第80話 高額なプレゼントはちょっと
「はい、これ。誕生日プレゼント」
「えっ、プレゼントくれるのか」
「誕生日って言ってんでしょうが。ほら!」
一番に差し出されたのはヨシノリのプレゼントだった。
「これって……」
「これでもっと集中して執筆できるでしょ?」
リボンのかかった箱を開けると、黒くてスタイリッシュなデジタルメモ――ポメラが姿を現した。
「おいおいおいおいおい!」
この時代のポメラは俺が未来で使っていたものよりかはかなり型が古い。それでも、俺にとっては相棒のような存在だった。
「マジかよ! ポメラって、お前最高かよ! ずっと欲しかったんだよ、マジですっげぇな! うっひょー! これで執筆がもっと捗る!」
「あっはは! 喜んでくれてよかった!」
俺はポメラを手に取り、その重みを確かめるようにじっくりと眺めた。懐かしさと嬉しさが込み上げてくる。未来では当たり前のように使っていたものが、この時代ではまだ珍しい存在で、こうして手に入れるのが夢だったことを思い出した。
「か、カナタがこんなに喜ぶところ初めてみた……」
「三次選考通過しても淡白な反応だったってのに」
「うふふっ、カナタ君。クリスマスのときの子供みたいです」
アミが優しく微笑み、みんなもつられて笑う。俺は照れくさくなりながらも、これが仲間たちとの時間だと改めて実感した。
「こいつは俺の相棒だ――ん?」
そこでふと気がつく。
未来での最新モデルのポメラの値段は2022年に出たもので54,800円だ。社会人にとっても十分高い代物である。
たとえ十年前の型だとしても、そもそもポメラとは高いものなのだ。少なくとも高校生が買おうと思ったらそれなりに覚悟がいるだろう。
「な、なあ、ヨシノリ……これ、いくらだった?」
「さ、さあ、いくらだったかなー」
ヨシノリはこひゅっと鳴らない口笛を吹きながら視線を明後日の方へと向ける。
みんなの視線が俺とヨシノリの間を行き来する。
「ちょ、うっそだろ!?」
ゴワスが値段を調べたらしく、スマホの画面を見ながら驚きの声を上げる。
「37,800円!? 誕プレの額じゃねぇだろ!」
『たっか!?』
その場にいた全員がヨシノリを見て一歩後ずさる。彼の誕生日プレゼントの金額が明らかになった瞬間、場の空気が一変したのだ。
「えっ、何?」
みんなの反応にヨシノリは困惑したようにキョロキョロと辺りを見渡した。
「拗らせ激重女……」
ボソッと愛夏がそんなことを呟く。
ナイトがため息混じりに肩をすくめ、アミが苦笑いを浮かべる。
「まあ、その、なんだ……とにかく、ありがとな」
「なんか釈然としないんだけど!?」
どこかぎこちない俺の言葉にヨシノリは不服そうに叫ぶのであった。
決めた。ヨシノリの誕生日は盛大に祝わせてもらうとしよう。