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41.『結末』

 日暮れの鳥の鳴き声を聞いて、ベアトリーチェは目を覚ました。

 あれから一週間の時が経った。砦にて発見された後、王宮の女医からさまざまな治療を受けた。怪我は大したことなかった。妊娠することがないように施術もほどこしてくれたらしい。ただ、薬の影響で4日間はベッドから動くことができなかった。

 その間の看病は、レティシアに頼まれたフラウとカーラがしてくれた。しかし大きな事件だっただけに、レティシアは膨大な事後処理に追われるようになり、ベアトリーチェが動けるようになると、フラウとカーラはベアトリーチェが深刻すぎると思う程、すまなそうな顔をしながらレティシアの元へと戻った。二人にはとても感謝していたし、動けるようになったのだから元の生活に戻らなければならない。そう思ったベアトリーチェはお礼を言って、彼女たちを見送った。

 ベアトリーチェはベッドから立ち上がる。しばらくベッドの上の生活だったので、そろそろ服を洗濯しなければ、着るものが無くなってしまう。

 扉を開け、廊下に出る。

 歩くベアトリーチェを見て、侍女たちがひそひそと噂を交わす。

 それは王都で流れる新たな噂だった。カルザスと不義を交わしていた。カルザスの愛人で計画の味方をしていた。計画が失敗し、被害者のふりをしてうまく逃れた。などだ。

 レティシアは必死に誰にもあの光景を見せまいとしたようだが、何人かの騎士が目撃しそれが外部に漏れこういう噂になったらしい。

 フラウとカーラは気を遣い、噂を遮断しようとしていたようだが、それはすぐに耳に入ってきた。

 不思議と心は痛まなかった。もう慣れてしまったのだろうか。

 ただ重臣会議でベアトリーチェを側妃から廃妃するように議題が上っているらしいことは、少し気にかかった。

(私は追い出されるのだろうか…。)

 一度も王からの渡りがないまま、あんなことになったのだから当然のことなのかもしれない。あの時以来、アーサーさまの姿は見ていない。

 廃妃されたらもう二度と会うこともないのだろうか。

 まだ動かない頭で考えていたベアトリーチェは、自分がいつの間にか水場とは別の方向へ歩いていることに気付いた。

 振り返ったベアトリーチェの目に映ったのは、あの人の姿だった。

(アーサー…さま…。)

 綺麗な金色の髪はぼさぼさになり、目元には疲労の色も濃い。それでもその美しさは変わらない。

 ベアトリーチェの驚きに見開かれた目が、翡翠の瞳と会う。

 邂逅は一瞬だった。

 アーサーはすぐに顔を逸らし、そのまま何も言葉をかけず、ベアトリーチェの前から去っていった。

 それでもベアトリーチェは見た。自分を見たアーサーさまの瞳が、驚きに見開かれた目が次の瞬間歪んだことを。その視線に冷たい光が宿っていたのを。

 後宮に入ってからよそよそしい態度でも、アーサーさまはいつも声をかけてくれた。それすらも、もうない…。

 嫌われたのだ…。声すらかけて貰えぬほどに。

 アーサーさまに嫌われた。それがこの三年間でベアトリーチェが得た結末だった。

 ズキッ

 胸に痛みが走る。それは瞬時に激痛へと変わり、ベアトリーチェの胸を引き絞っていく。

 心がばらばらになりそうだった。

 そして気付く。最初から痛かったのだ。今までもずっと。あの悪夢の時間からもう心はずたずたに切り裂かれていた。ただ、麻痺していた。あまりの痛みに、心が壊れそうで。

 激痛はベアトリーチェを苛み続ける。ベアトリーチェはただその場に立ち尽くした。

 涙は出なかった。心だけ、ただ泣き叫んでいた。

 絶望したとき、悲しいとき、アーサーさまの笑顔が勇気をくれた。

 アーサーさまの笑顔を思い出せば、どんなに辛いときもがんばることが出来た。

 なのに、もうあの人の笑顔が思い出せない。

 ベアトリーチェは後宮を出ていくことにした。


***


 新月の夜、一人の少女が後宮から出てきた。

 少女は立ち上がり、一度だけ王宮を振り返ると、夜の闇の中へと消えて行った。


 ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。

 自分でもこれだけの後宮編が分量にはなると思わず、書いたことを後悔するときもありました。

 それでも読者さんに励まされ、ここまで書くことができました。


 次は旅立ちの前に、アーサーの視点で少し話を書かせて頂きます。

アーサーの名誉が回復されるような話ではありません。むしろ馬鹿さ加減に怒りが増すかもしれません。

 なんでこんな男にベアトリーチェが惚れてるかについては、旅立ち後の話の折り返しの時点で書くつもりです。


 

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