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4.『あなたのそばに 1』

 装いを整え終え、レティシアにお茶をいれてもらい雑談をはじめてからしばらく経った頃、王の使いがベアトリーチェたちを呼びに来た。

「ベアトリーチェさま、会談が終わりましたので陛下の命によりお迎えに上がりました。準備はよろしいでしょうか。」

 深々と礼をして、王の伝言を伝える文官らしき青年に、ベアトリーチェは笑顔で答える。

「お迎えありがとうございます。準備はできています。早速参りましょう。」

 二人は立ち上がると、迎えに来た青年の後をついていく。

 本来なら国に妃が来れば、パーティーなどを開き盛大な歓迎の催しが開かれるのだが、そういうのが苦手なベアトリーチェのことを知るアーサーからの配慮で、城のものだけの歓迎が行われた。

 王に会うのもパーティーでみんなの前で顔を合わせるのがほとんどなのだが、ベアトリーチェは大き目の客間で王とその側近、王と特に近しい貴族とだけ会う予定だった。

 青年がひとつの扉の前で立ち止まる。

「ベアトリーチェさまをお連れしました。」

 扉をノックし声をかけると、返事が返ってくる。

「わかった。入ってくれ。」

 その声を聞いてどきっとする。5年ぶりだがわかる。アーサーさまの声だ。

 自然と手に力が篭る。心臓がきゅーっとなり、腕から冷汗がでてくる。肩はがちがちだ。5年ぶりの大好きな人との再会。ベアトリーチェはどうしようもなく緊張してしまう。

 ベアトリーチェはちらっと、レティシアのほうを見た。

 レティシアもベアトリーチェをしっかりと見つめていた。お互いの瞳が交差する。レティシアは真剣なまなざしのまま、目元をやわらかくしこくりと頷く。

(大丈夫ですよ。)

 レティの声が聞こえた気がした。

 肩から力が抜け、固まっていた息が口からゆるやかに出て行く。

 ベアトリーチェはもう一度空気を吸い込み大きく深呼吸すると、その顔に微笑みの色をのせた。レティシアが微笑んでくれたのを隣で感じる。

「では、ご案内します。」

 ベアトリーチェの準備が出来たことを察したらしい青年が、横に控えるようにして扉を開けていく。部屋の中の景色が、ベアトリーチェの目に映し出されていく。

 部屋を彩る壁の白、絨毯の赤、ソファーの藍色、豪華な家具の木目の茶、飾られた絵画の印象的な橙、縁を飾る輝く金、窓の向こうの夜の深い黒、でもベアトリーチェの目にとまったのはひとつの色しかなかった。

 5年前と変わらぬ色彩をたたえ自分を見つめる優しい緑。美しい翡翠の色を宿したアーサーさまの瞳。

 ベアトリーチェの唇がぱくぱくと何かを言葉にだしかけた。レティシアの目には、アーサーさまと言った様に見えた。目じりにほんの僅かだが涙がうかんでいる。ぱちぱちと感動をこらえる瞬きをすと、彼女の大きな茶色の目が部屋の明かりを反射して輝きだす。

 ベアトリーチェは駆け出し、抱きつきたくなる衝動をぐっと堪えた。

 足音を立てぬよう優雅に一歩、部屋へ足を踏み入れると、スカートを両手でつかみ何度も何度もこの日のために練習した礼をする。

「お久しぶりです。お会いできてうれしゅうございます、陛下。」

 深々と礼をして顔を上げると、あの人は微笑みが目の前にあった。

「久しいな、ベア。長旅で疲れただろう。すぐ休むか?」

 優しい言葉に子供のころ、優しく頭を撫でてもらったことを思い出す。今は曲がりなりにも公の場であるのでそんなことはして貰えないが、自分の髪を撫でてくれる大きく優しい手の感触をベアトリーチェは確かに感じていた。

