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11.『結婚式』

 青空の下、優しい光があたりを照らしている。

 この日のために飾りつけられた城は、いつも以上の優美さで日の光の下輝いていた。

 今日はエルサティーナの王が、ついに正妃を迎えるための結婚式の日だった。城の中央広場は白い布で飾り付けられ、綺麗な花々がそこに色を添えていた。

 城の外には市民が詰め寄り、歓声がここまで聞こえてくる。

 式場では国中の貴族たちが居並び、今日結婚式をあげる二人を今か今かと待っていた。

 その中にベアトリーチェもいた。

 カシミール公爵から話を聞いたあと、ベアトリーチェは結婚式が行われるまで客室に滞在するよう言われた。第八妃となるまでは、フィラルド王国からの客人として扱われる。しかし、外出は許されなかった。公爵たちはレティシアの情報は徐々に公開していくつもりだが、ベアトリーチェが他者と接触すれば不本意な形で情報が漏れるかもしれないということでそれを好まなかった。事実上軟禁状態だったが、ベアトリーチェも出歩くような元気はなかった。

 結婚式が行われるまでの間、与えられた部屋で密やかに過ごした。そんな中、心は寂しい気持ちにずっと支配されたり、今後のことを考え不安になったり、気持ちの整理をつけようとして逆に混乱してしまったりしていた。

 暗い気持ちを少しでも払拭しようと夜には魔笛を吹いた。胸に蘇るあの人の笑顔が、言葉が、胸の奥に少し暖かさを取り戻させてくれた。

 一ヶ月後、ベアトリーチェは結婚式に招待された。フィラルドからの客人として。

 参加しようか迷った。行かないほうがいいのかもしれない。それは自分にとって辛い光景だろうから。

 でもいずれは向き合わなきゃいけないことだった。

 だから、今日それを確かめることにした。

 周りの貴族の婦人たちはそれぞれに用意できる最高の衣装を用意してきている。ベアトリーチェの衣装もそれなりの仕立てだったが、いささか地味な格好だった。カイトからなるべく目立たないように、顔は隠していてくださいと言われていた。装飾の少ない薄青のドレスをまとい、蜂蜜色の髪は背に隠し、つばつきの帽子を深くかぶり顔を隠した。

 興奮に浮き立ち笑顔で談笑を交わす人々の中、ベアトそうリーチェは一人佇み、静かな瞳で式がはじまるのを待っていた。

 話し声だけが鳴り響いていた広場に、荘厳なアンサンブルが流れ始める。

 人々のざわめきは一瞬だけ大きさを増すとやがて鎮まっていき、この日のために腕を磨いてきた楽団が奏でる祝福の音色が広場に響きわたる。

 花嫁と花婿の入場だ。

 広場に集まった皆の視線が一つの方向に向けられる。ベアトリーチェもおそるおそるそちらを見た。心が揺れ逃げ出したくなるのをこらえる。いつの間にか握り締めていたスカートにくしゃりと皺が入る。

 そして白い門をくぐり、この式の主役、花嫁と花婿が登場した。

 最初に響いたのはため息だった。それは感嘆と歓声が混じっている。広場の全てが二人の登場と共に心を感動に染められた証だった。

(きれい…。)

 ベアトリーチェは思った。

 レティシアは純白のウェディングドレスを身にまとっていた。シルクで作られたそれはレティシアの白い肌を透かすように栄えさせ、レースの飾りは彼女を美麗に飾りたてていた。布が描くラインは、彼女の美しい肢体を滑らかになぞっているのに、とても清らかでどこか儚い印象を与える。

 銀色の髪、白い肌、ドレスのシルク、似た色で揃えすぎたはずのその装いは、それぞれが違う色味の白光を反射して、その輪郭を決して失わない。

 ヴェール越しでもその美麗な容貌は見るものを魅了し、青いサファイアの瞳はどんな宝石よりも美しく彼女を彩っている。

 長く壮麗に丈を取られたスカートは歩きにくいはずなのに、彼女は気高く美しい立ち姿のまま、優雅にその歩みを進めていく。

 その姿は幻想的で、まるで物語に出てくる天使のようだった。

 アーサーさまの装いは黒いフロックコートだ。金色の髪は日の光に輝き、翡翠の瞳と共に王の端正な顔立ちを皆に見せつける。細身ながらも体は鍛えられていて弱々しさは微塵もない。黒いスーツに包まれたその姿は王の気品と風格をまわりに示していた。

 花嫁は花婿の腕に手を捧げると、互い寄り添いながら二人歩調を合わせに赤い絨毯を歩いていく。

 アーサーはレティシアをその手で導き、二人は祭壇の前までたどり着く。

 二人の結婚に祝福を授けるためにやってきた大司祭は、今日結婚をする二人に優しい笑顔を向ける。

 金色の髪と翡翠の瞳を持つ花婿、銀色の髪とサファイアの瞳を持つ花嫁、美しい容姿はどちらが見劣りすることなく引き立てあい、互いに持つ色は全然違うのに並び立つその姿は見事なまでに調和している。長身の二人は背丈も釣り合い、世界に二つとないほどお似合いの二人だった。

