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46.『青空』

 王都とはいえ、深夜の道は寂しい。ベアトリーチェは人通りのない道をコツコツと歩いた。夜風に吹かれ短くなった蜂蜜色の髪が少しだけ風に舞う。

 遠目にうつるのはまだ明かりの残る歓楽街。そこからどんどん逸れていくように、ベアトリーチェは歩みを進めていく。

 たぶん出て行ったことをすぐに気付かれはしないだろう。でも、なるべくはやく王都から出て行かなければいけない。どこに行くと決めたわけではない。それでも、ここにはいられないと思ったから。

 ベアトリーチェの足は遅い方ではない。それでも小柄なので、その歩みは小さい。

 夜空の色は変わらず墨を流した黒のままだが、それでもまたたく星の動きが時の経過を知らせる。

 ベアトリーチェは少し足をはやめた。

 冬夜の空気はしんと張りつめ、吐く息を白く染める。それは足を踏み出すと共に背中へながれ、幻雲のように溶けていく。

 規則正しく繰り返される呼吸が、あたたかな心音と共に音を刻む。

 ベアトリーチェの心は絶望に染められていても、死を選ぶことは無かった。その体は生の鼓動を刻み続けている。

 未来は見えない、何をすべきかも分からない。ここにいることができない。ただそれだけ。それでも小さな歩みは、一歩ずつどこかへと進みはじめている。

 まばらにあった人の気配もだんだんと消えていき、静かに眠る街がベアトリーチェの横を通り過ぎていく。

 身をすくめる寒さも、足を動かす熱で取り払われた。

 俯いた琥珀の瞳が見つめるのは、夜闇の霧のほんのわずか先。

 たたらむことは無かった。何か残る想いも、今はすべて胸に収まっていた。

 冷たい風が街中を吹き抜けてもベアトリーチェは足を止めず、歩み続ける。

 チュンチュン

 ふと鳥の声が聞こえてきた。

 ベアトリーチェはわずかに顔を上げ、王都を覆っていた薄闇が少しずつ晴れているのに気付いた。街の景色もまばらに変わり、その先にはどこか永く続く道が見える。

 見上げた空は飛びかう小鳥たちの背中で藍色に模様を変えていた。夜闇は晴れ、遠くから白い光が差しかかっている。夜の空は、青空へと変わっていた。

 足を止めていたベアトリーチェは、一歩、歩みを進めた。

 小さな体が街の景色から抜け出すように、一歩だけ外に出た。

 その歩みを切らさないように、左足がまた一歩でる。そのまま足を交互に動かし、道を進んでいく。

 ベアトリーチェは歩き出した。青空の向こうへと。

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