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第三話 いや、正直ソレはないわぁ


「ただいまっと」


ぎゃぁぎゃあ騒いだ帰り道とは対称的に物静かなうちへ帰宅。

昔はうちも立派に名門だったらしいけど、いまでは道場だけが立派な家になってしまっている。

婆さんは先に向こうに逝っちゃってるし母さんもギャンブル好きな父さんに呆れて出て行った。

まぁ、だからどうだって訳でも無いけど肉親から異性との付き合いが皆無な僕はどうにもああいうのは疲れてしまう。物凄く緊張するんだよね、完全に金目的だと分かってると逆に対応も楽なんだけど。


「あぁ、道場いかないと。日本刀まだ綺麗だったっけ・・・?」


じつはメイドさんにも言われたが殺人術レベルの剣術の収得の為に帰ったらすぐに爺さんと真剣で稽古をつけることが日課になっている僕。

この真剣というのも自分で鍛えて身体に馴染みやすいように・・・とか言われて鉄の塊から僕が打った物で、正直滅茶苦茶傷みやすい上にすぐにボロボロになる。

爺さんの打った日本刀は全然刃零れもしないというのに・・・ぼかぁまだまだ未熟者ですよ、えぇ。


「・・・・あ、違う。そもそも今日は夜錬か」


今日はあの二人と漫才をしてたせいでいつもより遅れてしまったが、そういえば爺さんも表向きに道場で護身術の指導をする日だったことを思い出し、ぐったりと布団に身を預ける。

まだ爺さんも門下生の稽古つけてるところだろうし、一眠りしてからでも十分に間に合うだろう。

二人のテンションに引きずられて疲れたし・・・・少しだけ、お休みー。





就寝中の婿殿の部屋を突撃してみた。

理由は特に無い、ただ帰り道でわかれたと思ったら家に居る!?と言う古臭いドッキリをかましてやりたくなっただけで。

参加者は私と叶、そして婿殿の育ての親であり婿殿を私達に紹介してくれたお爺さまを交えた三人。

何の遠慮も無くドアを開けて中を覗きこむが、机に箪笥、ソレと布団(真横に無造作に日本刀)しかない殺風景な部屋が出迎えてくれた。

私のほうが驚かされたぞ。なんでこんなにも何も無いんだ、婿殿。


「・・・しかし、ぐっすり寝ているな。油断しすぎだろう、婿殿」

「コレでも最低限は鍛えておるよ、殺気を放てばすぐに起きようて」

「ふむ・・・爺殿、殺気を放たずに突っ込んだ場合はどうなる?」

「反射で撃退せんとも限らんが、まぁまだまだ未熟じゃ。お主なら問題は無い」

「いや、私ではなく・・・叶がな」


布団の上で丸くなって眠っている婿殿を見やり、隣に立ってぷるぷると震えている叶を見やる。

今にも飛び掛っていきそうな雰囲気をかもし出している為、先程自らつけた首輪を引っ張ってとめておく。流石に寝込みを襲うのは不味いからな、意識が有れば全責任を婿殿に押し付けられるが。


「・・・みっちゃん、ダメ?」

「ダメだ」

「・・・無防備でこんなに可愛いんだよ?」

「同意はするがダメだ」

「据え膳食わぬは女の恥です」

「据え膳でも無い上にソレは男だ」

「ぶっちゃけますと凄く襲ってしまいたいです」

「そういう本音はせめて爺殿から隠れていえ!」

「襲われる方が未熟なのが悪いんじゃ、構わんよ」

「お爺様、話が分かりますね!」

「爺殿、叶が調子付くことを不用意に言っては・・・!」

「みっちゃん・・・お爺様からの許可も出ましたから離してくださいよ~」

「離したらどうする?」

「今此処で旦那様と結ばれます」

「ダメだな」

「なんでですか~!!」

「・・・少・し・は・恥・ら・え!!」

「恥らってる間に取られたら後悔で死ぬよ、私死ねないけど!」

「全く・・・ハグとキスだけなら許可しよう」

「みっちゃん、ソレ生殺し!?」

「それ以上は本人から許可を取れ、そこまでは無許可でいいが」


「・・・お主ら、刀弥もそろそろ修練の時間じゃ、もめておったら勝手に起き出してきよるぞ」


「む、そうなのか・・・よし、叶。いそいで寝起きドッキリを敢行するぞ!

