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第83話 女子風呂トーク

 お兄ちゃんの誕生日パーティーも終わり、由紀ちゃんが立ち上がった。


「ねえ、そろそろお風呂行かない?」

「いいね! そろそろ風呂入りたかったさー!」


 喜屋武さんが即座に賛成する。


「私も行きたいです」


 アフロディーテさんも穏やかに頷いた。


「愛夏ちゃんも一緒にどう?」

「うん、行く行く!」


 四人で大浴場へ向かう。脱衣所に入ると、私たちは服を脱ぎ始める。

 私はTシャツを頭から脱ぎ、次にスカートのボタンを外して下ろして下着姿になる。

 自分の体を見ると、やっぱり胸は小さくて平らなまま。少しだけため息をついた。


 横を見ると、由紀ちゃんはポニーテールをほどいて長い髪が肩に流れ落ちていた。

 そして、ブラを外した瞬間、ばるんっと胸が弾けるように現れ、全体的にムチムチとした肉付きのいい身体が露わになる。


「だいぶ伸びてきたし、また整えないとなぁ」


 由紀ちゃんはそう呟きながら、器用に髪をタオルで包んだ。


「はぁ~、開放感ですぅ……」

「うっわ」


 アフロディーテさんがブラを外したときの光景は筆舌に尽くしがたい。

 あまりにも大きな胸が現れて、私は思わず目を見開いてしまう。私の関東平野とは違って立派な富士山がそこにはあった。


「ささ、お風呂っ、お風呂~」


 喜屋武さんは早々と服を脱ぎ捨て、ロッカーに放り込んでいた。

 引き締まった身体に、水着の日焼け跡がくっきりと残っている。筋肉質だけど女性らしいカーブもあって、とても健康的だ。


 ……何でお兄ちゃんの周りには、こんな美少女たちが集まっているのだろうか。


 全員揃って大浴場の扉を開けると、広々とした空間が広がっていた。湯気がほわんと立ち込め、石造りの湯船が魅力的だ。

 裸の私たちの姿が丸見えになって、私は思わず自分の体を見比べてしまう。


「はは……皆さん、素晴らしいスタイルをお持ちのようで……」


 自分の平らな胸と華奢な体つきと比べると、アフロディーテさんの大きくて形の整った胸も、由紀ちゃんの全体的にムチムチでバランスのいい体も、喜屋武さんの健康的な身体付きも、別世界の生き物のようだ。


「えっ、そ、そんなことないですよ……」


 アフロディーテさんが両腕で胸を隠すようにして恥ずかしそうに言う。


「あーもう、愛夏ちゃんはいつもそうやって大げさなんだから」


 由紀ちゃんはサバサバとした様子で言った。彼女は自分の体を特に隠そうともしない。

 喜屋武さんは無邪気に湯船に向かって歩いていく。彼女の背中と腰のラインがきれいで、細いウエストから広がるヒップラインも美しい。

 日焼け跡の境界線が肌の色の対比を強調していて眩しい。


「いやいやいや! このスタイルは反則でしょ!? お兄ちゃん、よく平気で話せるね! やばいって!」


 自分の華奢な体型と平らな胸を無意識に腕で隠しながら、私は叫ぶ。

 そんな私の反応にアフロディーテさんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「そんなに驚かれると、余計に恥ずかしいんですが……」

「気にしなくていいよ、あーちゃん。愛夏ちゃんって割といつもこうだから」


 由紀ちゃんが笑った。

 みんな体を洗い終わると、四人で大きな湯船に浸かった。

 私も少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと息を吐いた。

 それでも、湯面から見える自分の小さな胸の膨らみと、アフロディーテさんの豊満な胸、由紀ちゃんの整ったプロポーション、喜屋武さんの引き締まった身体の対比に、ため息が出る。