「いいえ、大丈夫です。陛下の方こそ政務でお疲れでしょうに、このような場を設けてくださって申し訳ありません。陛下のご厚意に深く感謝します。」

 5年ぶりに再会したアーサーさまは、昔の記憶よりも幾分大人びた顔立ちになられていた。はじめてお会いしたときは女性かと勘違いしてしまった綺麗な顔立ちをされていたが、

相変わらず美しいことに変わりはないが、その出会いから8年が経ち、顔から幼さが抜け今は女性と間違われることはないだろう。

 背も伸びたようだ。お別れしたとき成長期はほとんど終わられていたはずだが、発育があまり良くないとはいえ別れたあとで人生一番の成長期を迎えたはずの自分と身長差はあまり縮まっていない。ちょっとため息をつきたくなった。

 輝く黄金の髪と翡翠の瞳を持つ、大陸でも有数の美丈夫の王。ベアトリーチェは大好きなアーサーさまの容姿が嫌いなわけではなかったが、自分のつりあいの取れない容姿やライバルの多さを考えると、もう少しなんとかならなかったのかとどちらに対してか自分でもわからぬまま思ってしまうことがあった。5年ぶりに再会した愛しい人は、美しさは変わらぬまま大人としての魅力を獲得していて、ベアトリーチェのその悩みはさらに深くなりそうだった。

「気にするな。それと陛下ではなくアーサーと呼べ。お前に陛下と呼ばれるとなんだかくすぐったくてかなわん。」

 照れたような笑顔で冗談めかしたように言う。その言葉にベアトリーチェは― 子供扱いされてるのかしら。―と不安な感情も浮かんできたが、それこそが自分とアーサーさまを繋ぐ絆でもあったから不満はない。レティも大人になった印象を与えましょうとは言ったが、子供のころの繋がりを捨てろとはいっていない。それはレティシアがベアトリーチェの頭の上に置いた紫の花も主張していた。

「はい、ではアーサーさま。此度のお申し出とても嬉しゅうございました。わが身に余る光栄ですが、精一杯アーサーさまの妃としてふさわしくあるようこれから努力していきます。」

 優雅な笑顔で上品に受け答えするベアトリーチェを見て、顎に手をやりアーサーはちょっと困ったような優しい笑いをする。

「ふ~む、5年しか経ってないはずなんだが。子供だと思っていたベアも今や立派なレディなのだな。」

 立派なレディ、恋心を抱く人に言われたその言葉は、ベアトリーチェの胸に喜びと少しの誇らしさを与えてくれる。

 ベアトリーチェは背筋をいっそうぴんと伸ばし、アーサーの顔を朱の差した顔で見上げる。

「そうです。5年も経ちましたのよ。見違えられましたか?」

 ふふっ、と笑ったベアトリーチェの顔は、どこか幼い。せっかく被ったレディの仮面がわずかにはがれてしまっていた。そんなベアトリーチェにアーサーはふきだしてしまう。

「ほめられると調子にのるところは、子供のころと変わらんな。」

 アーサーのからかうような表情に、自分の失態に気づいたベアトリーチェは思わず眉間に皺を寄せてしまう。

「アーサーさまも相変わらず意地悪です。」

 頬を膨らませむくれた可愛らしい表情に思わず破顔してしまいそうになる。

 しかし、今は二人っきりで話続けていい場ではない。今は控えてもらっているが、位の高い貴族や側近も呼んでいる。ベアトーチェは彼らにも顔見せしなければいけない。

「ふむ、元気そうでなによりだ。このまま呼んだ貴族や私の側近と挨拶してもらおうと思うのだが大丈夫か?」

「はい、大丈夫でございます。」

 ベアトリーチェはアーサーの問いかけに頷く。レティシアが何気なく一歩近づき、髪を整えなおしてくれる。

「そうか、では入ってくれ。」

 王の言葉とともに向かいの扉が開かれ、5人ほどの年齢がばらばらの男性が入ってくる。2人は王と同じ年齢ぐらいの若い男、2人は初老にさしかかるぐらいの男性、残り一人は王より年上とわかる中年ぐらいの男だった。

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