 ひときわ静まり返る広場に、大司祭の神への祈りの言葉が響く。

 アーサーとレティシアは手を固く結び、大司祭の前に静かに立つ。

 大司祭は祈りの言葉を終えると、目に優しい光をたたえたままアーサーへと向き直る。

「汝、花婿アーサー=エルサティン。汝はレティシア=フィルエンドを妻とし、聖なる婚姻を結び、生涯をこの女性と共に過ごし、愛し、敬い、支え、二人の命がある限り永遠に愛し合うことを誓いますか?」

「はい、誓います。」

 ずきん。ベアトリーチェは、自分の胸が痛みにうずくのを感じた。

 それでも大司祭の言葉に真剣な表情で言葉を返すアーサーさまの顔を遠くから見つめ続けた。

 大司祭はその言葉に静かにうなずくと、レティシアのほうに体を向ける。

「汝、花嫁レティシア=フィルエンド。汝はアーサー=エルサティンを夫とし、聖なる婚姻を結び、生涯をこの男性と共に過ごし、愛し、敬い、支え、二人の命がある限り永遠に愛し合うことを誓いますか?」

「はい、誓います。」

 レティシアの美しい声が、宣誓の言葉を紡ぐ。

 二人は一度互いの手を離すと、客席のほうに向き直り手を結びなおす。

 アーサーとレティシア顔を向き合わせ宣言する。

「ここに集っている人々を証人として、私アーサーは、あなたレティシアを私の正統なる妻として受け入れます。この先、幸福な時も、幸福でない時も、富める時も、貧しい時も、病める時も、すこやかなる時も神に誓いし宣誓に従い、死が私たちを分かつまではあなたを愛しいつくしみ変わらぬことをこの命にかけて宣言いたします。」

「ここに集っている人々を証人として、私レティシアは、あなたアーサーを私の正統なる夫として受け入れます。この先、幸福な時も、幸福でない時も、富める時も、貧しい時も、病める時も、すこやかなる時も神に誓いし宣誓に従い、死が私たちを分かつまではあなたを愛しいつくしみ変わらぬことをこの命にかけて宣言いたします。」

 大司祭はもう一度微笑むと、あらかじめ置かれてた美しい彫刻の刻まれた箱を開けまずは花婿に差し出す。そこに入っていたのは指輪だった。

「今日、神の名の下に私たちの厳かなる誓約に基づき成された結婚の絶えざる証として、この指輪をあなたの指にはめます。」

 レティシアの白く細い指に、アーサーの手が指輪を通す。それはしっかりと、レティシアの薬指にはめられた。

「今日、神の名の下に私たちの厳かなる誓約に基づき成された結婚の絶えざる証として、この指輪をあなたの指にはめます。」

 アーサーの大きくて力強い手。レティシアの綺麗な手が、その指を取り指輪をはめる。

 二人の指に灯った指輪の光、それはここまで届きベアトリーチェの瞳に輝きを植えつける。

 そしてベアトリーチェの瞳の先で、アーサーとレティシアは見つめあい。

 お互いに目を瞑ると、唇を優しく重ね合わせた。

 二人の姿はまるでひとつの絵画のようで、美しく、とても綺麗で。なのにベアトリーチェの胸をこんなにも痛くする。

 最後に大司祭が高らかに宣言した。

「神の名によって、あなたがたが夫婦となったことを宣言いたします。この先、この夫婦に神の多大なる祝福があらんことを。」

 そして二人の愛の誓いが終わるとともに、会場が今まで抑えていた感動に沸き立つ。

「アーサー陛下!ばんざーい!」

「レティシア王妃殿下ばんざーい!」

「アーサーさまあああああ」「レティシアさまあああああ!」

 広場は歓声に埋め尽くされた。

 国民たちが待ち望んだ王妃の誕生。しかも美しく気高いその姿に全てのものが喜んだ。

 仲睦まじく寄り添う二人は、笑顔で周りの人間に手を振っていく。

 幸せな光景。

 なのにベアトリーチェの心は痛かった。どうしようもないほどに。

 この国の王と王妃、二人の並び立つ姿は輝かしく、この国の未来を明るく照らす太陽のようだった。

 日の光に照らされ輝く二人の姿は、観客たちの影で暗く沈む自分からは果てしなく遠くに見える。

 ベアトリーチェは泣きたくなった。二人を見るほどに感じる胸の痛みに、自分の弱さと醜さに、ここにいることの悲しさに。

 それでもベアトリーチェは笑顔を作った。レティシアと友達でいたかったら。アーサーさまの少しでも近くにいたかったから。

「おめでとう、レティ。おめでとう、アーサーさま。」

 心からの言葉にはならない。でも今はこれで許して欲しい。

 これでベアトリーチェが参加できる式は終わった。

 この後、アーサーとレティシアは市民に王妃をお披露目をするパレードへと向かう。

 新しい王妃は国民から盛大な祝福を贈られた。

 そうしてアーサーとレティシアの結婚は無事に終わった。その素晴らしさは皆の口からずっと語りつがれることだろう。

 次の日、ベアトリーチェはひっそりと後宮に入った。誰に祝われることなく、誰に望まれることなく。


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