 キスとハグなら私も邪魔立てはしない」

「むー・・・今日は其処で妥協しましょう」

「ワシは先に道場におる、騒ぎがすんだら急ぎこちらに呼ぶようにな?」

「はーい」

「30分もあれば済む、終わり次第すぐにそちらに送り届けよう」


そのまま爺殿退場。

本当は・・・此処で居なくなられると叶が暴走した場合止めるのが大変なことになるのだが。

それともコレは爺殿的には最後までしてOKと言う意味なのだろうか。


「みっちゃん、はやくはやく!」

「叶、騒ぐと婿殿も起きるぞ」

「・・・ん、と」

「ほら、そっち側から布団に入れ。私はこっちからサンドイッチするから」

「みっちゃん背中で良いの?」

「叶が背中側ではキスできないだろう?」

「まぁ、そうだけど」

「後は、婿殿をからかうためだ」

「うん・・・?」

「いいから、早く抱きしめてやれ」

「はい、遠慮なく!」


叶がぎゅっとハグする寸前、婿殿の腕が布団の中から日本刀に向けて即座に伸ばされる。

予想されていなければそれで十二分に侵入者を撃退できただろうが・・・甘いぞ、婿殿。


「手を伸ばす位置まで計算済みだ。刀は既に移動済み、それに・・・」

「ぎゅぅーー!」

「っ・・・なんだ・・・敵か!?」

「叶です、旦那様!」

「おまけで私だ」


「ッ何処から入ってきたぁーー!!」


「普通に玄関からだ、爺殿から歓迎されたぞ」

「はい、襲っても良いと言われましたから・・・こうやってご一緒させていただきたく」

「僕が許可してない!!」


「・・・婿殿、爺殿から伝言だ」

「婿殿違う。んで、じーさんがなんて?」

「未熟者め、だそうだ」

「あのじじぃ!!叶さん、離れて!ちょっと叩きのめしに言ってくる!!」

「もう一つ言わなければ成らない事があるのだが」

「急いでるんだよ、なにさ!」

「寝ながらにしていきなり女の腕を掴んだ挙句、布団に引きずり込もうとするのは関心せんな」

「誰がいつそんなことしたかッ!」

「今現在進行形で婿殿が、だ。私は刀では無いよ、君」

「・・・・・は?」

「旦那様が握っているのは、みっちゃんの腕ですよ?」

「!? え、あ、いやコレは誤解だ!?政府の陰謀だ!M◎Rはどこにいる!!」

「叶が斬られぬ様に刀をどけて隣に寝転んでいたが・・・まさか此処まで積極的に求められるとは」

「ねぇよ!事故だ事故!僕の意志一片も入って無いよ!」

「旦那様ぁ~v」

「叶をくっつけたままという、なんとも説得力の無い説明をありがとう婿殿」

「叶さん、だから離れて!!」

「みっちゃん、あと何分ある・・・?」

「ふむ、15分程度かな。いけると言えばいける時間だろう」

「10分で十分です。人払いよろしくお願いしますね?」

「何の話をしてる!?」

「「何って・・・ナニですよ?」だな?」

「ハモるな!」

「きせーじじつは大切だと聞きましたから今日中に終わらせておこうと思いまして」

「頭の中でその文字が漢字で浮かぶようになってから出直してきなさい」

「既成事実って大事ですよね・・・?」

「相手の意見を尊重しろ、って言うか知ってるなら最初からちゃんと言え!!」

「では婿殿、私は終わるまで外に居るから終わったら声をかけるように」

「何も終わるような事はしない!断じて無い!!」

「聞こえるな、君の人生が終わる音が」

「終わる物が壮大すぎじゃないか!?何が有って終わるの、僕の人生」

「結婚は人生の墓場と言うだろう?」

「結婚を勧めておいてその言い方はあんまりじゃないか!?」

「後片付けは私が受け持つから安心したまえ。ではごゆっくり」

「放っておくな、助けろーー!!」

「男は自力で助かるものだよ。それに私は叶の幸せを優先する」

「叶さんが汚れるぞ、それでいいのかーー!」

「好きな男になら構うまい、婿殿が期待を裏切れば私が処刑するまでだ」

「こわっ!って言うか僕の方が処刑されるのか!!」


「じゃ、みっちゃんよろしくね!」

「安心して任せるといい、ただし次は私の番だぞ?」

「は~い、その時はSPメイドもつけるから私のことは気にしなくていいからね」

「男の部屋で変な相談するなーーー!!!」


・・・そう言ってメイドのみっちゃんはホントに出て言ってしまい、

僕は叶という名の肉食獣と一人で戦うことになってしまった。


「覚えてろよ、メイドのみっちゃぁぁーーーん!!」


そういえば僕、彼女の名前ちゃんと聞いて無いなぁ。

流石にただみっちゃんとは呼び辛いんだけど。





「いるんだろう爺殿?」

「ふむ、気付かれておったか」


部屋の外に出て廊下の先に声をかければ、爺殿の姿が現れる。

ちなみに中で行われてるであろう婿殿と叶の争いはこの際意識からシャットアウトさせてもらう。

他の所にも叶に伝えていないだけでSPは構えているしね。


「気付かずとも推測は出来る。

