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第18話 『介入戦 1』

更新ペースが落ちますが、これらもよろしくお願いします。

また誤字脱字の指摘や、

意見、ご感想を心よりお待ちしております。

討伐隊は開拓地方面に通じる周囲より標高の低い細長く溝状に伸びた渓谷に入ると予想より早く情報にあったキマイラと遭遇する。キマイラの数は10体だが、明らかにその様子がおかしい。無秩序に襲い掛かるのではなく各キマイラが互いに連携するような距離を取っていたのだ。しかも、そのうち2体のキマイラが渓谷に流れる川を通って後方に回りこんでおり、動きに戦術的な意思が明確に感じられた。


「普通のキマイラじゃないな。

 辛うじてだが、あの体内の魔力循環は普通じゃないものが感知できる。

 どうやら人為的に弄られているようだ…」


「肯定」


(三姉妹を村に残してきて良かった)


リオンは安堵する。あの三姉妹はリオンの親友だけに、その思いは強い。しばらく世話になった傭兵隊の面々も三姉妹を村に置いていく案に反対の声は無かった。一晩の関係とはいえ、丁寧に尽くしてくれた女性に危険が及ぶのは傭兵たちにとっても寝覚めが悪かったのだ。流石は一流の娼婦と面目躍如といったところだろうか。


(しかし、キマイラを弄れるとなれば生半可な相手じゃない、

 俺たちの知らぬ何かが動いている)


アンドラスは相手の殺気を感じるいなや思案から戦いへと意識を切り替える。


「来るぞっ」


傭兵たちの前に立つ、

アンドラスはそう言うと構えていた剣に魔力を流す。


後方に回り込んでいた2体のキマイラがアンドラスに時間差攻撃を仕掛けるも、アンドラスはそれを難なく避わしていた。逆にアンドラスに攻撃を仕掛けた一体に剣による深い傷が発生する。人間で例えるなら致命傷に等しい深い傷であり、その傷は回避の際にアンドラスが死角から放った一撃によるものだ。アンドラスの一撃は魔力によって発生させている高振動によって必殺ともいえる鋭い剣戟になっている。その威力は魔導機ウィザードにすらダメージを与える鋭いもので、キマイラが常時展開している魔法障壁シールドを簡単に貫いていた。アンドラスからの斬撃を免れたもう一体には、リオンが放った無詠唱の火球ファイアーボールが直撃している。


「やったか?」


「っ! やってない」


「ふむ…痛覚制御の処置と生命力の底上げだな。

 加えて斬った際に感知した魔法障壁シールドの出力の上がり具合からして、

 瞬発魔力もかなり弄られているぞ」


「肯定。

 普通のキマイラならあれで終わっていた」


二人が言うように深手を負ったはずの2体のキマイラは負った傷にも関わらず四本足で立つ。短時間の間で出血が止まった様子からして、治癒力の強化が行われているのが判る。


「こうなると一撃で倒すしかないか」


「そのようね」


「おい、お前らは連携して防御を固めて守りに徹しろ。

 攻撃は俺とリオンで行う」


アンドラスの後ろに居た傭兵たちはアンドラスの指示に素直に応じて守りを重視した隊列に素早く変更した。リオンはより強力な魔法の発動に備える。アンドラスはリオンの前に立ってキマイラの反撃に備えた。戦いは二人だけではなく、討伐隊の各所でも戦闘が始まっている。傭兵隊はアンドラスとリオンが前面に立っていたので被害は無かったが、8体ものキマイラとの戦闘に入っていた領主軍側の戦況は傭兵隊ほど良くない。2機のデュライスト前期型はキマイラ1体を仕留めていたが、素早く動き回るキマイラをなかなか捉える事が出来ずに苦戦気味であり、兵士の死者は既に5名を超えていた。


領主軍側の戦況を直ぐに判断したアンドラスはリオンに視線を送る。


「この先何があるか判らん。

 魔力は可能な限り温存したほうが良いだろうよ」


「詠唱中の牽制をよろしく」


「任せろ」


リオンが両手をかざして、手と手の間に生み出した火球に術式を重ねていく。素人が見ても魔力を温存しつつ強力な魔法を発動させようとしているのが判る位の複雑な印と準備詠唱を行っていた。リオンは魔力練成と平行して体内魔力を温存するために自然界に存在する周辺のマナの収束を行っていたのだ。 その傍らでアンドラスがキマイラに向かって駆けて攻撃を始めていた。先ほどのようなキマイラの隙と死角をついたカウンター攻撃と違って今回はアンドラスからの攻撃だ。キマイラには常時展開型の魔法障壁シールドに加えて、任意展開型の魔法障壁シールドも張られており、防御力が増していたので流石に一撃で破ることは出来なかった。アンドラスは一撃、二撃、三撃とキマイラに対して素早く連続攻撃を繰り出して魔法障壁シールドに過負荷を与えていく。


アンドラスは二体同時のキマイラを相手していたが、

その表情には焦りは無く、

冷静そのものだった。


アンドラスが繰り出す攻撃は激しい剣撃だけではない。

1体のキマイラが剣撃を掻い潜って攻撃を行おうとしたが、

逆に脚力を魔力で強化した蹴りを食らっていたのだ。



アンドラスの靴にはミスリルプレートが仕込まれており、鍛え上げられた強靭な肉体から強烈な蹴りが相まって下手な鈍器を上回る打撃力を有している。故に蹴りとはいえ、当たり所が悪ければ致命傷に至る威力。


