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53.『知らないこと 2』

 翌朝、ベアトリーチェを仲間に入れたマーセルたちは、アルガの街にたどり着いた。

「うーん、やっぱり馬車は寝心地悪いよ。やっと一息つける~。」

 あくびをしながら、マーサが馬車から出ていく。ベアトリーチェは布でしきられた馬車の荷台から顔を出し、着いた街の景色を眺めた。通りには早朝なのにたくさんの人が行きかっている。

「前の街より人が多いだろ?この街は南の特産品が一手に集まってくるのさ。」

「わぁ、活気がありますね。」

 王都には敵わなくとも、十分な賑わいだった。野菜を売っている露店の店主の声が大きく響き、道を行き交う人々が足をとめて商品を見ている。籠を持った女の人たちは何人かで集まり、道端で噂話に花を咲かす。

「朝市では野菜なんかの食糧なんかが多いけど、もう少ししたらいろんな店が出てくるよ。」

「へぇー、凄いですね。」

 ベアトリーチェの目には遠目からも鮮やかに光る果実の赤や野菜の緑が目に映った。大陸の西、フィラルド出身のベアトリーチェには見たことないものも多かった。

「ねぇねぇ、買い物いかない!買い物!」

 顔を洗って戻ってきたマーサが浮かれた表情言う。

「ん?まだ食料とかは不足してないだろう。」

 答えを返したマーセルの表情は、まだ起きたばかりで眠そうだ。声にも力が入ってない。朝は弱いのかもしれない。その返答を聞いてマーサがわかってないなぁという風に首を振り、口を尖らせて言い募る。

「そんなのじゃなくて、ショッピングよ!ショッピング!」

「ショッピングぅ?」

 ますますわからないと言った風にマーセルが眉を寄せる。

「そうそう、いろいろ市を見て好きなものを見たり買ったりして楽しむの。普段の食料を買い込むだけのあれは買い物なんていわないわ。補給よ、ただの補給!味もそっけもないじゃない!そんなのじゃなくて、楽しんで買い物するの!」

 手を振り上げ主張するマーサに、イレナも同意する。

「いいんじゃないかい?お金にも余裕あるし。」

「うーん、まあそうだな。」

 頭をかいて同意したマーセルに、マーサが飛び上がる。

「やったー!ベルも行こうね。結構、大きな街だから、珍しいものもあるかも。」

「う、うん。楽しみだね。」

 マーサの勢いに圧倒されながらも、ベルも頷く。遠目からみた市場には、見たことがないものがたくさんあり興味が惹かれた。

「それじゃあ、ルミとルモを起こさないとね。」

 そう言ってイレナは、まだ起きない双子の方へ向かった。


***


「わーい、買い物~買い物~。」

「買い物だー!」

 ルミとルモが嬉しそうに馬車のまわりを走り回る。

「まったくあいつらはガキだなぁ。せっかく街についたのに休めそうにないぜ。お互い大変だな。」

 マーセルはウッドにそう話しかけたが。

「俺、馬車の留守番をする…。」

 そう言ってウッドは馬車に戻っていく。

「なんだと!?てめぇ、一人だけ休憩するつもりか!待てっ!」

 慌てて追いかけようとしたマーセルの襟首をイレナが掴む。

「ほら、団長行くよ。」

「くそっ、俺も二度寝する!お前たちだけで行け!」

「何言ってんのさ。団長なら団員の面倒をみるもんだろ。」

「そうそう、早く行こうよ。」

 笑顔のマーサがマーセルの右腕を掴む。

「おっかいものー!おっかいものー!」

「行こうぜー!」

 双子がマーセルの両足を掴む。

「ちくしょう!はなせっ!俺は馬車の御者をやって疲れてるんだ!」

「ベルもこっちを掴んで!」

「へっ?」

「ほら、はやく。」

「う、うん!」

 マーサに言われてベアは思わずマーセルの左腕を掴んでしまう。

「お前までこいつらの味方する気か!」

「あ、ごめんなさい。」

 マーセルに睨みつけられ慌てて手を離そうとするが、マーサの声がそれを止める。

「離しちゃだめ!このまま引きずってくよ。」

「せーの!」

 ずるずるずる

 団員たちに各所を掴まれ、マーセルの体は市場のほうに運ばれていく。女子供だけなので力がたりず、地面にはマーセルが引きずられた後がつけられていく。

「おい、てめぇら、やめろ!」

 ベアトリーチェもちょっと頬から汗を流しながらも、マーサたちの協力する。体をなるべく上に持ち上げようとしてるのは、ベアトリーチェの思いやりだったが力がないのでまったく意味がなかった。

