第一話 二度咲きの桜
今年から高校2年生になる僕、小塩 想 は、将来の進路や人間関係、これからの生活に対する寂しさや不安を紛らわせるため、誘い込まれるように神社を訪れていた。
京都の外れ、西山の麓にひっそりと佇む神社。
春が来ても、ここはどこか時間が遅れている。
木々に囲まれた境内と長い年月を経た社。
古くから変わらぬ景色がそう感じさせるのかもしれない。
境内には一本の桜がある。
人はそれを『千眼桜』と呼ぶ。
花が満開の期間は、たったの三日間。
それを過ぎれば、次の春までは咲かない幻のような桜───のはずだった。
「......なんで、咲いてるんだよ」
思わず足が止まる。
桜の満開は、先週で終わったはずだ。
新聞でも読んだし、なにより自分の目で見たから間違いない。
しかし、目の前には先週見た満開の桜よりも鮮やかに咲き誇っている。
まるで、時間が巻き戻ったみたいに。
───いや、違う。
”誰かの想いに応えるみたい”に咲いている
気が付くと木の下に、ひとりの少女が立っていた。
白いワンピースに光を透かすような淡い桜色の髪。
現実感がなく、まるでこの満開の桜と一緒に現れたみたいだった。
少女は、こちらに気づいていないのか、ただ静かに桜を見上げている。
その横顔に目が離せなくなる。
「......綺麗だ」
と思わず、声が漏れた。
少女はゆっくりと振り返り、春の空よりも透き通った瞳で、まっすぐ僕を見つめた。
「見つけた」
小さく、彼女はそう言った。
まるで、最初から僕を探してたみたいに。
その言葉に、なぜか心臓が強く跳ねる。
まるで、ずっと前から知っていたみたいに。
その瞬間、鳥居から吹き込む風によって、桜の花びらが高く舞い上がる。
視界が白く染まり、思わず目を閉じる。
そして、次に開いたときには、もう誰もいなかった。
ただ、満開の『千眼桜』だけが、静かにそこにあった。
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