第96話 騎士とお姫様
俺はRINEでナイトに連絡し、水族館の休憩スペースで待ち合わせることにした。場所は人通りが少なく、静かで落ち着ける一角だった。
そこで、ナイトと姫乃さんを引き合わせた。
姫乃さんは俺たちの前に立ち、息を整えるようにしてから、まっすぐナイトを見つめた。その瞳には緊張と覚悟が混ざっている。
ナイトはその視線を受け止めながらも、少し視線をそらし、どこか複雑な表情を浮かべていた。
そして、ナイトの隣にいた愛夏は何故か俺を睨んでいた。邪魔したのは悪かったって。
「騎志」
姫乃さんがそっと口を開く。
「また会えたね」
ナイトはすぐには応えなかった。少しの沈黙のあと、目を伏せるようにして小さく返した。
「……うん。そうだね」
姫乃さんは小さく微笑む。けれど、その笑みは張り詰めた空気の中で、どこか頼りなげだった。
「ずっと、会いたかった。あなたがどうしてるか、ずっと気になってたの」
「……僕は、それなりにやってたよ。君は?」
「私も、それなりに。でも、いつも思ってた。もう一度ちゃんと話したいって」
二人の間に、少しの間が流れる。けれどその沈黙は、先ほどよりも重くも軽くもない、ただそこに在る空気だった。
「ねぇ、騎志は、私のこと……嫌い?」
姫乃さんの声は、ほんのかすかに震えていた。
ナイトはその言葉に視線を落とし、ゆっくりと首を横に振った。
「嫌いじゃ、ないよ」
その表情は教室でよく見るようないつもの笑みだった。
「……本当に?」
「ああ。本当だ」
姫乃さんは小さく息を呑み、目を潤ませた。
「私ね、騎志のこと……ずっと好きだったの。昔も、今も。いろんなことがあったけど、それだけはずっと変わらなかった」
ナイトの肩がぴくりと揺れた。その反応に、姫乃さんはさらに一歩踏み出すように言葉を紡ぐ。
「たぶん、私たちはちゃんと話さなきゃいけなかった。あの時、気まずくなったまま離れちゃって……でも、私はそれがずっと心残りだったの」
「僕も、そうだったかもしれない」
ナイトの声は低く、何かを堪えるような響きを持っていた。
「じゃあ、もう一度だけ。ちゃんと、私と向き合ってくれない?」
姫乃さんの言葉は真っ直ぐだった。ナイトはその目を見つめ返し、しばらくの沈黙ののち、ゆっくりと頷いた。
「……わかった。ちゃんと、向き合うよ」
その言葉に、姫乃さんの表情が一瞬ほころぶ。
まだぎこちない。でも、ようやく動き出した何かが、そこにはあった。
「また一緒にいらるね」
「あ、ああ……そうだね」
ナイトはそこで言葉を詰まらせた。幼馴染との再会。そして、和解。
経緯は俺とヨシノリの間にあった出来事と同じはずなのに、どこかぎこちない。そんな気がした。
「ナイト先輩。それでいいんですか」
そんなとき、いい感じの雰囲気を引き裂くような一言が俺の妹から発せられた。