ細やかに見ていく。テーブルの上に置いてあった魔石反応によって動く動力式時計に視線を向ける。動力時計は高精度及び小型化に不可欠な円テンプ、レバー脱進機などを採用し、更に一部とはいえ魔導機製造技術すらも使われている貴族が所有するような高価なものだった。しかもリリシアが保有する時計は時計師ギルドの親方が作り上げた傑作マスターピース級のもの。


リリシアは時間を確認すると口を開く。


「さて…今日の鍛錬は後30分でお終い。

 それが終われば夕飯の準備まで自由時間よ」


その言葉にロイとイリスの二人は揃って嬉しそうな表情を浮かべた。リリシアの鍛錬には緩急が用意されており、豊かな精神がはぐくめるよう自由な時間が多く用意されている。これには子供の時間は可能な限り遊ばせたいと思う、リリシアの配慮があったのだ。

ファンタジーの世界に機械時計!?

実のところ、15世紀には動力ゼンマイ式の携帯時計がありました。

これに魔法が加われば精度は更にUP間違いなし。

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