「はぁ……気持ちいい……」

「はい。こうしてゆっくりお風呂に入るの、久しぶりです」

「本当、たまにはこうやってのんびりするのもいいよね」


 由紀ちゃんが湯舟からお湯を掬いながら笑顔を浮かべる。


「いやー、やっぱり風呂は開放的にいくのが一番さー!」


 喜屋武さんが湯船に大きく手足を広げて浸かりながら言った。何の躊躇もない彼女の姿に驚く。


「ちょっと、鳴久! マナー違反だよ!」

「わわっ、キャンちゃん。丸見えですって!」

「開放的過ぎるでしょ」


 私が突っ込みを入れると、由紀ちゃんも呆れ顔になる。それでも彼女は笑っていた。


「せっかくだし、恋バナでもするさー?」


 喜屋武さんがいきなり切り出した。


「いきなりですね!?」

「まあ、確かに旅の定番ではあるけども……」


 その言葉に、私とアフロディーテさんも顔を見合わせる。


「誰か気になる人とかおらんのー?」


 喜屋武さんが湯船に肘をつきながらニヤリと笑う。


「えっ!? それは……」


 アフロディーテさんが頬を赤らめながら視線を泳がせる。


「ほうほう、こりゃーしに怪しいさ!」


 そのとき、由紀ちゃんの表情がほんの少し曇ったような気がした。お兄ちゃんのことを考えているのだろうか。


「ち、違います! そんなんじゃ……!」


 大変遺憾なことに、この巨乳の女神佐藤アフロディーテさんはお兄ちゃんに惚れているらしい。

 幼稚園のときから初恋拗らせている由紀ちゃんからしたら、アフロディーテさんみたいな魅力的な女の子がお兄ちゃんを好きになっちゃったなんて気が気じゃないだろう。

 牽制の一つでもすればいいのに、由紀ちゃんはそういうのできない性格だからなぁ。

 仕方ない。ここは未来の義姉のために助け舟を出すとしよう。


「そういう喜屋武さんはどうなんですか?」

「へあ!?」


 私の指摘に喜屋武さんは素っ頓狂な声を上げる。


「言い出しっぺの法則ですよ。さあ、どういう人がタイプなのか答えてもらいましょうか!」


 私がずいと迫ると、珍しく照れた表情を浮かべて喜屋武さんは頬を掻きながら告げる。


「えっと……うちなーぐち大事にしてくれて、やり直すチャンスくれて、わんが困っとーときに助けてくれるよーな人かな……なんて」

「んんー?」


 はて。最近聞いたような話だ。

 ふと、由紀ちゃんの方へと視線を向けてみれば、あんぐりと大きな口を開けてバカみたいな顔をしていた。


「すごく素敵な人じゃないですか! なんかキャンちゃんに親近感が湧いちゃいます!」


 そして、この天然巨乳美少女は事の真相に気づくこともなくテンションが上がっている。


 あれれー、おかしいぞー。助け船を出したつもりだったのに、出港した途端に沈没しちゃった……タイタニック号のほうがまだマシなレベルだ。


 おかしい。楽しいお風呂での女子会のはずが地獄に変わってしまった。どうしてくれるんだお兄ちゃん。責任取って由紀ちゃんと結婚しろ。


「……そういえば、小学校のときにカナタが惚れた子ってみんなあたしの友達だったような」

「何その情報。初耳なんだけど」


 あの愚兄。由紀ちゃんが隣にいたのに、普通に他の女の子好きになってたの!?


「えっ、カナタ君って人を好きになることあるんですか!?」

「あの執筆マシーンのカナタンがや!?」


 好きな人への評価とは思えないくらいひどい言われようである。しかし、妥当だ。

 それにしても、お兄ちゃんに人を好きになった時期があるとは意外だ。それも由紀ちゃん以外で、だ。


「カナタだって、昔は執筆マシーンじゃなかったの。ただの読書が好きな大人しい男の子だったし」


 思い出話ができるからか、由紀ちゃんは笑顔を取り戻して話し始める。


「カナタとはずっとクラスが一緒でね。何をするにしてもあいつとは一緒に遊んでたんだ」


 水面を見つめて由紀ちゃんは穏やかな笑みを浮かべる。


「でもね。昔のあいつ、マジで惚れっぽいっていうのかなぁ……あたしと仲が良かった子は自然とカナタとの接触が増えるからそれで惚れちゃうのよね。みんなあたしと違って可愛かったし……」


 そのまま由紀ちゃんは湯舟に沈んでブクブクと泡を立てる。さっきまでマナーがどうの言ってた人とは思えない行動だ。


「ま、毎回こっぴどく振られてたんだけどね!」


 由紀ちゃんは、ぱぁと明るい表情になって湯舟から立ち上がる。わーお、ムチムチボディが丸見えだ。


「それって……いや、やめとこ」


 私は咄嗟に口を噤む。

 その推測を口にするのは、おそらく由紀ちゃんを傷つける可能性があったからだ。


「愛夏ちゃん、どうしたの?」

「いやいや、本当に何でもないから」

「気になるじゃん」


 うーん、これを言っていいものか。


「あのさ。由紀ちゃんの友達ってみんな可愛かったんだよね?」

「うん」

「それで、みんな由紀ちゃんと仲良かったんだよね?」

「そうだね」


「それってさ……いつも由紀ちゃんと一緒にいるお兄ちゃんから告白されても、遠慮しちゃうんじゃないかなって」

「ひゃえ?」


 由紀ちゃんはパチパチと目を瞬かせる。今はお風呂だから珍しくトレードマークのオレンジ色のアイシャドウはしていない。


「その、言いづらいんだけどさ……お兄ちゃんが小説以外で自分自身に価値を感じていないというか、自己肯定感が低いのって、こっぴどく振られ続けたからなんじゃ……」

「えっと、もしかしてあたしのせい?」


 由紀ちゃんの言葉が静まり帰った浴場に反響する。アフロディーテさんも、喜屋武さんも、何とも言えない表情を浮かべて黙り込んでいる。


「たぶんだけどね」


 そして、おそらくだけど由紀ちゃんと疎遠になった大きな理由。

 元々惚れっぽかったお兄ちゃんが、可愛くなった由紀ちゃんに惚れないわけがない。

 だけど、今までの経験から自分なんかは絶対振られると思うだろう。


 もし振られてしまえば、二度と関係を修復できない。


 由紀ちゃんとの思い出を大切にしていたお兄ちゃんにとって、それは耐え難い苦痛だったはずだ。

 だから一旦距離を置こうとした。そして、そのまま戻れないまま高校入学前の春休みを迎えたわけだ。


 当然、執筆マシーンと化したお兄ちゃんは、由紀ちゃんへの恋心どころか、感情や人間味も失ってしまった。


「なんか納得したよ。お兄ちゃんが執筆マシーンになったのって、由紀ちゃんが原因だったんだね」


「み゛」


 由紀ちゃんは衝撃の事実に脳がキャパオーバーを起こし、奇声と共に湯船に沈んだ。

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