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第13話 『ルゼア村』

前に描いたイリスのイラストになります!

挿絵(By みてみん)

次に描いたほうが良いキャラの要望があったら教えてください~

イリスとシルフィの二人が目を覚ますと、ロイ一行は討伐を無事に終えた報告を行うためにルゼア村の村長宅に向かっていた。既に日は落ちかかっており夕方になる頃だ。ロイ一行が、直ぐにリスタルに帰らずに村に寄る理由は二つ。ギルドの前にルゼア村の村長に報告するのも依頼内容に含まれていたのと、討伐後は村で一泊してからリスタルに戻る計画だったからだ。疲弊した状態で帰路の道中にモンスターなどに遭遇したら目も当てられないからである。


ロイ一行は椅子に腰を下ろして対面に座るコンディ村長と話をしていた。コンディ村長は立派な白い髭をあごと鼻の下に蓄えた老人。人の良さそうな雰囲気が感じがする。もちろん相手が年上かつ村長という立場を考慮していたので、ロイたちの話し方は砕けたものではなく、可能な限り敬語の口調で話していた。


テーブルの上には布が敷かれており、

そこには討伐の証拠となる、陸大蟹リバークラブの触覚が並んでいる。

触覚を脳裏に焼き付けるように見ていた村長が口を開く。


「ふ~む…討伐の証拠になる触覚が6本、

 つまり倒せたのは3体だったという事ですかな?」


証拠となる触覚は1体につき2本である。完全なものが無ければ一部だけでも良いし、代用のものでも構わない。ただし面倒な手間が増えるので、多くの場合に於いて第一候補を持っていくものだ。村長も冒険者ギルドからある程度の見分け方を伝えられていたので、このぐらいの判断は出来ている。


「私達が確認した陸大蟹リバークラブは3体です。

 ただ、あの場所には陸大蟹リバークラブとは別のモンスターがいました」


「そ、それは?」


村長は不安そうな声を出す。討伐対象の陸大蟹リバークラブの数が合わず、別のモンスターと聞かされれば、その反応は当然といえるだろう。シルフィがすかさずフォローを始める。この流れはロイとシルフィが事前に打ち合わせしたものだ。


「遠くから見れば陸大蟹リバークラブに似てますが、

 その変異種でした」


「変異種ですと!?」


村長は大いに驚く。陸大蟹リバークラブですら手に余るのに、その変異種となれば無理もない。変異種と言う予想外の内容に驚く村長に対して、ロイたちは事前の打ち合わせ通りにシルフィが主体となって丁寧に説明を行う。陸大蟹リバークラブと同じく討伐したと受けて事情を理解して村長は安堵して落ち着きを取り戻す。


「はい。こちらが、

 その変異種である裂奇蟹リッパークラブの触覚になります」


シルフィは次に布に包んでいたもう一組の触覚を前に出して見せる。冒険者ギルドから貰った保存用の魔法液がかかっているので1週間ほどは腐食することはなかったので、触覚が悪臭を放つような事はない。


(ここからが交渉の本番だね。

 難しいことじゃないけど出来る限り

 お互いが気持ちの良い気分で終わるようにしないと)


シルフィが慎重に話し合いを行うのも理由がある。3体のみで報告して、後に別の陸大蟹リバークラブがこの地に流れてきた場合を考慮していたのだ。その最悪の場合には、依頼の不履行になる可能性があったし、違約金の可能性も捨てきれない。この事は船の中でリリシアから何度も念を押されたので慎重を期している。誰だって初めての依頼で問題事に発展するのは避けたいだろう。


シルフィの落しどころはこうだ。


こちら側が裂奇蟹リッパークラブが居た事に対して依頼料の上乗せや情報不足による不手際を責めない代わりに、村側が自分たちが遭遇した裂奇蟹リッパークラブ裂奇蟹リッパークラブの退治をもってして依頼の完遂と認める事だ。陸大蟹リバークラブ裂奇蟹リッパークラブが似ているからこそ出来る方法だ。明らかに村側が得をしているが、これによって後に別の陸大蟹リバークラブが遠方からルゼア村付近に流れてきても、難癖などを回避することが出来る。いわば安全策だった。