蹴りによって体勢を大きく崩したキマイラを尻目にアンドラスは剣を握る手に魔力を集めつつ、もう一体のキマイラに視線を向けた。


魔力が集るやいな、

アンドラスは素早く斜め後方から剣閃を放つ。


「振衝波っ!」


剣閃が走ると同時に周辺にまで舞い上がった砂煙がさっと太く二つに割れて、大きな空気断層がキマイラに猛然と向かう。 至近距から放たれた線ではない面の攻撃を回避しきれず、アンドラスが生み出した衝撃波によってキマイラの頭部が大きく陥没した。痙攣するキマイラに対してアンドラスは一瞬たりとも躊躇せず、右足で踏み込んで容赦の無い追撃を行う。


素早く間合いを詰めると、

斜め斬撃ダイガナリースラッシュを放って首から頭を斬り落とす。


体勢を立て直したもう1体のキマイラに牽制攻撃を仕掛けて、その場に押し留めた。時間稼ぎが功を奏して、妨害を受けることなくリオンの魔法が万全の状態で発動する。


(おいっ! その魔法構成はっ)


どのような魔法が使われようとしているかを魔法構成で理解した アンドラスは離脱のタイミングに細心の注意を払う。


「アイン・ソフ・ウェスタール・ヴァルカヌス・メルク、

 四位階より汲み取られし火よ、爆炎となりて全てを焼き付くせ!

 煌滅火球コンプレシオン・イェツィラー


詠唱が終わると同時にアンドラスが牽制してたキマイラから離れた。その直後、リオンの両手から放たれた超高熱の火球がキマイラに直撃する。通常の炎球ファイアーボールとは比べ物にならない熱と衝撃波が発生し、直撃したキマイラは姿形も残さない程に強烈な破壊力を示す。直前まで足止めを行っていたアンドラスにも衝撃波と熱風が到達するも、辛うじて被害を免れている。


「俺を巻き込む気か!?」


「煩い。

 貴方なら回避できると判断した。

 男なら細かいことを気にしないこと」


(…相変わらずリリシア以外の事は大雑把なやつめ)


アンドラスは反論しても無意味かつ、

不毛と判断して話題を変える。


「まぁいい。

 領主軍の相手しているキマイラに仕掛けるぞ」


「判った」


アンドラスとリオンを筆頭に傭兵隊が領主軍側に加勢していくと戦況が討伐隊の優勢に傾いていった。遭遇から30分経過した頃には最後のキマイラが地に沈む。


だが、討伐隊が被害確認を行う間もなく状況が一変した。


領主軍が保有する2機のデュライスト前期型の内、1機が突如飛来してたフルロード型魔石弾によって薄い上部部分の上部装甲を貫通する形で撃ち抜かれたのだ。僅かな間も空けずに、もう1機のデュライスト前期型が同じように撃ち抜かれて糸が切れた人形のように地に倒れ伏した。領主軍の主要戦力である2機の魔導機ウィザードが僅かの間で揃って大破となったのだ。


2機のデュライスト前期型を打ち抜いたフルロード型魔石弾は、魔石反応によって生じた圧縮空気によって加工した魔石を打ち出すライフルから放たれたものである。このような銃の製造には高い技術力が必要とされており、実用的な銃の製造は六強国のような高度生産技術を保有する勢力に限られていた。整備にも相応の技術が必要なので汎用的な兵器とは言い難かったが威力は高い。


そして、そのような兵装を野戦で運用するのも、

サイズからして魔導機ウィザードに限られている。


(薄い上部部分に対する狙撃となると…)


「北北東(16方位)、距離800、渓谷の上だっ」


アンドラスが示した地点、

渓谷の頂きには8機の魔導機ウィザードが展開していた。


敵魔導機ウィザードの一隊には所属を示す紋章などは無かったが、その中の2機が対魔導機用狙撃銃を装備したロングレンジタイプとなっており、それだけで尋常な部隊でない事が伺える。


「あの魔導機ウィザードはレスティア連邦製のサーダイン2型だな…

 装備している銃はルツェール公国のものか」


「敵の正体はさておき、

 最悪の組み合わせですね」


「同感だ。

 目的は不明だが、出てきたタイミングからして、

 キマイラもあいつ等の差し金だろうよ」


レスティア連邦とルツェール公国は六強国に数えられる世界規模の大国だった。レスティア連邦は魔導機ウィザードの輸出大国として名高い国家であり、かの国が作り上げた強襲型魔導機サーダイン2型は輸出用機体としては高性能を誇る。辺境国家が運用する一般的な魔導機ウィザードと比べて、その性能の高さと価格は比べ物にならないほどに高い。そして、ルツェール公国は魔導機ウィザードの兵装の開発と輸出で名を馳せている。所属元がわからない兵装だったが、少なくとも大きな資金を有するのは確実だろう。


ロングレンジタイプの魔導機ウィザードを残して6機が渓谷の斜面を伝って討伐隊に向かってきた。先ほどの狙撃と、接近中の魔導機ウィザードが近接戦用の兵装を構えていた事から敵対行動なのは明らかだ。


討伐隊は疲弊した状態で、

予想すらしなかった対魔導機戦に突入することになる。

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