はじまり
出勤するのが怠かった。
理由は、昨日大きな失敗をしたからだ。「石川ちょっとこい」案の定、朝から上司からの呼び出し……。
こいつは、いつまでしてる気だ?30分は喋ってやがる。
春の人事異動でこいつが本社からやってきた。前評判はよかった、仕事が出来るキレものだと。
俺もそう思ってた。確かに仕事は出来る。しかし、性格的に問題がある。傲慢、ワガママ、頑固、気分屋。その上、上司には異常なまでペコペコし恐ろしい程外面を気にする。
要するに俺はこいつが、大っ嫌いだ。
こいつのせいで胃を壊した事もある。
世の中にこいつと俺の2人しかいなくても、絶対に仲良くなれない自信がある。
たぶん、こいつも俺の事が嫌いだろう。目の敵されている。
回りの同僚からもそう見えるらしい。
まだ説教は、終わらない。
説教しながら、熱くなるタイプらしい。
元々、気は長い方ではない。我慢限界がある…。
もうダメだ…。
ブチ。何かが切れた気がした。
襟首をつかんで殴ろうとしたらしい。記憶がないのだ。寸前で同僚に止められたらしい。喧嘩が圧倒的に弱い俺がその行動にでたのだから、よほどの事だ。
覚えているのは、「お前はクビだ!ここから、消えろ!」の怒鳴り声。今思うと、おとなげないが、不良の学生の様に会社を出てきた。
やってしまった。
何故我慢できなかったのか?
謝りにいこうか?
無理だ、あいつの声を聞いたら、次こそ我慢できない。あのクソ野郎。このまま引き下がるのは、しゃくだ、いままでの溜まりに溜まった、この怒りをぶつけたい。復讐してやる。闇討ちしてやろうか?凶器を持てば俺だって何とか……。
ダメだ。無職の上に前科持ちになる。
無職?
そうだ、無職だ。
明日からどうしよう?
仕事も、探さなくては。
やはりここは、大人に成って土下座でもして許してもらおうか?
ダメだ!それくらいで許してくれる様な奴なら、そこまで嫌いにならなかっただろう…。
また、腹立ってきた。
そんな事を考えながら、あてもなく街をブラブラ歩いていたら、夜になっていた。
とりあえず、酒に走る事でやな事を全て忘れたかった。
行き着けのBARで強い酒を飲む事にした。
マスターは、中学生の時からの悪友、伸二。
今日の話を全てぶちまけた。平日のせいか客はいなかった。店を閉めて2人でとことん飲む事にした。
午前4時。まだ店のカウンターで飲んでいる。2人とも、かなり酔っていた、伸二は突然、「ところで復讐はするのか?」と聞いてきた。
忘れていたのに、やな事を思い出させやがって…。
また腹立ってきた。
…やってやる…。
酒のせいか。テンションは、最高長だ。今いけば殺すかもしれない。でも、自分が抑えきれない。決心がついた。行こう!奴を殴り倒しに、イスから起ち上がろうとした時に、伸二が話し始めた。
嫌がらせ屋の事を。
金を払えば代わりに嫌がらせをしでくれるらしい。しかも、金額に応じてより悪質なタチが悪い、嫌がらせを…。
嘘くさい。
人を煽っておいて。
くだらん。
まずこいつを殴ろうか?
落ち着け。こいつを殴ってどうする?
イスに深く腰掛けタバコに火を付けたときだった。マスターは、嫌がらせ屋の広告入りのポケットティッシュを出してきた。
…マジか?
都市伝説的な物だと思ってた。
住所、電話番号、御丁寧にメールアドレスまで入ってる。
嫌がらせ引き受けます