第92話 ラッキースケベの呪い
最後はヨシノリと周る番がやってきた。
「ついにあたしの番ね!」
喜屋武と別れてヨシノリと合流すると、彼女は待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「待たせたな」
「ホントよ、もう」
俺はヨシノリと一緒に進み、幻想的な光が揺らめくクラゲの展示エリアに足を踏み入れた。
青い光がゆらめく大水槽の中、無数のクラゲがふわふわと漂っている。
「おお……」
透明な体は淡い光を受けてほんのりと輝き、光の加減によって、クラゲたちの輪郭は時にくっきりと浮かび上がり、時に溶けるようにぼやけて消えていく。
その神秘的な姿に、時間の感覚を忘れそうになる。まるで水中にいるかのような、不思議な静寂が広がる空間だった。
「クラゲって、見てると時間忘れそうだよね」
ヨシノリが水槽に顔を寄せながらつぶやく。夏の天気よりも涼しい水族館の空気。それでも水槽の光にてらされたヨシノリの白いワンピースは満烈に夏を感じさせた。
「ああ、ずっと見ていられる感じがするな」
そんな風にのんびり眺めていたそのとき、ブラックライトヨシノリの姿を照らした。
「うおっ……」
ヨシノリの白いワンピースがブラックライトの光を受け、ぺかーっと下着が浮かび上がってしまっていた。
暗い館内の中で下着だけが光り輝く光景は、なんというか……かなりいかがわしい。
「ヨシノリ。これ着とけ」
「え、な、なに……」
俺は迷わず自分の上着を脱ぎ、ヨシノリの肩に素早く掛けた。
「っ!?」
ヨシノリは一瞬驚いたように俺を見上げたが、すぐに状況を察して顔を真っ赤に染めた。
「カナタ、その……ありがと」
「気にすんな。クラゲを見るのはこれくらいにして次行くぞ」
俺は努めて平静を装いながら言って、ヨシノリの手を取り、その場を速やかに離れた。
「そのワンピース。ラッキースケベの呪いにでもかかっているんじゃないのか?」
「うっ、そういえば前にもカナタの家で裸でうろつく羽目になったときも、これ着てた……」
俺とヨシノリが再会してすぐの頃。
ヨシノリはあのときも、この白いワンピースを着ていた。
トラックのせいで服が濡れ、俺の家で乾かしている間に、裸でうろつく羽目になってしまったのだ。そのときのヨシノリの姿が脳裏に過ぎり、邪な感情が瞬時に膨れ上がる。
だが、それも少し経てば簡単に収まる。この感覚にもだいぶ慣れてきたところだ。
「白い服は透けやすいしな……今度から気をつけろよ」
「カナタってこういうとき、いつもさりげなく助けてくれるよね」
「小学校のときに似たようなことがたくさんあったからな」
「むっ、そんなことないでしょ」
ヨシノリは頬を膨らませて抗議するが、その仕草すらどこか子供っぽくて、俺は思わず肩をすくめた。
「まあ、こういうのも思い出ってことで」
ヨシノリは少し戸惑ったように俺を見つめた後、小さく頷いた。
俺たちは、ゆっくりとクラゲの水槽のエリアを後にした。




