02 へっぽこ探偵と正しさ
終わりです。
急に始まり急に終わらせてすみません。
「いやぁ~、まさかへっぽこさんがお金持ちだったとは」
「実家が太いのは言いたくなかったんだけどね。でも、自立するためにはこれくらいしないとってね」
あの行動力に納得がいった。
言われてみればあの行動力は世間知らずの行動だ。
それに服装。あれもコスプレのような格好だったが、あれを普段着にしようものならバカにされるだろう。
そういう点を鑑みると合点がいく。
……というか、探偵で食っていくつもりなのかな?
たしかにあの行動力を除けば、かなりの名探偵と言っていいだろう。
問題はどういう事件をこなすのかだ。
先日ああ言った手前、私も事件の手助けをしたいものだが……。
「ところで、私って必要ですか?」
「うん、いい質問だ。ぶっちゃけると必要ない。だが、僕は明るみに出ないものまで見据える能力がある。たまにでいいから、それが正しいか判断してくれる人は必要だと思ってね。それに、僕がいないときも同等の推理力がある人が助手に適正だと思ったんだ」
「でも、少し待ってから警察の人と協力すればいいんじゃ……」
「僕はそれが嫌なのさ。いまだに名前を教えていないのもそういう意味さ。自分の有用性を証明したい。それだけさ」
そういう魂胆か。なんというか、子どもっぽいところがあるんだなぁ。
でも、私はそういうのは嫌いじゃない。
自分の能力を示したいのは自己顕示欲と言えば少し悪く聞こえるが、私自身、そういう心は多くの人間に必要だと感じているからだ。
「それで、へっぽこさんはどんなことがしたかったんですか?」
「その呼び方はいつか変えてもらうとして……、悪いやつらを捕まえたかった! それだけさ!」
「でも、これからは悪いことをする前に食い止めるんですよね!」
「いや? それはキミが勝手にやってくれ。僕は未来くんのようにピュアではない」
「ピュアって……。べつに正義感じゃないですよ。ただの気まぐれで……」
「そういうのを正義感って言うのだよ。だいたい、綺麗ごとだけでやっていけるほど、この仕事は甘くないぞ」
「……まだ始めたばかりの癖に」
「う、うるさい! 未来くんは助手に向いていないかもしれないな」
「そうですね。ケンカしている時点で、いつか解散するでしょうしね!」
柄にもなく冷静さを欠く私。
でも、人を助けて生きていくのは当然だ。だって、人は助け合って生きているのだから。
へっぽこさんはわかってない。助け合いの重要さを。
「あのー……」
「あっ!?」
声の方向に顔を向けると、いつのまにか来客が来ていた。
「……へっぽこさんの知り合いですか?」
「いや? 僕は都会の方に知り合いはいないよ。能力も、姿を見ないと発動しないし」
「ふーん……。で、あなたはなんですか?」
「その……、お仕事の件で話があります!」
「金は?」
「はい?」
「お金だよ。僕はお遊びでやっているわけじゃないからね」
「へっぽこさん! ……あの人はほっといて、話だけでも聞きましょう!」
「は、はぁ……」
要約すると、依頼人の伊織さんは、行方不明になった兄を捜してるらしい。
「ところで、いくら出せます?」
「えーと、ローンでもいいですか?」
「はい! えーと、じゃあ10万円で!」
「は、はい。頑張って払います」
「ありがとうございます! お兄さんの写真とかお名前は……」
こうして、私だけでも話を聞いてあげた。
拗ねて職務放棄するのは、大人としてどうなんだろうか……。
◇◇◇
伊織さんが出ていった後、へっぽこさんが口を開いた。
「彼女、どんな人柄だった?」
「え? いい人でしたよ?」
「……彼女は不動産屋の社長だ。あくどい商業として有名のようだ。兄というのは嘘で、金を持ち逃げした男を探しているようだ」
「そ、そんな……」
「これでもまだ綺麗ごとが抜かせるのか?」
「…………はい! 何より、伊織さんがどんな人でも客は客です。その後のことは、そのとき考えましょう!」
「…………いい答えだ。そう。僕もそう考えていた」
「はい! へっぽこさん、視えてますか?」
「ああ。写真を見たときにな。彼は自殺しようとしているようだ。」
「えっ」
「スマホを出してくれ。彼女と連絡先を交換したのはキミだけだろう」
「は、はい……」
こうして、伊織さんにへっぽこさんが場所を指定して幕は閉じた。
後日、私の口座に10万円が振り込まれた。
「なんか、ごめんなさい」
「なぜ謝る? キミはしっかり働いてくれた。謝礼は後日振り込んでおこう」
「へっぽこさんに嫌な未来を見せてしまったかなって」
「……そうだな。だが、それが大人だ」
「じゃあこんど、私にも悪い部分を教えてください。光だけじゃ満足できません」
「無理して闇を見なくていい。キミは所詮僕の代理だ」
じゃあ本当になんで私を?