パーティーのリーダーはロイだったが、適材適所としてシルフィに任せている。もちろんロイとイリスも真剣にやり取りを見て学ぼうとする姿勢は忘れない。


シルフィの説明が終わると、

村長が納得した表情で口を開く。


「村としても問題はありません。

 陸大蟹3体、裂奇蟹1体で討伐完遂としましょう」


変異種は珍しい素材を持つことが多いが、頻繁に移動するものも多いので狙い難い。依頼を出している間に居なくなる状況が多いので、変異種を討伐対象にすれば討伐成功時の費用と派遣費用が別になる事が多いので依頼料が釣り上がってしまう。村長は裂奇蟹リッパークラブの事は詳しくは知らなかったが変異種を対象にした依頼の難しさは知っていたのでロイ側の申し出を快諾したのだ。


「ありがとうございます」


シルフィは村長が納得したのでほっとした。


流石と言うべきか。シルフィは流石は人の上に立つ為の教育を受けていただけに、その説明は村長を十分に納得させるものだった。本来ならロイ一行のように見た目からして幼少に見える冒険者は侮られ、討伐を行っても簡単には信じてもらえないものだが、ロイのパーティには見習いとはいえ魔術師ソーサラーと思われる人物が二人も居たことが、信頼の根拠になっている。


何しろ魔法は簡単に学べるものではない。


ライナス圏に於ける魔術師育成機関のエリートと目されるリクシア魔法学院の入学には多額の学費が必要で、裕福な家庭か貴族の子弟ぐらいしか入れなかったのだ。個人的に教える人も居るが、それも多くの場合において私塾だった。


これらの事から、駆け出しの冒険者のパーティの中には魔法を使えない者で占められているケースも珍しくは無い。また居たとしても使用可能な魔法が一つだったりする場合も多い。ロイたちの学習環境がどれほど優れており、また恵まれているかが判るだろう。この様な一般的な見解から、見習い剣士のロイですら簡単ながらも、強化系魔法が使えると知ったときの村長の驚きは大きなものだった。 また、村長が見た目からして魔法を使うと判るイリスやシルフィと違ってロイが魔法技能所有者だと知っていたのは、彼らが討伐に赴く前に、このルゼア村で情報収集を始める前に村長に提示した「依頼証明書」をその目で見ていたからだ。


依頼証明書は冒険者ギルドが発行した書類である。厚手の紙に依頼遂行者の特徴や技能などが書かれているもので、護衛任務などで遂行人を騙った犯罪を防ぐ意味と、能力に達していない者が功名心から安易に危険な依頼を勝手に行わないようにする措置から作られていた。


ロイが依頼証明書を村長の前に出す。


「最後にこの箇所にサインをお願いします」


村長は羽ペンにインクを付けてロイが指した箇所にサインを行う。依頼主はレイナード商会だったが、ルゼア村に商会の者が常駐していないので確認のサインは村長となっていたのだ。


「これで依頼は無事に終えた事になるのかな?」


「はい。

 ありがとうございます。

 これで無事に完了にですね」


依頼に関するやり取りは、このように決められていたので依頼側と冒険者側のトラブルは最小限に抑えられている。何しろ依頼主が悪質な対応を行えば、違約金の請求もありえるし、次から依頼を受けない場合もある。冒険者側でも同じであり、悪質な行動を意図して行えば、最悪の場合は追放もありえるのだ。


ロイ一行は村長宅を後にして宿屋に向かう。


宿泊料金は討伐に向かう前に部屋を借りていたので、部屋に戻らずにそのまま食堂で夕食に向かう。ロイ一行が身軽だったのは野営用の荷物も討伐前に部屋に預けてあったのが理由だ。重さはともかく、少し大きめな荷物だった右鋏脚も村長宅に向かう前に部屋に置いていた。


席に着くと皆が紫芋のグリルレモンソース焼きとパンを注文する。

お勧めらしいので皆が楽しみに待つ。


「そういえば、さっきの戦いではごめんね」


イリスは裂奇蟹リッパークラブ戦闘の途中で魔力練成の際に取り乱してしまい、少し魔力を霧散してしまった事を二人に謝った。それを聞いたロイとシルフィの二人は逆に霧散した後に直ぐに練成再開を行っていた事を評価する。イリスが精一杯やった事を二人は知っているからだ。


「始めての実戦だからな。

 しかも変異種と戦うなんて予想外だった。

 良くやった方だと思う」


「でも、ロイやシルフィはちゃんと動けてたよ?」


(そういえばイリスはまだ、あの模擬戦を経験してないんだな)


ロイはなるべく言葉を選びながら言う。


「初めて話すけど…

 俺も前にアンドラスさんと行った模擬戦は知ってるよな?