 そのまま団員たちは団長を市場へと引きずっていった。


***


 市場につれてこられたころには、さすがにマーセルも自分の足で歩いていた。顔は仏頂面だったが。

「くそぉ、好き勝手やりやがって。」

「ご、ごめんなさい。」

 ベアトリーチェは服についた土ぼこりを払ってあげる。

「お前もあいつらと一緒に引きずりやがって。」

「つい乗せられちゃって…。」

 顔を逸らし頬を掻くベアトリーチェに、マーセルは溜息をついた。

「はぁ、仕方ねぇなぁ…。もういいから、お前らもあいつらと一緒に何か買ってこい。」

 マーセルの視線の先には、ルミたちがいろんな露店を見て回っていた。日はずいぶんと上り、露店は野菜や果物だけでなく、装飾品や珍しい布なんかも増えていっている。マーサたちはそれを楽しげに見て回っている。

「はい。」

「あ、こらっ!」

 そう言って駆け出そうとしたベアトリーチェだが、腕を引っ張られ引き戻される。

「いきなり飛び出すな。あぶないだろ。」

 目の前を馬車が通り過ぎていった。

「案外おっちょこちょいなんだな。楽しむのはいいけど気をつけろよ。」

「ご、ごめんなさい。」

 確かに少し浮かれていたかも。見たことのない地方の品、市場にもこんなに自由に来たのは初めてだ。自分の気持ちは思いのほか浮き立っていた。

「しかし細いな。本当に18歳なのか?13歳ぐらいじゃないのか?」

「ほ、本当ですよ。」

 そんなに自分は幼く見えるのだろうか。

 マーセルの態度には悪意があるわけではなく、むしろ真剣に疑問に思っているようでベアトリーチェはちょっと落ち込みかけた。確かに王宮にいたころから小柄で童顔な容姿だと思っていたが、団員たちにルミたちより少し上程度だと想われたのは改めて考えてみるとショックだ。

 そんなにも自分は大人としての魅力に欠けていたとは…。

「はぁ、僕ってそんなに幼く見えますかね…。」

「あ…。ま、まあそのうち大きくなるさ。」

 暗く沈んでしまったベアトリーチェに、さすがにマーセルも悪いことを言ってしまったと思ったらしい。慰めの言葉をかける。

「おーい、ベル、マーセル、おいてっちまうよー!」

「むしろ俺はおいて言って欲しかったんだよ!」

 二人がついてこないのに気づいて、マーサが遠くから声をかける。マーセルは怒鳴りかえす。

 それからはベアトリーチェは5人と一緒に市場を見て回った。ルミ、マーサ、イレナの女性陣は服や布などを見てまわり、今、装飾品の露店で足を止めていた。

「ねぇねぇ、これどうかなぁ?」

「いいんじゃねぇの。」

 髪飾りをつけて聞いてくるマーサに、ルモがおざなりに答える。

「全然見てないでしょう。」

「良く分かったな。その通りだ。」

 かれこれ1刻は同じ露店に留まっている女たちに、マーセルたちは適当な態度を隠さない。むしろ、つかれた表情で隠す余裕すらない感じだ。

「もう~。役に立たないんだから。ベルはどう思う?」

「うーん、その服ならこっちのほうがいいんじゃないかな。」

 ベアトリーチェは蝶の模様が彫られた髪飾りをマーサに渡す。

「ん、どれどれ。あっ、確かにいいかも!」

「うん、マーサに良く似合ってるね。」

 ベルの選んだ髪飾りは、マーサの赤い髪とよく合っていた。

「これにしよっかな!これください!」

「はい、まいどありがとうね。」

 買うのを決めたマーサはポケットから銅貨を取り出し店主へと渡す。

「えへへ、このまま着けちゃおう。」

「ベルはセンスがいいね。マーセルたちと大違いだよ。」

「ほっとけ…。」 

 ベアトリーチェの選んだ髪飾りを気に入ったらしく、そのまま頭に着ける。マーセルは地面にこのまま座り込んでしまいたそうな表情だ。

 男装しているから自分のを選ぶことはできないが、他の娘が着けるものを選ぶのも十分に楽しい。そんなベアトリーチェは、上着の裾がくいくいと引っ張られるのを感じた。下を向くと、顔を輝かせたルミがいる。

「ねぇねぇ、ベル、私のも選んで!」

「うん、いいよ。」

 可愛らしくお願いするルミにベアトリーチェは微笑みを返した。商品の中からルミに似合いそうなのを探す。ルミとルモはお小遣いをもらっていた。それに十分足りる中で、ルミに似合いそうなものは…。

「これなんてどう?」

 ピンクのりぼんが着いた髪飾り。

「うん、それにする。」

 ルミはそれが気に入ったようで、頬を紅くさせ笑顔で頷く。

「えへへ~。」

 買ったばかりのリボンの飾りをつけてルミも微笑む。マーサたちは満足したのか笑顔で露店を後にした。

 それについていくベアトリーチェは両肩をぽんっと叩かれる。振り向くと疲れた顔をしたマーセルとルモがいた。

「よくやった、ベル。」

「お前のおかげで助かったぜ…。」

 2刻ほどは続く女たちの装飾品の買い物を普段の半分で終わらせたベアトリーチェの快挙だが、当の本人はよくわからず首をかしげただけだった。

6月13日まで更新停止します。ごめんなさい。

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