 叶だけであればともかく、私まで近くに居るまま貴方が此処を離れるわけが無いからな」

「・・・お主らも、中々大変な生き方をしているようじゃな。

 殺気は抑えておったつもりじゃが、失敗しておったか」

「強くならないと死にそうになる程度、少し大変って所さ。

 人の顔を見た途端に竦んでおいて殺気を抑えるも何も無いとは思うがね」

「・・・そうじゃな、お主の身体にはこの日本において少々、人の血の匂いが染み付き過ぎておった。

 そのことに驚いてしもうてな」

「あぁ、殆どは叶からの返り血だけれど私も一応はお嬢様。

 人質に取られても独力で殲滅するくらいの実力を持つ必要があったのさ」

「・・・ワシでも勝てぬほどにか?」

「見たところ、そうだな。叶に手を出さねば相手にもせんが・・・

 命を捨てる気であれば・・・刺し違えられぬことも無いと思うぞ、爺殿」

「ワシの方が格下か。しかも他にも手練がおるんじゃろう?主一人で警護になどつくまい」

「ソレは無論、けれど叶以外の守りは全て後回しだ。私が殺された所で見向きもせんさ」

「ワシにも孫にも危害を加えねば文句は言わん。殺人狂でも戦争屋でも無いのならば構わん。

 刀弥のためにも、鍛冶弟子のためにも余計な事はせんよ」

「今そのお孫さんが叶に襲われているが」

「そのくらい、あしらい切れんのならば食われてもしょうがあるまい」

「・・・話が分かるな、爺殿」

「叶のお嬢さんなら嫁に来ても、婿に取られても問題はないじゃろ。

 少し死に慣れておるのが玉に傷じゃが」

「私も隙を見て婿殿を頂くが」

「好きにせい、お主は叶のお嬢さんを裏切らんのじゃろ?」

「当然、婿殿に関しても私の立場としては妾となるだろう」


 「妾とか要らないから!!」

 「旦那様、暴れないで下さい・・・」

 「服を脱ぐな脱がすな入ってくるな!!」

 「胸元も逞しいですね・・・流石に運動している人は違います」

 「恥ずかしいから見るなーーー!!」


「うむ、妾となるだろうな」

「まるっきり中の叫びを無視しおったな」

「問題無い。続けるが、私としても叶の邪魔をしないのであれば危害を加える理由も無い」

「今刀弥は全力で叶お嬢さんから逃れようとしておるようじゃが」

「爺殿、昔の人は言いました」

「なんじゃ?」

「嫌よ嫌よも好きのうち」


 「そんなんじゃ無いんだってばーーー!!!」

 「時間がありませんから・・・動かないで下さい・・・!」

 「止めろシ◎ッカー!僕にはまだそういうことは早いってば」

 「なら天井の染みでも数えていてください、大丈夫ですよ。

  どっちも初めてでも痛いのは私だけです」

 「そういう事を言ってるんじゃない!!」


「・・・・・・爺殿」

「なんじゃね」

「叶は思い込みも強く、依存度も高い・・・今まさに扉越しのこういう嫁だが。

 コレからよろしく頼むことになる。刀弥殿だけでは危ういかも知れんからな」

「・・・なんのかんのと言うておるが、刀弥もそこそこ楽しそうじゃしな。

 よほどの事が無い限りはよろしくしておくわい」


中の騒ぎに一気に気勢をそがれ、半ば呆れ顔で老人と少女は顔を見合わせる。


「こんな二人ならそうは変なことにはならないと思うがね」

「唐突に上がりこんだ家で跡取りを抱くとは十二分に変じゃがなぁ」

「あぁそれ、叶にしてはまだマトモだから」

「少し先が思いやられるのぅ・・・」

「【向こう】の管理が無ければ私一人で全て片付けられるんだが、ね」

「向こう、とな?」

「ちょっとしたゲームの話さ、GMのサポートをしていてね」

「ふむ・・・よくは分からんが頑張るんじゃぞ」


刀弥と共に過ごしているとは言え流石にゲームは嗜まない老人は少し首を捻り、曖昧に応援し軽く流した。


「あぁ、そうそう。刀弥ー、今日の修練は中止にするからの。しっかり頑張るんじゃぞ~」

 「何を頑張れって言うんだジジィーーー!!!」

 「お爺様も応援してくれています、此処は一発しこんじゃいましょう!」

 「お嬢様がはしたないことを平気で叫ぶんじゃありません!」

「爺殿、直接叶に言うと朝までそのままの可能性も」

「刀弥次第じゃろ、其処は・・・流されるもよし。耐え切るもよし」

「大切にしている割には割りと放任なのか・・・」

「恋愛も上手く切り抜けてこそ一人前じゃよ、こういう始まりがあってももいいじゃろ」


 「見捨てんなジジィーーーー!!」

 「旦那様、私・・初めてですから」

 「そのままとっておきなさい!」

 「優しくしてくださいね?」



「 僕 の 平 穏 を 返 せ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ! ! !」



日も落ち切り、夜の闇に包まれた街に・・・刀弥の全力の叫びが木霊した。

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