 詳しい内容は受けるまで秘密だけど、

 まぁ…なんだ、俺もその時は上手く動けなかったんだ」


「うんうん。

 私も似たようなものだし、

 最初だから気にする事はないよ。

 大事なのは次に同じようなミスをしなければ良いと思う」


ロイとイリスも例の模擬戦で似たような失敗をした事があるだけに、イリスの状況をよく理解出来ていたのだ。二人は自分達に出来なかったことを責めるような狭い心の持ち主ではない。ロイは13歳の誕生日にアンドラスとの模擬戦を経験している。


「ありがとう!

 次はもっと冷静に行うよ」


イリスは二人の優しさに嬉しく思い、

そして次はもっと立ち回りを良くすると心に誓った。


「せっかくだから、あの戦いの反省点と改善点を話し合おうか?」


イリスとシルフィの二人は快諾する。ロイが自分の攻撃力の無さを反省点として挙げ、改善点として攻撃力の向上を目標にする。相応の技量があれば、通常の武器でも高い攻撃力が出せるし、魔力付与術エンチャント・ウェポンを使う分の魔力を別なことにも使えるのでロイの目標はパーティ全体の継戦能力の向上につながるものと云えよう。


シルフィ魔力量の不足を痛感して自分の魔力量の向上を目標として挙げた。氷槍陣フロスト・リベージョンを連続して撃つことが出来ていたならば、裂奇蟹リッパークラブとの戦いが楽に進められたからだ。イリスもシルフィと同じように魔力量の向上を目標にする。


「しかし、今回の件ではっきりしたな」


「はっきりしたとは?」


シルフィがロイの言葉の意味を真剣な瞳をして尋ねた。


「技量を上げないと準8級以上の依頼は無理だって事だ。

 ぎりぎりの依頼を受けて、

 そこで変異種と遭遇したら目も当てられない」


「確かにそうだねっ」


イリスがロイの言葉に即座に同意する。


初めての依頼で変異種と遭遇する事自体が極めて珍しいが、今回の件でロイは慎重に選ぶことの重要性を身を持って学んだと言えよう。


(良かった…

 変異種に勝った事で、みんなに下手な自信がつかなくて。

 無謀な依頼に挑戦するようになったら本末転倒だし。

 この事をリリシアが知ったら成長したって私と同じように喜ぶだろうな~)


シルフィはロイが技量に合った依頼を行っていく方針で固めたことを喜ぶ。同時にてリリシアから勇気と無謀が別もので、過信を戒めると云う教えを頑なに守ろうとする姿勢に安心感を覚える。


話が進み、反省会を終えて雑談に入ってからしばらくして女将さんの手によって夕食が運ばれてきた。


パンの次にテーブルに並んだのは、紫芋パターテ・ヴィオラの切り身に塩こしょうで下味を付けて小麦粉をまぶしてからフライパンで焼いた上に、白ワインとレモン汁入れて煮詰めたものだ。紫芋パターテ・ヴィオラは健康に良くて、美味なので食用として重宝されている。量も十分で食べ盛りの三人でも充分に満足行くものであった。


「美味そうだな」


「そういって貰えると嬉しいね。

 そういえばあの蟹は居なくなったんだろ?」


「居座っていた裂奇蟹リッパークラブは退治したよ」


「なら、今度うちに来たときには、

 スズキのグリルレモンソース焼きを食べておくれよ」


スズキは海岸近くや河川に生息する大型の肉食魚で、美味なので食用として重宝されている。ルゼア村は薬草の生産だけでなく、川魚の干物などの生産も行っていたので、その手のメニューは豊富だった。


「なるほど!

 次にきたときの楽しみにさせてもらおうかな」


「あいよ。

 何かあったら呼んで頂戴ね」


と、女将はそう言ってから厨房へと戻る。

ロイたちは会話を楽しみながら食事を始めたのだった。

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