へっぽこさん……いや、探偵さんは何か隠している。
「探偵さん! 探偵さんは、どうして私をスカウトしたんですか?」
「さっき言っただろう? 僕が正しいのかどうかの指針だよ」
「……嘘ですね」
「なぜそう思う?」
「いえ、一部は本当ですが……ほんとうは私が犯罪者になるからでしょう?」
「どうしてそう思う?」
この反応からして、どうやら間違いではなさそうだ。
私は続ける。
「まず初めて会った時、助手と言ったのに名前は知らなかった。これはおそらく、私が将来雲隠れするからでしょう?」
「たしかにそうかもな。それから?」
「それから、さっきから明るみに出ないことを隠蔽……隠そうとする。これは私が闇を知って闇に堕ちるのを暗示しているから!」
「なぜだ? 闇に堕ちるのは闇を知る必要があるとでも?」
「正義の反対は別の正義……といった言葉があるように、私が闇の世界に改革を起こすから! これが一番の理由! なにより、私は闇に堕ちたらそれはもう悪だと思ってます。悪い考えに感化されない人間はいません!」
「…………未来くん、キミには気付かれたくはなかった」
「やはり……!」
どうやら本当のようだ。探偵さんは続けた。
「キミは未来で犯罪を減らすという犯罪をするんだ。それを問題視する集団がいてね、それが警察だ」
「そんな……」
他人の口から聞くとものすごくショックだった。
それにしても、警察の敵になるだなんて……、それじゃあ本当に犯罪者じゃないか。
「そして僕の助手になり、キミは僕といっしょに警察と協力。キミを捕まえるためにキミは僕と動くんだ」
「え? 絶対に捕まりっこないのに……」
「そうだ。キミが黒幕なのだからな。結果、キミは捕まらずに永久に裏社会に居座り続けるのさ。それが僕の視た未来」
「じゃあ、私は? 私を選んだ本当の理由というのは……」
「キミの監視だ。もっとも、僕個人の判断だがね」
「じゃあ……」
「だが! 僕はキミの人格に惚れ込んだのさ」
「え?」
「キミは悪い人間はいないと思っている」
「は、はい。悪い人間だって、いつか良いことをする。それなら、真に悪い人間はいない……。というのが、私の持論です」
「なら、悪い人間を見つけたら?」
「そ、それは……」
「キミは悪を見たことがない。いまのうちに矯正しておこうと思ってね」
「悪……、悪……?」
悪か。
たしかに悪はいると思う。他人を利用して自分が安全な場所から動かない悪が。
でも、それでもその悪に助けられたという人はいるだろう。
それじゃあ悪ってなんなのだろうか……?
「悪、か……」
「キミはこの答えを知っておくべきだ」
「悪……悪……! わかりました!」
「では聞こうか。悪とはいったい何だ?」
「その前に、善や正義といったものの答えを述べていいですか?」
「…………いいだろう」
「善だの正義だの、所詮は独りよがりの自己満足です。そこに意志があるのなら、それは悪でも正義です」
「ほう……」
「だから、悪とは悪人の善。悪人が正しいと思い決断した結果、それが悪です」
「……なるほどな。たしかにそうかもしれん」
「だから、悪人を見つけたら更生させるのが探偵や警察の仕事です!」
「ふっ、いいだろう。悪人の善が悪、か……」
「ありがとうございます! これで、明るみに出ない闇を見せてくれるんですね!」
「ああ。その話なんだが……、キミはまだ女子中学生だ。あと数年したら見てもいいかな」
「そう、ですか……」
「そう落胆するな。もうキミは僕の助手なのだから」
「はい! 探偵さん!」
「これからは浮気調査にその他の仕事! 山ほどやることはあるぞ!」
「はい! たまに大きな事件とかもありますよね?」
「ま、まあたまには……」
「じゃあ未遂に終わらせましょう!」
「ああ。それがキミの正義だからな! 未来くん」
「はい!」
こうして、私と探偵さんの問答は終わり。
正式に助手として働けるんだ!
この後偉大な名探偵として探偵さんは独立するけど、それはまたべつのお話。




