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43.『愚か 2』

 国家が新たなる体制を得て、落ち着きをはじめたころアーサーはベアトリーチェの問題を突き付けられた。いやずっと前から自覚はしていた。しかし考えないようにしていたのだ。

 ベアトリーチェは自分を恨んでいるだろうか。

 自分は過去の約束を守れなかった。それどころか正妃に迎えるという話を、直前に反故にして彼女を王族として恥をかかせた。そして他の王のもとへ嫁いで幸せになる権利のあった彼女を、最下級、しかも例外の側妃として後宮に閉じ込めた。

 いても立ってもいられなくなったアーサーは後宮を訪れた。

 廊下を歩いていたアーサーは、ベアトリーチェと会う。アーサーは驚いた。王の訪れは侍女たちにより側妃へ伝えられ、側妃たちは部屋の中で王の訪れを待つことが普通だった。

「お久しぶりです、陛下。」

 そう挨拶をされ、アーサーの心に痛みとともに暗い感情がほとばしる。もうアーサーとは呼んでくれないのか。

 ベアトリーチェの格好はまったく着飾る様子も無く、自分を歓迎しているようには見えなかった。それどころか、自分がベアトリーチェの部屋に訪れても会わなくてすむようにで何処かに逃げ出そうとしていたのかもしれない。

「服が乱れているな。側妃にふさわしい格好をせよ。」

 それは悔し紛れの言葉だった。

 そのままベアトリーチェを見ずに、近くにあった第二妃の部屋に入る。

 第二妃やその侍女たちの甲高い会話を聞きながら、アーサーの心は暗く沈んでいた。ベアトリーチェの信頼を失った。そのことが心に暗い澱を生み出しはじめていた。

 アーサーは未だその感情の根源にあるのが何か、本当はどうすべきなのか気付けなかった。


***


 国の安定のため王と王妃の子をなさなければならない。それは義務だった。

 レティシアは聡い少女で、一緒に過ごすことに苦痛はなかった。ベアトリーチェと長く一緒に過ごしていたせいだろうか。どこか彼女の残り香がした。

 だがお互い王と王妃として仮面を被り接し、その間に信頼が生まれることは無かった。

 後宮に行く気はおきなかった。ベアトリーチェのよそよそしい態度を見てから。

 それでも思い出したように焦燥感にかられ、ふと後宮を訪れる。ベアトリーチェに出会えるのはたまにであり、服装はましになったものの彼女との間にあるぎこちなさは変わらなかった。

 レティシアが秘密裏に演奏会を開くという報告を聞いても、アーサーはさほど興味は無かった。レンディ侯爵は好色な男だが、王妃に手をだすほど馬鹿ではあるまい。

 偶然、部屋の前を通りかかったとき、聞こえてきた声にアーサーの心臓は凍りついた。小さい声ながら笑っているのは、ベアトリーチェの声だった。

 感情に突き動かされるように扉を開ける。

 まだベアトリーチェはレティシアと二人っきりで、レンディ侯爵の姿は見えなかった。わずかに安堵しながらも暗い感情は止まらない。

「何故こんなとこにいる、ベアトリーチェ。」

 さっきまで笑っていたはずのベアトリーチェの顔は、暗くこちらを恐れるように見ている。その表情に心が掻き毟られる。

 彼女は後宮に閉じ込められているのだ。活発な彼女にとって、それは苦痛だったのかもしれない。少しぐらいなら、外に出してやるべきなのかもしれない。

 頭ではわかっているものの、心はそれを拒絶する。もし、レンディ侯爵のような好色な男たちに目をつけられたらどうする。そのような男たちがベアトリーチェの下賜をたまわってきたとしたら。あまつさえ、ベアトリーチェもそれを望んだりしたら。

 そんなこと考えられなかった。

「もうよい。今すぐ後宮に戻れ。それで不問とする。」

 レティシアの手を握り、彼女をベアトリーチェから遠ざける。彼女の存在は危険だった。ベアトリーチェを後宮の外につなげる存在になりうる。そんなことが続けば、彼女を見初める誰かが表われるかもしれない。

 本当はベアトリーチェの手を握り、彼女を後宮に戻し閉じ込めてしまいたかった。

 しかし彼女の自分を恐ろしげに見つめる瞳を見れば、その勇気すら湧いてこなかった。

 そうしてアーサーは少しずつベアトリーチェの現状と、彼女への想いから目を逸らし始めた。



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