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22.『魔女 2』

 レティシアの心配をよそに、その歌のことはベアトリーチェの耳にまで届いていた。

 噂好きの侍女たちはいつもは無視するベアトリーチェに珍しく話しかけると、その話を嬉々として本人に聞かせたのだ。ベアトリーチェは表面上は平静を保ったものの、侍女たちの姿が消えると部屋に駆け込み泣いた。

 違う!私とレティシアは親友なのだ。大切な一番の友達なのだ。いじめたり憎しみあったりなんかしてない。今は離れていても、仲が良くて、いつでも自分を思いやってくれて、長い時間を共にすごし、一緒に笑いあった。

 そんな二人の仲を、勝手に酷いものとして扱われたことが悲しかった。

 でも、私は身勝手な嫉妬からレティシアにうまく接することができないでいる。自分の想い人から愛されている彼女を羨み、壁を作ってしまった。

 自分はレティシアの親友たる資格がないのかもしれない。だから、こんな歌まで作られたのかもしれない。

 ベアトリーチェの心は闇夜を彷徨ったまま、いつの間にか意識を失い朝を迎えた。


***


 ベアトリーチェとレティシアは久しぶりに二人で会った。

 ベアトリーチェは再会したレティシアの疲れた様子に驚いた。

 レティシアはあの歌をどうにか止めさせたくてさまざまなことをしていた。だが、いくら自分とベアトリーチェさまは仲が良いのだと言っても、「レティさまはお優しいのですね。お庇いになるなんて。」とあのものがたりが真実であるかのように自分を見てくる。

 ベアトリーチェと本当に仲が良いことを証明しようとしても、ベアトリーチェは後宮から出られない。アーサーさまにもお願いしたが、「ただの民の噂だ。」として聞き入れてもらえなかった。

 せめてもの抵抗は王妃を讃える歌を、王妃自身が聞かないことだが、そんなレティシアの態度を気にすることなく、歌は貴族たちの間にまで流行りだした。

「レティ、顔色悪いよ。大丈夫?王妃の仕事がいそがしいの?」

 ベアトリーチェの心配した声に、レティシアは笑顔で答える。せめてあの歌がこの方の心の平穏を乱すことがないよう祈りながら。

「ええ、少し。でも心配するほどではないので大丈夫です。」

 だが、ベアトリーチェはその笑顔に別のものを見た。

 レティシアがベアトリーチェの侍女になって2年ほど経ったころ、その美しさと優秀さでレティシアは他の王族や貴族たちからも自分のものにと望まれる侍女になった。だが、レティシアはその誘いすべてを断りベアトリーチェの下に居続けた。

 自分たちの誘いを断り続けるレティシアに業を煮やした貴族たちは、嫌がらせをはじめた。その嫌がらせの対象には、レティシアの主人であるベアトリーチェも入っていた。

 でもレティシアはベアトリーチェに気づかせまいと、その嫌がらせを一身で受け続けたのだ。そしてベアトリーチェを心配させまいと、彼女のまえでは微笑んでいた。

 そのときの笑顔が、ベアトリーチェの記憶を過ぎった。

「もしかして私のせい?あの歌のことで?」

 レティシアの顔色が変わる。それがベアトリーチェの疑念を確信へと変える。

「そうなんだ…。ごめんね…。わたしのせいで。」

 一番知られて欲しくなかった相手にあの歌が伝わってしまっていることに、レティシアの胸はキリキリと痛む。

「ビーチェさまのせいではありません!必ずあの歌はやめさせてみせます…。もしものときは王妃の権力を使って禁止してしまえば。」

「やめて!」

 レティシアの言葉に、ベアトリーチェは顔色を変える。

 後宮でもレティシアの評判は聞こえてきていた。賢く有能で優しく美しい王妃。後宮で別の側妃に仕える侍女たちにもレティシアのファンは多く、外交や内政で活躍している噂を耳にするたびベアトリーチェは嬉しくなった。

 アーサーさまとの仲睦まじい噂を聞くたびに胸は痛むけど、自分の親友がこんなに素晴らしい人間なんだとみんなに評価されることが嬉しいと思った。

「大丈夫だよ。ただの噂だから、そのうち収まると思う。レティもこんなこと気にしないで。無茶なことをしようとしたりしないで。」

 だからこんなことでみんなに嫌われる危険を犯して欲しくなかった。

「でも、私は…。私は…。」

「絶対に権力を使って止めたりするのはやめて。自然に落ち着くのを待ちましょ?私は大丈夫だから。」

 彼女がみんなに愛される王妃でいて欲しいと思った。

「レティ、お願い。この問題にはもう関わらないで。」

 そうお願いしてベアトリーチェはレティシアと別れた。


***


 エルサティーナで流行ったその歌は、一ヶ月経っても収まることはなかった。

 王妃レティシアの評判と共に、周辺諸国まで広がり国民的な歌となっていった。その歌が王や王妃の元では決して歌われないことを誰も気にすることは無く、誰もが素晴らしい王妃の物語を愛するようになった。

 創作として作られたはずの詩の内容は、いつの間にか真実であるかのように語られはじめる。

 ベアトリーチェが側妃として冷遇されていること、王の訪れを一度も受けたことがないことはその噂に真実味を与えた。

 優しく美しく王に愛され見出された王妃レティシアと、彼女をいじめその罰として王により後宮に閉じ込められた醜い魔女ベアトリーチェとして。 

活動報告にて今後の展開について決めるアンケートを行おうと思います。

楽しいアンケートではなく、重い内容を決めるものでネタバレになり不快な気分になるかもしれません。

それでも良いという方はご協力ください。


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