第81話 そういうのは由紀ちゃんにやれー!
次に手渡されたのは、愛夏からの小さな包み。包装紙の端を丁寧に剥がしながら、俺はちらりと彼女の方を見る。どこか落ち着かない様子で、そわそわと視線を彷徨わせている。
「開けてみてよ」
促されるまま包みを開くと、中から現れたのは一本のボールペン。
シンプルなデザインながらも洗練された作りで、手に馴染むちょうど良い太さだった。
キャップを外し、試しにノートの片隅に線を引いてみる。ペン先がスムーズに紙の上を滑る感覚が心地よかった。
「書きやすいって評判だったから。兄ちゃん、よくノートにメモとかするでしょ?」
愛夏がそう言って、少し誇らしげに胸を張る。
「ああ、確かに。こういうの一本あると助かるな」
ボールペンは基本的に消耗品で、高いのは買ったりしない。だからこそ、プレゼントとしていいやつをもらうと嬉しくなる。初めての経験に心が温かくなるのを感じた。
俺がペンを手の中で転がしながら感触を確かめると、愛夏はどこかほっとしたように息をつく。
「やっぱね。お兄ちゃんが喜ぶものって大抵こういう実用性のあるものだもんね」
「ありがとう、愛夏。大事に使わせてもらうよ」
素直にそう伝えると、彼女は少し照れたように頬をかいた。
「それなりに役立ててよね!」
そう言いながら、彼女は俺の手元をちらりと見つめる。その視線に気づいて、俺はペンを持ち上げる。
「何だよ。そんなに選ぶの、大変だったのか?」
冗談めかして聞くと、愛夏は少しむっとした表情を見せた。
「そりゃ、色々迷ったよ。最初はノートとかも考えたけど、お兄ちゃんのことだから《《書く》》もののほうが喜ぶかなって……で、文房具屋でこのペンを試したら、すごく書きやすくてさ」
彼女は腕を組んで得意げに語る。なるほど、しっかり考えて選んでくれたんだなと思うと、余計に嬉しくなった。
俺は誕生日のときは親に、いらないものをもらっても困るから図書カードか現金をくれと言っていた。思えば、かなり捻くれた子供だったと思う。
当然、愛夏から何かをもらった記憶もなければ、あげた記憶もない。
「愛夏、こういうの選ぶの得意だもんな」
「……まあね!」
照れ隠しなのか、彼女はふいっとそっぽを向く。
一周目における愛夏との関係は良好なものとは言えなかった。
俺が読書や執筆に掛かり切りで構えなかったこともあり、彼女は長い間俺に反発していた時期もある。
それがこの二周目では、こうして誕生日にプレゼントを選んでくれるほどに距離が縮まったことを思うと、感慨深かった。
「本当に、ありがとうな」
俺がもう一度言うと、小学校のときのように愛夏の頭を撫でた。
なんだかんだで寂しがりなこいつは、こうするといつも上機嫌になったのだ。
「そういうのは由紀ちゃんにやれー!」
「なんであたし!?」
顔を赤くして叫ぶ愛夏だったが、俺が撫でるのをやめるまでこの手が振り払われることはなかった。