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27.『花は散り 3』

 アーサーの誕生日、レティシアはパーティーの会場で各国の要人と挨拶をしていた。会う人皆がレティシアの美しさに賛辞を述べる。

 レティシアの心とは裏腹に、あの歌はレティシアを各国の女性の憧れの存在に仕立て上げた。少女たちはレティシアを物語の姫を見るような憧憬の瞳で見る。その人気にあやかろうと、男たちまで今話題の貧民の出の王妃に群がる。

 いくら彼らにベアトリーチェさまはそんな人ではないのだ。自分の恩人なのだと言っても、誰もがそれを信じようとはしない。こんな悪意と好奇しか持たない人の間で、ベアトリーチェさまは無事に過ごせているのだろうか。

 心配なのに悪い噂一つ払拭することのできない自分に溜息がでる。

「レティシアさま、おつかれでいらっしゃいますか?」

 いつの間にか隣に来ていた宰相が、ため息をつくレティシアに声をかける。

「はい、少し。思いのほかたくさんの人がいらっしゃったので。」

「陛下の人気もとともと高かったのですが、レティシアさまが王妃になられてからは二人の人気は鰻登りです。陛下の生誕パーティーにもかなりの数の招待状を配ったのですが、ほとんどの国から足りないと言われてしまいました。」

 王室の人気はそのまま国力につながる。宰相の顔は誇らしげだった。

 レティシアはその言葉にも素直に喜べず、困ったように微笑むしかなかった。

「しかしたくさんの方に囲まれてお疲れでしょう。一通り主な人との挨拶はすんだようですし、ご休憩されてはどうですかな?」

「そうですね。では、お言葉に甘えて。」

 宰相が合図をすると、いつも自分に仕えてくれている侍女がやってきた。

「レティシアさま、こちらへ。」

 そのまま休憩室まで案内してくれると思ったのだが、連れてこられたのは別の場所だった。

「ここは…。」

 ベアトリーチェさまと会うために何度か通った後宮の門。何故こんな場所に。

「まあまあ、中にお入りください。」

 侍女は楽しげな笑顔を浮かべ、自分を引っ張る。

 案内されたのは後宮の薔薇園だった。そこには、普段は無い敷き布とテーブルが用意されている。テーブルの上には入れたばかりの紅茶やお菓子があった。

 そして。

「アーサーさま…。」

 何故か同じように側近に手を引かれやってきたアーサーさまの姿があった。

 驚いて呟くレティシアに、侍女はいたずらっぽく笑う。

「アーサーさまの生誕祭には、後宮の側妃たちもみんな出払ってしまうので穴場になるんですよ。ここならごゆっくりお過ごしになれます。もちろんアーサーさまと二人っきりで。」

 そう言って侍女は何かの包みを渡す。

「アーサーさまへのプレゼントです。侍女のみんなで精一杯準備させて頂きました。私たちも離れて待機しておくので御用のときはお呼びください。」

 包みを受け取ったレティシアは、アーサーの傍まで侍女につれていかれる。

「おはようございます。アーサーさま。」

 パーティーの前にも一度会っているのだが、再び挨拶する。

「レティシアか。いきなり連れてこられてびっくりしたぞ。」

「実は私も侍女に連れてこられてしまってびっくりしてしまいました。」

「お前の侍女たちと私の側近が連絡を取っていたらしいからな。何をしているのかと思えば…。」

 少し溜息を尽くと、アーサーはレティシアの手の中のものに目を向けた。

「それは?」

「これは、陛下の誕生日プレゼントです。」

 それは何かの花束のようだった。

 渡そうと包みを開いたレティシアの目に鮮やかな紫の色彩が飛び込む。

「カンティアの花か…。」

 中のものを見たときレティシアは固まった。それはベアトリーチェさまとアーサーさまの思い出の花。でも違う。本来のカンティアはもっと素朴で小さく綺麗な花。でもこれは観賞用に改良されたのか、派手で大きな紫の花をつけていた。

 侍女たちがアーサーの乳母からの情報により用意したのはカンティアの花のプレゼントだった。野の花では陛下へのプレゼントに適さないと考え、わざわざ遠国から観賞用に改良されたものを取り寄せたのだ。

 形は少し違う、でも確かに大切な人が持つ思い出の花と同じ花。それをプレゼントとして用意してしまったことに、レティシアの頭は真っ白になる。

 アーサーはその花を懐かしむように見つめると、レティシアに近づき花束を受け取ろうとする。

 その時、レティシアの瞳に二人を茫然と見つめるベアトリーチェの姿が映った。

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